▽ 2人の救世主
場所を移し、大広間。
「どけどけ!」
「おーいこっち!!」
「怪我人だぞー」
ドタドタと慌ただしく走り、ワイワイと忙しく騒ぐたくさんの妖怪。その妖怪まみれの中に数人の人間が紛れ込んでいる。
「清継くん…」
「…くそー、圓潮の言霊だってきっと完全じゃないはず。現に普段の奴良くんを知ってるボクらには言霊は効いてないんだ…!!」
『とか言って、最初は惑わされたんじゃねーの?』
「う…! どうしてそれを!!
で、でも直ぐに気付いたからいいんだよボクは!!」
パソコンで、リクオを撮影した動画をアップしたりして頑張る清継。さっきから掲示板などで皆に真実を語るものの、なかなかその話を信じてもらえないのだ。
「真実しか伝えることしか出来ないけど…少しでも可能性があるのなら、それをボクらはやるしかない!!」
清継の言葉に、巻は兄に電話すると言い、先生も友人に声掛けをすると携帯を取り出す。そんな様子を見守っていれば、おじいちゃんが小声で何かを囁いてくる。
「おい…保護とはいえ、
この子ら家に入れて大丈夫なのかい…(コソッ」
『? 大丈夫でしょ。リクオが家に入れるように言ったんだし…それに妖怪ってもうバレてるからね。もう隠すことは何もない。』
「そういうもんか?
…とりあえず、アメでも食うかい? アメー」
気にしないように決めたのか、今度はくるっと清継達の方を向き、ニカッと最大の笑みを浮かべて言うおじいちゃん。
だが、その誘いはむなしくもー
「いりません!!」
『…ぶふっ!!』
「…ククッ…見事にフラれたなぁ、親父。」
「テメーらなぁ……」
清継の素晴らしい断りに、つい笑ってしまう私とお父さん。
『仕方ないよ、だってそのアメ不味いもん』
「あぁ、仕方ねぇな。つぅかまずいアメをやんなよ…」
おじいちゃんを弄っていれば、清継が慌てたように弁解する。
「おじいさん、すみません! そんな気分にはなれないんです…! 奴良君が…あんなに傷だらけになってボクらを守ろうとしてるのに…こんな有り様じゃあボクは…ボクはもどかしい!!」
…うん!
別にいいけどさ…私は含まれてないんだね!
別にいいけどね、うん!! 全然気にしてないよ!!
『だって私はそこまで頑張ってないもんね…!』
「…って、ああ!?
そ、そういうわけじゃないんですよ!? お姉さん!!」
『いや、いいんだ。私よりも実質リクオの方が傷だらけになって頑張ってるし…うん。むしろリクオにばっか無茶させて申し訳ない…』
ちょっとサボっていると言われている気がして罪悪感なぅ。
だが、
「…オレは奴良のおかげで助かったけどな。お前があん時助けてくれなきゃぁオレは多分…今頃胃液に溶かされていただろうしな。」
『先生…っ!』
先生の言葉に、少し心が軽く感じるのを感じる。
それと同時に…
「一応女なのによ、臭くなってでも頑張ってくれてるじゃん!」
『…先生…。』
先生の言葉に、一瞬感動した先程の自分を殴りたい衝動にかられる。臭いことを思い出させるなっていうか…やっぱまだ私臭いの!?
そんなやり取りを終わらせるかのように、おじいちゃんが口を開く。
「フーム…しかしこのままじゃいかんのう。ワシらの力が弱まるかもしれん。どうじゃ、噂には噂…リクオ死亡説なんかどうじゃ?」
「あ!! それ流したら噂も消えるかも!?」
「き、効くかなぁ〜?」
「何もやらないよりマシかも…」
おじいちゃんの案に賛否両論の声があがる。
そんな清継達の姿を見て、お父さんが頬を緩ませてゆっくりと語る。
「…まっ、その気持ちだけでもリクオは充分だろうがな。それよりも…もどかしいのはアイツの方だろ。アンタらや人間たちを巻き込んだことがな。
奴ぁー
〈人にあだなす奴は許さねぇ〉
そう言ってこの組を継いだんだからな!」
その表情は本当に幸せそうで、良き友達を持ったリクオに心から喜んでいるようだった。
「リクオは…いい友達に恵まれたな」
『………うん』
お父さんとおじいちゃんと一緒に、切磋琢磨して噂を何とかしようとする皆の姿を見守る。
『(ちょっぴり…羨ましいなぁ、なんて…)』
リクオにこんないい友達がいるのは、自分の事のようにとても嬉しいけれど…
でも、どこか羨ましいと感じてしまう自分の心につい…醜さを感じてしまう。
そんな事を思っていればー
「な、なんだなんだあー!?」
「敵襲だーっ!!」
「ヒエー!? 何だこの量はー!?」
ザワザワと妖怪たちが騒ぎ出したかと思いきや、多くの妖怪がなだれ込んで来た。
『カナちゃん達は下がってまとまってて!!』
「おおおおお前ら!! 安心しろ!!
オレが守ってやるからな!!」
『いやアンタも下がれ、先生!!』
まとまって部屋の中央に座るカナちゃん達、そして皆を守るようにその傍らに立つ先生。カッコイイ心意気だけどめっちゃ震えてるじゃん。
『…そうだ、せめてこれを持っててください。先生を含め、この子達は私が責任をもって護りますが…一応、念のために。』
そう言いながら、先生の手に私の護身刀を持たせれば…
「…はぁ!? オレ刀とか使ったことねぇぞ!?
つかオレがこれ持ったら奴良が戦えねぇじゃねーか!!」
刀を慎重に持ち、焦ったように言う先生。
『大丈夫です。私には鉄扇と銃もありますので!』
「…お前…普段からそれ全部持ち歩いてたのか!?
校則どころか法律破りまくりじゃねぇか!!」
そんな先生のツッコミを無視し、やってきた敵を倒そうとすれば…先に戦い始めていたお父さんが混乱気味に疑問を口にする。
「? こいつら…妖怪じゃねーぞ」
『え…?』
その言葉に、さっきお父さんが葬ったはずの妖怪を見れば…
「バラしてもくっ付いて復活する…
かと言ってー」
『じゃあ…明鏡止水〈桜〉!!』
「………燃やしても…ダメか。分裂して増えるな。妖怪だったら、こんな事起らねぇぞ。」
「…式神…とかなら、操ってる本体を倒さないけんのう… 」
ポツリとそう洩らしたおじいちゃんの言葉に、嫌な考えが頭をよぎる…
式神を操ると言えば、陰陽師だ。でも花開院は今はもう味方であるため…違う筈。
となるとー
『(…花開院以外の陰陽師…)……御門院…?』
新しい噂は「2人の救世主」とあった…1人は青行燈のことで、もう1人はー
「…見つけたぞ、〈偽りの娘〉」
不気味な仮面に隠された顔、
「吾輩は12代目・御門院泰具。
貴様に…地獄をみせる者だ。」
黒い浄衣を着用する黒装御門院の12代目だった。
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