この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ


▽ 初日の出

大晦日ー
妖怪も新年を迎える為に忙しく働いている。


『はい、いくよ〜っ
よーーーーーい…………ドンッ!!!!』

「うぉぉぉおおおおお!!」

「どけどけどけどけーー!!」

「退かねぇとひき殺すぜー!!?」

「怪我しても知らねぇぞー!?」


箒を上げたら、一斉に走り出す小妖怪たち。
ただし、ただ普通に走っているわけではない。彼らは雑巾がけレースをしているのである。


「あっ、もうすぐ紅白始まるぜぇ」

『えっ、マジで? あ、笑っちゃいけないの番組、録画予約するの忘れてたー。』


もうすぐ紅白が始まる時間だと知り、録画予約をしにテレビの元へ向かう。


「よっしゃあ、ワシが1位じゃ!!」

「バカ野郎! オレの方が速くゴールしたぜ!!」

「いーやっ、オイラの方が速かったね!」

「お嬢! 誰が1番速か……あれっ? お嬢は?」

『…あ、ごめーん。録画予約して見てなかったぁ!
もう一回走るー?』

「「「「いや、もういいです…」」」」


録画予約を終え、さっきの場所に戻ればレースは終わっていた…申し訳ない。でもピカピカになったぜ!


「こら。ちゃんと掃除しろよ。」

『あいたっ』


コツンと頭を小突かれる。その犯人は…


『みたらし団子食べてる親父に言われたかねぇよ。』


団子を食べてるお父さんである。私はまだ箒を持ってる分マシだろう。この人団子しか持ってないし。


「なんだい、欲しいのか?」

『いらんがな。』

「ほら、あーん……」

『い、いいよ。いらないってば。』


いらないと顔を横に振るものの…


「照れんなって! あーーーん!」

『んぐっ…!?』


無理矢理団子を突っ込まれる。
…うん、美味しい。
そのまま私に串を持たせるお父さん。


『? あと1個あるよ。要らないの?』

「あぁ。掃除頑張ってるお前さんにやるよ」


ニコッとウィンク付きでそう言うお父さんに、少し感動する。お父さんも偶にはいい事するんだね…!!
だがその感動は1分も経たないうちに消え去ることとなる。


「りはーーーーん!!
てめぇ…いつまで掃除サボってやがるーー!!」


首無だ。ドタバタと徐々に近づく足音に慌てて消え去る父・鯉伴。


「!!
鯉菜様…! 二代目を見ませ…………」


……あれ? どーしたんだ首無。
何故そこでフリーズした?


「…鯉菜様? それ…オレがわざわざ今朝方並んで買った、有名店のみたらし団子なんですけど…?
掃除をサボって…なに人の物食ってんですかー!?」


ぇ…ぇぇぇぇえええええ!!!??


