▽ うどん
京都の戦いから4ヶ月ー
暑かった夏も終わり、冬が来た。
「ホッ ホッ」
そんな寒い中、朝からずっと走り回る娘が1人…
「青田坊…氷麗どうしたの?」
「さぁ…とにかく走ってますなぁ。」
「ふぅん…? あ、そっか。師走…だから?」
『…そんな理由?』
リクオが三代目を襲名して以来、氷麗は清十字団に参加することが目に見えて少なくなった。
幹部格になって仕事が増えたからだろう。
『そういえば…今日はガラクタ市があるって言ってたな。ワカメが。』
「ガラクタ市?」
「何ですかぃそりゃあ…」
聞き慣れない言葉に、首を傾げるリクオと青。
リクオはともかく、青は覚えててもおかしくないだろ。
『錦鯉地区…だっけ。確か氷麗が任せれてる所だよ。そこで今日はガラクタをメインに市場が開かれるんだって。骨董品好きな人とかが集まるんじゃないかな。』
「ふぅん…それで忙しいのか。」
「そういやぁ…そんなのありましたねぇ」
今日お邪魔しようかな…ガラクタ市に。
ニヤニヤとあることを企みながら、放課後ガラクタ市に直行することを決意する。
きっとアイツらが居るはずだ…!!
そしてやってきた放課後…
ダッシュでガラクタ市が開かれている所へ向かい、氷麗探す。
『…いたっ!』
寺の入口でポツーンと座っている氷麗を発見!
さらに…
「かかか…バッカだなぁー雪ん子ぉ
なっさけねぇ」
「やっほー、おーいつららぁー」
木の上で氷麗をからかう者が2人。
そんな二人の間に立ち、肩に腕をまわして言う。
『何を遊んでんだーい? 二人共』
「なっ!! いつからいやがったてめぇ!!」
「うわあっ!全然気が付かなかったー!」
「り…鯉菜様!?」
やっぱり居た。
そう、何を隠そう…
今回のターゲットは牛頭丸と馬頭丸だ!!
バッと私の腕を解く牛頭。そして、氷麗と違って自分は遊んでなんかないと言う。
「牛鬼様が貸元頭になって忙しいからな。いつまでも本家で遊んでるわけにゃいかねぇのよ。あー忙しい。」
「そーゆこと」
「……ってここで遊んでるじゃない!!」
2人に言い返す氷麗だったが、新たな登場人物に意識を持っていかれる。
その登場人物とは…
「見ろ!! この古臭いボロ寺を!!
古いものを愛でる心、これぞ錦鯉ガラクタ市だ!!」
そう、言うまでもなく…霊感ゼロのうるさい喋るワカメだ。ちなみに、リクオを除く、他の清十字団のメンバーもいる。
「なぁんだ! 及川さん、君も来てたのか!!
真面目だねぇ、まぁ…ガラクタ市はつくも神の研究に持ってこいだからねぇ!!」
「「つくも神?」」
「巻君と鳥居君はいつも質問だね!
昔から、古い器物には魂が宿ると人々は考えていてねぇ…だから百年を生きた猫が妖怪になるように、物も百年経てば妖怪になるんだよ!!
百鬼夜行の基礎だよ、基礎!!」
「(フゥ…百鬼夜行かぁ…)」
清継の言葉に、遠い目をする氷麗…。
そんな彼女を黙って見守ることができないのがこの男、
「てめぇにゃ一生無理だよ…」
もちろん、牛頭丸である。
『やめろ馬鹿野郎。
…氷麗、焦らないでゆっくり自分のペースでやりなさい? そのうち皆も気付いてくれるよ、氷麗の良いところに。』
取り敢えず牛頭丸の頭を殴り、氷麗にそう言い残して去る。
え? 清継達と行動しないのかって…?
『するわけないでしょ。胃が爆発するわ。』
「何の話だよ!! つぅかいい加減離せよ!!」
「鯉菜様久しぶりだねぇ〜」
離せと私の手を振り払う牛頭に対して、のほほんと挨拶する馬頭。相変わらず馬頭は素直だねぇ。
『好きな娘を苛めたくなるのは分かるけど、あんまりやり過ぎると嫌われちゃうわよ?
ねぇー、馬頭?』
「あ、やっぱり牛頭って氷麗のこと好きだったんだー」
クスクスと馬頭と2人で笑いながら言えば…
「……はぁ!? 何を言ってやがる!?
何でオレがあんな雪ん子を…っ!!」
『無自覚かよ…つまんねェな。
まぁいいよ、取り敢えず何か食べない?
お腹空いちゃった。』
ちょっと待てと異議を言う牛頭を無視しつつ、馬頭と近くのうどん屋さんに入る。店員に案内された所に座り、注文を頼む。
『私は…ネギたっぷり肉うどんにしようかな!
卵付きで!』
「うーん…じゃあオレ山菜うどん!! 卵付きで!」
『「牛頭は?」』
「………ごぼ天うどん。卵付きで。」
それぞれ食べたい物を注文し、うどんが来るのを話しながら待つ。
「ちっ、何でてめぇまで来るんだよ」
『いやいや、恋する男に助言でもと思って。』
「だからオレぁ恋なんかしてねぇっ!!」
バンっと机を叩く牛頭…。
お前馬鹿だろ、店中の皆がお前を暖かい目で見てるぞ。あそこにいる老夫婦なんざ、青春じゃのぅ…ってウンウン頷いてるよ。
そんな周りの雰囲気に気付いたのだろう、牛頭はゴホンとわざとらしい咳払いをする。
『…知ってた? 氷麗、結構モテるのよ〜♪』
「はぁ? あいつがぁ? 」
「確かに氷麗、可愛いもんねー」
「そうかぁ? …普通だろ。むしろドジだし…
そいつらが物好きなだけだろ。」
『いやいや、人間からも妖怪からも好かれてますよ、あの娘は。』
そんな話をしていれば、うどんが運ばれてきたので、ズルズルと各自食べる。
そして、牛頭が早くも食べ終わる…
「…オメェらどんだけ食べるのおせぇんだよ」
「む、オレだってもう直ぐ食べ終わるよ」
その言葉にちらっと馬頭の器を見れば、確かにもう食べ終わりそうだ。ちなみに私はまだまだ残っている。
『私は猫舌だから…仕方ないでしょ?』
「ちっ…とろい奴。」
『アンタこそちゃんと味わって食べてんのかよ』
お互い憎まれ口を叩きながら、たわいもない話をする。だが、のんびりとした空気が、牛頭の質問で固いものへとなる。
「そういやぁ…牛鬼様がおっしゃってたぜ。
未だに、リクオにあってお前にねぇものが分からねぇってな。
終いには…三代目を継ぎたくないから、適当に嘘ついたんじゃねぇかって。
…どーなんだ?」
……意外だな。
牛鬼のことだから、もう分かっているのかと思ったが…。今まではそれが何かをハッキリ言わなかった。言っても牛鬼のことだから、「大丈夫だ」とか「これから直せばいい」とかポジティブに返してきそうだったからだ。
でも正式にリクオが三代目を襲名した今、もう私に三代目を継げなんて言うことは起こらない。
『牛鬼は私のこと…随分と買いかぶってんねぇ』
だから、もう誤魔化す必要もない。
『リクオにあって私にないもの…
それは〈信頼〉だよ…』
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