▽ 重い夜明け（鯉伴side）
『おめおめと…!
よくもあの子の前に顔出せたわね!!』
「うおっ…!?」
そう言って兄貴に斬り掛かる夜の鯉菜。
兄貴の方は体がまだ馴染んでないのか…もしくは戦い慣れしていないのか…動きが全くなっていない。
「…仕方ない。手助けをし…」
「おいおい、水を差すような真似はよせよ」
「くっ…奴良鯉伴…!!」
鯉菜に何かをしようとする泰具に、オレも斬り掛かる。リクオが来てくれたおかげで、さっきまでの窮地が嘘のように形成逆転だ。
泰具を相手しながらも、チラッと横を見れば…
『アンタが…アンタがあの子を苦しめたんだ!!
この世に産まれても、あの子はずっとアンタや家族のこと気にかけて生きてきたのにっ…! 忘れた事なんて一度もなかったのに…!!
いつまであの子を苦しめるんだよっ!!』
「…二重人格か?
…よく分からねぇが…、この体は先生のだろう!?
傷付けていいのかよ!!」
憎しみと怒りに駆られ、荒々しく攻撃を仕掛けている夜の鯉菜。
あのままじゃ…まずい。
鯉菜の傷口からはどんどん血が流れ出ており、時折吐血までしている…早く終わらせなければ命を落としかねない。
一方、先生の体にも傷がどんどん増えていくが、どれも過擦り傷程度なもの。致命傷や動きを封じるような攻撃はしていない。
…いや、しないんじゃねぇ。できねぇんだ。
昼のあいつが…先生を慕っていることを知っているから、だから夜は先生を殺せないんだ。
どうしたもんかと、泰具を相手しながら思い巡らせていればー
「あ! いたいた〜! 何遊んでんのー?」
「…有行!! 何故ここに…!!」
白い浄衣を着用し、有行と呼ばれた子供が木の上に座っていた。また新たな敵だろうかと構えていれば、リクオが「さっきの野郎だ…!」と眉を寄せてガキを睨みつけている。どうやらここに来る前に面識があったようだ。…にしても…ヘラヘラとした野郎だな。
「まったく…遊んでないで帰ろうよー!
ボクもう飽きちゃったー」
その有行というガキはため息を吐きながら２本の指を前に出し、五芒星の印を…有行と兄貴、泰具の3人の所に出す。その五芒星が輝きを増すにつれ、薄くなってゆく3人の姿…
「もう…皆待ってるんだよ、ぼくお腹すいたー」
「…フン、今日のところはここまでか。
有行に感謝しろ…次に会った時は、吾輩が貴様らを消してやる。」
緊張感の欠片もない有行に次いで、泰具も姿を消す。
そしてー
『ま、待てっ!!』
「…妹に伝えておけ。
1人だけ幸せになんかなれると思うな…ってな。」
鯉菜の言葉に、そう言葉を返す兄貴。
消え去った3人に…先程までの喧騒が嘘のように静まり返る。
『…くそっ!
…あいつだけは……絶対に…!!』
誰もが言葉を呑む中…
刀を地に突き刺して、低い声で呟く夜の鯉菜。
小さい声だったが、
その重苦しい言葉が静かに…
奴良組の夜明けに響き渡った。
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