『ちょ、ちょっと待って首な…』

「問答無用!! そこに直りなさい、お嬢!!」


完璧に説教モードに突入した首無。
はっきり言おう。首無の説教モードにスイッチが入ると、とてつもなく恐い上に長い!!
非常に面倒くさいのだ。


『これ…私じゃなくてっ…鯉伴ーーーー!!』


この後、首無→私→鯉伴という追いかけっこが始まるのは言うまでもない…。



そして、数時間後ー


「てめーら明けましておめでとう」


大掃除もなんとか終わり…奴良組では新年の宴が始まる。


「知っての通り、昨年九月二十三日、奴良組は奴良リクオが三代目を引き継いだ。当然新年の挨拶も今年からリクオじゃ。」


おじいちゃんの簡単な挨拶の後、次いでリクオが挨拶をする。


「……晴明との抗争はすぐに迫っている。
今年一年は勝負の年だ。
だがそれはそれとして…今日は正月だ。
とにかく飲んで暴れろ。」


その言葉を合図に、一気に奴良組の屋敷が歓声で響き渡る。


「酒が足りねーぞォ!!」

「馬頭〜お酌しろ〜」

「この牛鬼の酒をうけろ。次は誰だ〜」


ワイワイと各々が騒ぎ飲む中、クールにカッコつけて飲む人が1人…


「フッ…」

『…クスッ…なにスカしてんのよ』

「! 何だよそれ…別にスカしてねぇよ」

『そーぉ? もっと騒げばいいのに…』


スカして飲みたいお年頃なのだろうか。
取り敢えず、空になった盃にお酒を注ぐ。
ちなみにお互い夜の姿だ。


「姉貴も飲めよ」

『私はいいや。
あんまお酒の味分かんなっ……ひゃぁ!?』


グイッと私にお猪口を持たせようとするリクオ…
そしてそれを拒む私。
そんな私達に突如冷たいお酒が上から降ってくる。


「なーーーにカッコつけてんだリクオォぅ」

「なーーーにイチャついてんだオメェらぁ」


おじいちゃんはリクオに、
お父さんは私にお酒をドボドボ頭からかけてくる。


「てめぇじじいーーーー!!」


ワハハと逃げるおじいちゃんをリクオは追いかける。
一方こちらは…


「あだだだだだだっ!!!」

『さっきはよくも私を犠牲にしてくれたわねぇ…!
お陰様で首無のキツーイ説教を受ける羽目に合いましたけどぉぉお!!?』


必殺・アキレス腱固め!!!


「いけー!! お嬢ー!!」

「二代目ーー!! 頑張ってくだせぇ!!」

「もっとやれーーー!!」


ワイワイと声援が飛び交う中、急に私の鼻がムズムズに襲われる。
そして…


『ハックシュッ!!!』

「い"ッー!!!!??」

『ぁ...(やっちゃった)』


クシャミの反動で、つい力んでしまった。
アキレス腱を痛そうに押さえるお父さんに少し罪悪感が湧く。
…でも…元はといえば…


『…じ、自業自得…じゃね?』


首無の団子の件と言い、今の酒をぶっかけるにしろ…
ねぇ? 私悪くないもんねぇ!?
だがそんな世論がコイツに通用するわけもなく…


「……りーなーチャン♪」


お父さんの後ろに鬼がスタンバイしてるのが見えます。おかしいな。視力低下したかな。


「覚悟は…いいかぃ?」

『…まだです☆』


ニッコリと問われたので、ニッコリと返す。
そして………


「待てコラァァァァア!!!!」

『誰か助けてぇぇぇええ!!!??』


全力疾走。何この人…超怖い!
そんなこんなでー
追いかけっこやプロレス技をかましながらも、段々と夜が明けていく。


「姉ちゃん!……って、2人とも大丈夫?」

『…ハァッ…ハァッ…リク、オ…?』

「…ゼエッ…ゼエッ…どぉしたんだい?」


白けてきたせいだろう、昼の姿になったリクオがこちらにやって来た。


「予想はついてるけど…何してたの?」

『「……プロレスごっこ…」』

「…そう。」


答える私達に呆れるリクオ。ちなみに私のプロレス技はお父さんによって鍛えられたものだ。


「それより、姉ちゃん! 早く行かないと!」

『え?』

「約束の時間に遅れちゃうよ!?
初日の出を見に行くんでしょ!!」

『あ、忘れてた。』


そう、清十字団と初日の出を見に行く約束をしていたのだ。インドア派で面倒くさがり屋な私が珍しいだろう? 実を言うと、初日の出を見に行ったりするなんてしたことないからね。してみたいのだよ。


「ほら、行くよ! 早く昼の姿になって!!」

『あいよー』


言われた通り、昼の姿になり、出る準備をする。


「気ィつけろよ、3人とも。」

「はい!」

「『いってきまーす!』」


お父さんに見送られながら、氷麗とリクオと共に家を出る。向かう先は高尾山の初日の出スポットだ。



(「あ!!奴良姉弟、遅いぞ!!」)
(「ごめんごめん!皆明けましておめでとう!!」)
(『あけおめー』)




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