▽ 対談
夢の中ー
そこは…誰にも邪魔されず、昼と夜が共に過ごすことのできる時間。
『相変わらずここの景色は綺麗ね。』
終わりの見えない水面。
その中にポツリと一つだけ島がある。大きくも小さくもない島…
その島の中心に立つのは1本の大きな桜の木。
「…ずっとコレが続けばいいんだけど。」
桜の木の根本に座るその人は…妖怪の奴良鯉菜。桜が似合うなぁなんて思いながらも、その隣に腰を下ろす。
『続けばって……これ年中満開じゃん。』
そう、ここにある桜の木は季節関係なく常に満開だ。それなのに、終わりが来る日なんてあるのだろうか…。
「13年前…リクオが産まれた時、」
『?』
急に昔のことを話し始める夜。
急にどうしたのだろうか…。
「土砂降りの雨が降って、桜が全て散ったわ。」
『……え、雨降るんだ、ここ。』
私の言葉をスルーして、夜は続けて言う。
「……鯉伴、さんが…刺された時も、土砂降りの雨が降って、桜が散ったわね。」
『……お父さんが刺された時…。』
夜は何故かいつもお父さんのことを〈鯉伴〉と呼ぶ。
お母さんのことも〈若菜さん〉、
おじいちゃんのことも〈ぬらりひょん〉と呼ぶ。
まるで一線を置くかのように、敢えて名前で呼ぶのだ。
『リクオが産まれた時…とお父さんが刺された時…。
何かあったっけ…。』
一大イベントの時になると…雨が降るとか?
二つの共通点を考えていれば、痺れを切らしたのだろう夜が口を開く。
「泣いたの、憶えてないの?」
『…泣いた…………ねぇ、そういえば。』
リクオが産まれた時には、前世のことを思い出して泣いた。お父さんが刺された時には、なかなか起きなかった上に〈親不孝〉と言われて泣いた。
『私が泣いたら、ここ雨降るの?』
辿りついた答えに、マジかよと思いながらも問えば…
「泣いたら、って言うよりも…心が荒れたら?」
『…なーる。』
確かにあん時は荒れてたなぁ……
『あれ、じゃあ雨降って大変だったでしょ。』
「……えぇ、お陰様でずぶ濡れになりましたよ。傘をさしても風でぶっ壊されましたしねぇ…あの後風邪をひきました。」
『ごめんなさい。』
だからか。
私があの後風邪をひいたのは、夜が風邪ひいたからか。
にしても、心が荒れたらこんな所に影響が出るのか…
そこでフと夕方のことを思いだす。
『……もしかしてさ、
お父さんたちが私のことを傷付けるって…
そのこと?』
私の言葉に、一瞬驚いた顔をする夜だが、直ぐにニヤッと口角を上げる。
……笑っただけで色気があるな。
「邪魅退治しに行った日のこと?」
『そう。
…リクオに言ったんでしょ、皆のこと大嫌いって。』
「言ったわ。
だって…皆〈アナタ〉の事知らない。
知ろうともしない。」
『それは…私が〈私〉のことを隠してるから。
私たちはあくまで奴良鯉菜であって……
〈私〉の存在は要らないでしょう?』
「……そう言って、誰にも頼らないんだ。」
苦笑いしながら…夜は私の左頬に手を添える。
『…何言ってんの。
頼ってるじゃない……貴方のこと。』
苦笑いされてもなぁ…こっちも困っちゃうよ。
多分私も今苦笑いしてんだろうな、なんて思いつつ、
私も夜の左頬に手を添える。
……夜はお父さんに似て美人顔だな…。
「安倍晴明に、前世の記憶…見られたね。」
『…うん……皆に、バラされるかな。』
「……転生したこと?
それとも…前世での嫌な思い出のこと?」
『………両方。
〈私〉のこと知ったら、皆どうするかな?』
「…受け入れてくれるんじゃないの?
それでも家族だって。」
『……そうだね。皆、優しいからね……でも…』
夜の言う通り、心優しい皆は…〈私〉のことを知っても受け入れてくれるだろう。しかし、受け入れてくれたとしても…
「………態度が変わるかも………って?」
夜の言葉に押し黙る。ハッキリ言うと図星だ。
「…そうね。
〈アナタ〉の両親は…態度を変えたものね。
否定することはなかったものの、
〈アナタ〉を見る目を変えた。
実の娘なのに…ね。」
一旦言葉を切り、顔を寄せる夜。
そして、お互いのおでこをくっつけたまま、
再び口を開く。
「………大丈夫よ。
アタシは…昼のアナタも、
前世の〈アナタ〉のことも受け入れる。
アタシが…いるでしょう?」
『…うん。
私には…貴方がいる。
皆を頼ることはできないけど、
皆に心を開くことができないけど、
貴方がいるから…
私は大丈夫。』
目が合い、互いにニコッと笑う。
桜は満開に咲き、傍にあるぼんぼりがそれをいっそう輝かせる。
「…もう時間だね」
『…本当だ。もうタイムリミットか。』
徐々に消えゆく体…
きっと朝が近づいて来ているのだろう。
またね、と簡単に挨拶を終えて夜の私と別れる。
そして目が覚めれば…
『………朝、か。』
チュンチュンと騒がしい外。
きっと誰かが雀に餌をやってんだろう。
『……寒ッ…』
外気に鳥肌が立つ。
布団にくるまり、ウトウトとしていれば…
「姉ちゃん!!
いつまで寝てんの!! 学校に遅れるよ!?」
スパァァァアンと勢い良く部屋の戸を開けられる。
『寒いから今日サボ…』
「何言ってんの!! 駄目だってば!!」
『ちょっ、寒いってば!!』
布団を取ろうとするリクオに対して、布団を必死に抱きしめる私。
冬になると毎年恒例になるこの光景…
皆がほのぼのと見守る中、結局はリクオに加担した首無に、布団を取られるのだった。
(『寒いよー行きたくないよー』)
(「サボればいいじゃねーか」)
(『お父さん…リクオがそれを許しちゃくれないのだよ』)
(「ハハッ…お前もリクオに弱いよなぁ」)
(『本当だよ。あー寒いー!!』)
(「俺が暖めてやるよ。」)
(『勘弁してください。』)
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