この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ


▽ 切裂とおりゃんせ

年が明け、新学期が始まって数日ー


『今日も寒いな…』


マフラーとイヤーマフで完全防備な私。
いや、完全防備じゃなかった。手袋忘れたんだった。


『ハァーッ ハァーッ ……ん? デカっ!!』


息で手を温めながら歩いていれば、前方に背の高い人を発見。かなり注目の的になっている。
もしや…と思い、ゆっくりと近づけば…


『…なぁーんだ、やっぱ猩影じゃん。』

「!! お嬢…! お久しぶりです。」


正門のところに立つのは猩影だった。


『どしたの。リクオに用事?』

「えぇ…若にちょっと相談があって…」

『ふぅーん…?』


多分切裂とおりゃんせのやつだろう。
ついに来たのか…。
…ぶっちゃけ私が行かなくても問題ナッシングだよね、この話。うん…ここはリクオに任せて帰ろう!
と、計画を立てたものの…


「あれ…姉ちゃんに、猩影くん!?
どうしてここに…!?」


あっは、3秒も経たないうちに私の計画が崩れたよ!!
リクオタイミング悪っ!!


『あ、横谷先生だ。お疲れ様でーす。』

「え? あ、はい…お疲れ様…?」

『この人、うちの親戚なんスよー。
デカいっしょ?私に身長少し寄越せっつーの。』

「いや、無理っスよお嬢…!」


明らかに猩影のデカさに固まっている先生。取り敢えず、親戚ということで誤魔化そうではないか!


「どーしたの…学校まで来て」

「実は…折りいって相談が…」


横谷先生が去ったことで、本題に入る2人。


「うちのシマにある神社の〈切裂とおりゃんせ〉の怪ってー知ってますか?」





場所を移し、猩影に詳しい話を聞く。


「埼玉県の川越ってとこですが、今14,15の若い子供たちがそこのある一帯で行方不明になってる事件があって…いわゆる神隠しってやつです。
なんとか関東大猿会、再建のためにシマの拡大を狙ってんですが…どうにもそこはうちの畏が届かなくっていけねぇんだ。」


14,15か…あれ。私とかもろビンゴじゃん。


「それ、聞いたことあります。
清継くんたちも最近にわかに騒いでましたよ。」

「…………それでボクに相談を…」


猩影の相談に、真剣な顔をして顎に手をやるリクオ。
だがここでリクオの隠れドSが発揮される。


「………。何でボクに?」

「えっ。そ…そりゃあ…若は…
その年で三代目じゃーないですかい…」


顔を赤らめながら言う猩影。


「うんうん。で?」


…ここで察して止めればいいものを、
リクオは追い討ちをかける。何て攻めだ…!


「…オレだって年ぁ若とたいして変わんねぇんだ!!
新米組長として分かんねーこと聞きたいじゃーないっスか!!」


照れからのギャグギレ…!!
何てハイクオリティなんだ!!
そして…これを待ってました!とでも言うかのようにリクオは立ち上がる。


「分かった! 一緒に行こう。猩影くんの頼みだ!
頼ってくれて嬉しいよ!」

「若…た、助かるぜ…」

『…エロい。(ボソッ)』

「姉ちゃんは相変わらずだね!!」

『あだっ!』


パシンと懐かしきハリセンで頭を叩かれる。
まだ持ってたのかよ…早う捨てろや。


「猩影!! 若を頼んだわよ!」


今日は忙しいのと告げる氷麗にピンと私の脳はひらめく。そうだ…まだ諦めちゃだめだ。
諦めたらそこで試合終了だぞ!!


『リクオ! 私も帰……』

「姉ちゃんは来るよね?
氷麗とは違って暇だもんね?」

『……そんなことな…』

「今日は家事も休憩日だって朝言ってたもんね!」

『………休憩日だからこそ…』

「姉ちゃんって、ボクの補佐な…」

『行きます! お供させてください!!』


……うん、頑張った。私はよく戦ったと思う!
うん!! 仕方ないよね!!
リクオに見事なKOをされ、一緒について行くことになった私。そして3人でその場へと向かう。


「〈その時〉ってのがどうやら〈逢魔が刻〉らしいんです。いわゆる日が没する直前。」


横断歩道の所に立つ。
だが何も起こることはない。さっきから「カッコ カッコ」と横断歩道の信号機が鳴り続けているだけだ。


「…聞こえる…?」

「いえ…〈鳥の声〉っすね…」

『へぇー…これ〈鳥の声〉の音なんだ。
知らなかった。鳥に似てないよね。』

「姉ちゃん…」


呆れたような視線をリクオに貰う…
が、心做しかその顔色は悪い。
…不安が顔に出ている感じだ。


『リクオ』

「…何?」

『怖がるな。リクオのことは私が護るから。』


ニイッとして言えば、一瞬キョトンとするものの直ぐ様リクオは顔を逸らす。


「……べ、別に怖くないよ(ボソッ)」


……可愛いーーー!!っと言ってここで抱きつかなかった私は大変偉いと思います。花丸だ。100点満点だ。
だが、そこで…



♪《とおーりゃんせ とおーりゃんせぇー》



不気味な音が鳴り渡るも、道行く人はその音に気付いてない。


「…2人とも…聞こえた…?」

『…うん……誘ってんね…』

「……機械音じゃねぇ…なんだこの音」



♪《こーこはどーこの細道じゃ 天神様の細道じゃ ちょーっと通してくだしゃんせぇ》


「…行こう!」


リクオの言葉に、3人で横断歩道を渡って鳥居を潜る。案外奥は明るく、日没前とは思えぬ程である。


♪《御用のない者通しゃせぬぅ この子の七つのお祝いに おふだをおさめに参ります》


「しくしく…えぐっえぐ…
帰りたいよぉ、お家に…帰りたいよぉ」


しばらくすれば、帰りたいと泣いている着物少女を見つけた。


『…これ、顔を上げたらホラーなパターンやで。
2人とも覚悟しとかな…来るで!!』

「…お嬢、言われなくとも分かってまさぁ」


何を今更…と呆れ半分で言う猩影。
甘いよ…リクオの純粋っぷりをなめたらアカン!


「大丈夫、ボクらと帰ろう。」

「若…!!」

『リクオ!』


ホラな! やっぱりな!!
女の子の腕を掴み、起き上がらせようとするリクオ。
そのリクオの腕を慌てて掴む。
〈空間〉を切り離されたら元も子もない。
リクオの腕を掴みながらも、その女の子を見れば…


「あ!! だめだよう! 帰れない!
…顔がないから」


文字通り、顔が無い女の子…
そしてー


♪《行きはよいよい》


「帰りはコワヒでありマス。」


直ぐ後ろには、ハサミを持って襲いかかる〈切裂とおりゃんせ〉がいた。




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