▽ 揺らぐ関係
「本来の目的は…貴様と戦うことじゃない。
貴様に地獄を贈ることだ…
晴明様の命によってな。」
『安倍晴明の…命令…。
つまり、あいつがアンタを私に遣わしたってこと?』
戸惑う私に、泰具は憎たらしい笑みを浮かべる。
「そうだ。…もうすぐだ、あと少ししたら、時は満ちる!! そうしたら貴様ももう終いだ!!」
仮面で見えないが、きっと大口を開けて笑っているのだろう。泰具の不気味な笑い声が屋敷中に響き渡る。
そこへー
「な、なんだぁアレ?」
「デカいぞ、巨人か!?」
突如、本家全体に落ちる大きい影。
原因のもとを見れば…恨みにのまれた山ン本五郎左衛門がいた。
《うらめしや…奴良組…三百年分のうらみ…》
奴良組への恨みを言いながら、それは歩を進める。
そしてついに…
「ウワァア…ほ、本家が…!!」
本家を潰しにかかる山ン本。崩れる建物に…屋内に居る身動きの取れない者を、慌てて屋内から出す。
「…っぶねー…全員無事かい?」
お父さんはカナちゃんと清継を、おじいちゃんは巻と鳥居を、そして私は先生を外に何とか連れ出す。
「わぁあ…!!」
「な、何あれ!?」
怖がる清継とカナちゃんの先には、未だ建物を壊していく山ン本が…。
「…しつけぇ野郎だなぁ…江戸ん時もあんな風にして恨みで暴走してたのに、懲りねぇ奴だな」
そう言うお父さんの顔を見れば、鋭い目付きで山ン本を睨みつけている。
これは…結構怒ってる顔だな。
無理もない…こいつが元凶で乙女さんもお父さんも苦しんだし、それにリクオだって今現在大変な目に合ってるんだ。
『…おじいちゃんは皆の指揮して、お父さんは皆についてて!!』
「お、おう…!!」
「…分かった。」
急に大きな声で言ったから驚いたのだろうか…吃驚した顔をしながらもおじいちゃんは頷いて、皆に指示をしていく。お父さんもカナちゃん達の傍に立っている。
…私は泰具を倒さなければ…どこに消えやがった?
いつの間にか見えなくなった奴の姿を求めて、キョロキョロと辺りを見渡すものの見当たらない。
その時ー
「 時は満ちた 」
突如…真後ろで聴こえた泰具の声に、慌てて扇を振るいながら後ろを向く。
しかし、いる筈の泰具はいなく…
「あ、危ないっ!!」
「先生が…っ!?」
「お姉さんっ!!」
私の背後で聴こえる皆の声に、冷や汗が一気に噴き出すのを感じる。
ー 罠か…!!
私を後ろに向かせて…その間にこの子達を狙うつもりだったんだ…!!
早く助けないとっ…カナちゃんや清継達…そして何より、先生がっ…危ない!!
慌てて先生達のいる方を見ようとするが…スローモーションのように全てがゆっくりと見え、なかなか思うようにいかない。
思い出すのは、先生の言葉の数々…
“オレは…お前の担任だ!!”
“妖怪だとかそんなのどうでもいい! ”
先生の言葉1つ1つに何度救われただろうか…
嬉しくて嬉しくて…
“坂本先生を護ろう“
“人のいいこの先生に救われる人が、
きっともっといるはずだ”
先生を守ろうと…私は強く誓ったんだ…
なのにー
鉄みたいな臭い
薔薇の花びらみたいな赤色
抉れるような肉の感触
『…う…そ………』
“オレとお前のこの…
先生と生徒の関係は
ずっと変わらねぇからな!!”
『先…生…!』
胸に刺さっているのは…見覚えのある護身刀…
“オレは…お前の味方だ!!”
『あの…言葉は…嘘、だったの……?』
刺されたのは、先生でもお父さんでも…カナちゃん達でもない。
他でもない…私で、
胸に刺さったその護身刀…
ーその柄を握っているのは、坂本先生だった。
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