この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ


▽ 信用と信頼

「信頼…? どういうことだ?」

「鯉菜様は奴良組の皆と上手くいってないの?」

「そうなのか?鯉菜」

『いや、そういうわけじゃなくて……』


………あれ? 何か一人多くね?


『うわっ!!』

「な…二代目!?」

「あれっ、オレ全然気が付かなかった」

「よぅ、美味しそうなん食べてるねぇ。オレもいただこうかな…
すいませーん。こいつと同じモンくんねぇかい?」


私のうどんを指差し、店員にそう告げるお父さん。何ナチュラルに溶け込んでるんだよ。


『どうして、そしていつからここにいたのか教えてくれませんかねぇ? 父上。』

「うん?
ガラクタ市に遊びに来たらお前さんらを見つけてねぇ…面白そうだったから取り敢えずコッソリつけてきたんだよ。」

「てことは…この店にも最初から?」

「居たなら言ってくれれば良かったのにー」


驚いた顔をする牛頭に対し、馬頭はアハハとか笑う。この子ある意味大物になりそうだわ。


『馬頭の言う通りよ。
早く出とけばよかったのに。何で今頃?』

「いや、なんてーか…出るタイミングを失ったもんで。」

『バカだろアンタ。』

「仕方ねぇだろ? 氷麗の恋愛事情から鯉菜の恋愛話に広がるかと思って待ってたのによォ…。全く色気のねぇ話をし始めやがって。
まっ、その代わり面白ぇ事が聞けたけどな」


ニッと笑いながらこちらを見るお父さんに、これはもう話さざるを得ないと悟る。


「おっ、美味そうだな…
んで? さっきの話の続き、聞かせてくれよ」


運ばれてきたうどんを受け取り、ズルズルと食べ始めるお父さん。うん、コッチの方が話しやすいな。部屋で向き合ってシリアスに話すよりも、聞いてるのか聞いてないのか分からない態度でいてくれた方が、話す側としては非常に楽だ。


『お父さんさ、前に私に〈新技をよく考える〉って言ったよね』

「…ん? あぁ、言ったな。
確かお前さん…中二病なんだろ?」

「お前…そうなのか…」

「? 牛頭、中二病って何?」


お父さんやい…確かにそう言ったけど、それを公言するのはやめてください。そして馬頭よ…知る必要はない! むしろ知ってはならない!!


『中二病ももちろん理由の一つだけど、もう一つまだ別にあるんだよね。』

「別の理由?」

『うん。私さ、リクオやお父さんみたいに鬼纏できないんだわ。』


ズルズルとお父さんのうどんを食べる音が止む。


「ほうはほは(そうなのか)?」

『…口に含んだまま話すなよ。』


そう言えば、もぐもぐとひたすら噛み…


「……ゴクン…鬼纏ができねぇなんてオレぁ聞いてねぇぞ?」


当たり前だろ。だって…


『言ってないからねぇ。
アレってさ…互いに信頼してないとダメなんでしょう? 私誰のことも信頼してないもん。』

「…誰のことも…?」

『うん。……あ、1人いたわ。
夜の私のことなら信頼してる。
もちろん皆のことは信じてるよ? お父さんのことも、牛頭や馬頭たち牛鬼組も…奴良組の皆を信用してる。
でもさ…信頼はしてないのよね。』


食べ終わったのだろう、横で手を合わせ、ごちそうさんと言うお父さん。
そして…


「…信用はするけど、信頼はしてない…か」


頬杖をつき、そう呟くその表情は読むことができない。喜怒哀楽…どの感情なのか全く分からない。


「信用と信頼ってどう違うんだよ」

「一緒じゃないの〜?」


口を閉じたお父さんに反し、牛頭と馬頭は「何言ってんだ」的な目を向けて聞いてくる。


『微妙に違うんだなぁコレが…。
信用は、相手を信じて任せることができるって感じ…。それに対して信頼は、相手を信じたうえで相手を頼る…的な?
まぁ、ざっくり言えば…信用は物理的だけど、信頼は精神的なものかな。
……要は私が皆に心を開いてないってことよ。
そしてリクオは信用と信頼、両方共できる強さがあるってこと。』


