この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ


▽ 来たる日がきた

『ふぅー…』


食った食った。夕食わずでお腹が文字通りパンパン。着物の帯が半端なく苦しい。


「腹出てるぞ。」


失礼な、いや、事実だけれど。


『乙女になんてこと言うの…っ!』

「お前は乙女って柄じゃねぇだろ…」

『よく分かってんじゃん。褒めてつかわす。』

「見た目は乙女なのにねぇ…中身がどうしてこうなったんだか。」

『しっかりとお父さんの遺伝を引き継いでるわね』

「うるせぇ」


スパンと頭を叩かれるが気にしない。私の心は鋼なんだ。いつかダイアモンド魂の王女に、俺はなる!


「おとうさ〜ん!おねえちゃ〜ん!」


まぁ、なんて可愛い子なのかしら。攫っちゃいたいくらい!


「おーぅ、どうした?」

「今日ねぇ!お月様がすっごくきれいだよ!」

『そうなの?…あ、本当だ。キレイ…』

「でしょー!?それだけー!」


それだけかい!
まぁ、可愛いし月が本当に綺麗だったから許す!


「…リクオ!鯉菜!今から出かけるぞ!」

「やったー!行こ行こ!」

「せっかくお月様がこんなに輝いてんだ。夜の散歩でもしながら楽しもうぜ?」

『護衛は?』

「そう遠くには行かねぇから大丈夫だろ。俺が守ってやるから安心しな。」

「ねーえー!早く行こーよー!」

「鯉菜は行きたくねぇのか?」

『! 行くよ勿論!でもちょっと待ってて!寒そうだから上着着てくる!』


そう言って部屋に戻る。
寒そうだなんて嘘だ。
ただお父さんに貰った木刀を取りに来ただけ。
今日じゃないかもしれないけど、今日かもしれない。木刀を腰に差し、その上から上着を羽織る。木刀と言っても子供用に作られてあるため小さくて軽い。だから簡単に木刀は上着に隠れてしまった。


『おまたせ!』


急いで戻り、3人で家を出た。
本家の皆は誰も気付かない…知っているのは空に浮かぶお月様だけだ。








『リクオ!あまり一人で遠くに行っちゃダメで…』


はしゃいで一人で先へと走るリクオを追いかければ、神社に着いた。そしてそこに居たのは、リクオと例の女の子…


「遊びましょう?」


今日かもしれないとは思ったけれど、まさか本当に今日だとは…。
その日が来てしまったショックと恐れで、いつの間にか私はボーッとしていたらしい。後ろから聞こえてきた声に、意識が現実へと引き戻された。


「リクオ…鯉菜…その娘は…」

「お父さん!遊んでくれたの、このお姉さんが!」


その娘の姿に衝撃を受けていたお父さんだったけど…でもそれは最初だけ。あとは4人で楽しく遊んだ。


『(大丈夫…今日はちゃんと木刀もある。夢のおかげで刺されるタイミングもしっかり覚えている。落ち着け!)』


何度そう思ったことか分からない…。ずっとこの楽しい時が続けばいいのにと思うが、現実はそう甘くない。


「あ!何だろうアレ」

「リクオ あまり遠くへ行くなよ。鯉菜、一緒について行ってやれ。」

『…っ、分かった。』


ここに居るつもりだったのに、まさかそう言われるとは…予想外だった。
急がなければ。
その一心で、ダッシュでリクオの元に行き、口早でリクオに言う。


『リクオ、お願いがあるの。
今から急いで家に戻って、誰でもいいから助けを呼んで。』

「…おねーちゃんは?」

『おねーちゃんはお父さんを助けに行くの。
だから、リクオはおねーちゃんを助けるために、皆を呼んできてちょうだい。リクオにしかできないことなの、よろしくね!』


そう笑顔で言えば、リクオは困惑した表情のまま「うん」と頷いて走り出す。おそらくこれでこっちに来ることはないだろう…。


『お父さんっ…!』


リクオの次はお父さんだ。全力で来た道を走る。
目に入るのは満開な山吹。


『(間に合え…!!)』


腰にさしてある木刀に手を添える。
二人の元まで後少し。

刀がお父さんに届くまで…後少し。




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