この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ


▽ 遅いよ猩影

『どいてっ!!』


襲いかかってくる切裂とおりゃんせ。
リクオを女の子ごと突き飛ばし、番傘の両端でハサミを防ぐ。


「!! 姉ちゃん!?」

『…ハサミが武器ってのは…随分と戦りづらいねぇ!』


番傘で刃を閉じられないようにし、鉄扇でとおりゃんせに攻撃する。


「ムッ」

『…ちぇっ、浅いか。』

「なんだお前は!! この子に何をした!?」


隣を見れば、刀を持ち戦闘態勢に入ったリクオがいた。ただし、昼の姿だが…。


「…? お前達…〈小生〉を怖がらないのか?」

『怖いってかキモイわ。』

「……つまんねぇな…
帰りたいよぉ…怖いよぉ…
って言えよ…。〈小生〉が欲しいのは、そういう顔でありマス。」

「!? 待てっ!!」


徐々に消えゆくとおりゃんせの姿に、リクオがあわてて斬りかかるが…空振りとなる。


『……どこに居るのやら。』


落ちている番傘を拾いつつ、辺りを見渡す。
ぶっちゃけ広過ぎて迷子になりそうだ。


「…女の子が消えた…。猩影くんもいない…」

『妖怪…ならないの?』

「…暗いのに…なれないんだ。姉ちゃんも?」


昼の姿の私に、そう問うリクオ。
だが、


『いや? 私はいつでもどこでも変われるよ』


私は変わりたい時に変われます。
はっはっはっ、便利だろう。


「…そっか…ボクも姉ちゃんみたいにコロコロ変われたらいいのにな…。」


珍しくシュンと弱音を吐くリクオに、思わずポカンとする私。うーん…珍しいな、リクオが弱音吐くなんて。


『…リクオが私をいいなって言ってるように、
私としてはリクオが羨ましいけどね。』

「え…?」

『私の場合、夜さんは外に出てくれないからねぇ。
引き篭もりの娘を持った母親気分だよ〜。』


ケラケラと笑いながら言えば、最初はキョトンとしていたリクオもプッと笑い出す。


「あはは、結婚もしてないのに。オバさんみたいな事言うね」

『なぬ。私はまだ若いぞ、リッ君。』

「リッ君て…。…そろそろ…行こうか!」

『了解!』


お互いに頷き合い、一気に走り出す。
幾つもの鳥居を潜り、走り回るが…広すぎる!!


「…広い…!? 姉ちゃん、やっぱりコレ…!」

『…畏の世界。ここはアイツのルール下だ。』

「どうする!? どうやったらここから脱出でき…
…う!?」

『…ホラーだ…』


突如、目の前に現れた何人もの女の子。どの子も顔がなく、顔がないから帰れないと泣いている。


「だ、大丈夫だよ、泣かないでっ…
どうしよう…弱ったな…」

『ちょっ、邪魔なんですけど。』

「ね、姉ちゃん!!」


だって仕方ないじゃん!?
めっちゃ泣きながらすがりつかれても…
こっちは動けないし!!
そこでチラッとリクオの方を見れば…


「〈小生〉の女は畏ろしいかね!?」


リクオの背後に立ち、マントを大きく広げるとおりゃんせ。そのマントには幾つもの女性の顔が付いていた。


「な!? いつの間に…!?」

「完全に…〈小生〉の〈畏の世界〉にのまれたね…」

『まだだよ。』

「なにっ…!?」


リクオに伸ばすその手を斬り付ける。


『ネタバレしてる私には…君の畏は効かないよ』


嘘だ、実を言うと少し怖い。
女の子は怖くないけど、コイツのこの血に濡れた顔が怖い。口裂け女ならぬ、口裂け男みたいでキショい。


「…お前は…妖怪だったでありマスか…」


お互い獲物を持ち、構える。


「〈小生〉はそこの男みたいに…
〈小生〉を畏れた顔が欲しいんでありマス!!」

『…テメェみたいな気色悪いやつが、狂愛地味たセリフ言っても何もときめかねぇンだよ!!』

「姉ちゃ…っ!!」

『リクオ、その子達と一緒に離れて!!』


そう告げれば、リクオは顔のない女の子達と一緒に少し後ずさる。


『…さてと、猩影くんはまだかねぇ。』


ぶっちゃけますと、こいつレベルなら私でも倒せそうだ。しかし、ここはリクオと猩影が鬼纏をし、猩影が改めてリクオに着いていくと決める時だ。そんな大事なところを壊しちゃいけないような気がする。


『まっ、ぶっちゃけ私がそれを見てニヤニヤしたいだけですけどねっ!!』

「くっ…思ってたより…強いですね」

『そりゃどーも。』


また消えられても面倒だ…。
猩影が来るまでコイツと遊んでおこう。相手に逃げる隙を与えないように、尚且、私の攻撃を全て防げる程度に攻撃する。

実を言うと、私も修行して、力とスピードが少し上がったのでございますよ。鬼纏は出来なくても、リクオに劣り過ぎないよう私だって頑張ってるのだ。
それにしても…


『…遅いなぁ…』


なかなかやって来ない猩影に頭を悩んでいれば、


『……むおうっ!?』

「なぶっ!?」


突如、謎の突風と衝撃に襲われ、とおりゃんせと一緒に仲良く吹き飛ばされる。


「しょ…猩影くん!!」


お前か、猩影。


「お待たせしやした、三代目。」


狒々様と同じお面を付けて、登場する猩影。
うん…立派になったなぁ…!
内心ニヤつきながら猩影を見ていれば、誰かが私の横を通り過ぎる…


「助かったぜ、猩影。姉貴。」

「ガハッ!!」

『いえいえ。』


夜のリクオだ。
猩影がとおりゃんせの畏を断ち切ったことで、リクオも夜に変化したのだ。そして今までの仕返しとでも言うかのように、容赦なく首を峰打ちでふっ飛ばす。


「てめぇも…妖怪だったでありマスか…」


そんなリクオを見て、ようやく気付いたのだろう…体勢を整えながらそう呟くとおりゃんせ。


「オレのシマからどいてもらうぜ。
とおりゃんせの切裂魔よ!」


そうカッコよくキメるリクオを見守る。
個人的に私は着物を着たリクオの方が好きだな、なんて場違いな事を1人考えながら……。



(「え…あれ、ぬ、奴良くん…!?」)
(『あ。横谷先生……。』)




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