これで話はオシマイ。
そう意味を込めて、席を立ち会計に向かう。


『うどん、美味しかったね!
私はもう真っ直ぐ帰るけど…牛頭はあんまり氷麗をいじめすぎないようにね♪』

「なっ…お前しつけぇぞ!?」

『どうせ今から氷麗の所に行くんでしょ?
氷麗に気を付けて帰るように言っといてね!』


ニヤニヤして言えば、下を向いて僅かに震えだす牛頭。…こりゃあ早く逃げないと!


「てめぇっ……!
そんなに切り刻まれたいのかっ……!!」


スラッと刀を抜く牛頭を、馬頭は慌てて止める。私より沸点が低いなぁなんて余計なことを思いながら…取り敢えずその場を退散する。でないと本当に斬られそうだ。



『ふぅ…それにしても、うどん美味しかったなぁ。
夜ご飯、食べれないかも。』


既にだいぶ暗くなった空の下、お父さんと並んで歩く。だが返事をくれないお父さんに、違和感を感じ、顔を覗く。


『……お父さーん?』

「なぁ、鯉菜。
さっきオメェ…誰も信頼できないって言ったろ?
それは…夜のお前が関係してんのかい。」

『………夜の私? 何で??』


急に浮上した私の夜の存在に、頭がはてなマークで埋め尽くされる。何がどうなってそこに辿りついたんだ…。


「…リクオが前に言ってたぜ。
オレたち皆のことを…夜のお前さんは嫌ってるんだろ?」


…え、何それ。初耳なんですけど。
確かにお父さんやリクオとか外でのことを楽しそうに話したら、たいてい夜の私は不機嫌になるけど。
えー…あれ嫌いだったからなの!?


「何でぃ。その反応だとお前も知らなさそうだな。

…オレたちが昼の鯉菜を傷付けてるから、だから夜の鯉菜はオレたちのことを嫌ってる…

そう言ってたらしいが…覚えてないんだろ?」


待て待て待て待て。


『それいつ言ってたの…!?』

「邪魅退治しに行った時だ。リクオの態度がおかしいって騒いでたろ? そん時のことだよ。」


なるほど…
今更だけど、ようやくリクオの様子が変だった理由が分かったぞ。


『…そんな意味深なこと言われたら、誰だって戸惑うわ。リクオには申し訳ないことしたな…』


かと言って、今更謝るわけにもいかないので…心の中で謝っておこう。
君に届け! この謝罪…!!


『てかさ、
私を傷付けたってのは何?
お父さんたち、私に何したの。』


何となく気になっていたその言葉…
ぶっちゃけ思い当たる事がなくてこわい。
私何された!?
だが…


「いやいやいや、お前が分からないのにオレたちが知るわけないだろ!! リクオもオレも心当たりないから困ってたんですけど!?」


思いもよらぬ答えが返ってきて、尚更パニックに陥る私。
でも取り敢えず…


『なんか…夜の私がゴメン。
その言葉はもう忘れていいよ、
私も思い当たる節ないし。』

「……おぅ。」


謎が残ったままだが、一旦この話を終わりにし、家へと帰る。

京都編が終わり、ここ4ヶ月特に何も起こらなかったが…うむ、今日は夜さんに色々と話を聞きだそう。



(『そういえばガラクタ市には何しに?』)
(「ん? あそこは雪麗さんの管轄下だったからねぇ…久しぶりに顔だそうと思ったんだ」)
(『ふぅん…みんな喜んでた?』)
(「いや、結局顔だしてねぇんだよ…お前さんらを見つけてな。」)
(『………何やってんの。』)




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