▽ さらば遠野!
「うー寒い、夏なのに!」
『暑いよりかは全然マシだよ。』
赤河童への挨拶を終え、里の出口に2人で向かう。そこへリクオに向かって祢々切丸が飛んできた。
「祢々切丸!」
「この里を出ていく時に戻せと言われてたの…すっかり忘れてたが〜」
「なまはげ……」
『(なまはげだったのか…)』
「例を言うのなら今のうちだが。
さっそく雑用おしつけられちゃったわワシら…」
行かなければならないと言うなまはげに、お礼を言う。私達をここに連れてきたのもなまはげだだったから…何だか少し別れ難い。
「あぁ……ありがとな」
『また会えたらいいね、なまはげさん!』
これでお別れかと思いきや、なまはげから別の人の声が聴こえる。
……淡島の声だ。
なまはげの後ろに上手く隠れてるが、気配からして冷麗や雨造達もいるようだ。
「リクオ。
俺たちは誰とも盃を交わさねぇがそれでも
力がたんねぇ、お願いします、助けて下さい
ってことだったら…考えてやっても…」
「あぁ!! 頼む!! 京都の妖怪は相当強ぇみてぇだ。オレは戦力が欲しい。オメェらがオレの百鬼に加わりゃ最高だ!」
あまりのリクオの即答加減に、ズッコケる淡島。つられてゾロゾロと出てくるお馴染みの遠野メンバー。
「おいおい、リクオ……」
「まぁ、素直な子…」
「ほら、どーすんだ。
さっさと支度しな、行くぜ!」
どーするとコソコソ話す遠野勢に、早くしろと急かすリクオ。
「……イタクは来てねーか」
『えーどっか隠れてんじゃないの〜?』
「常に畏を解くなって言ってんだろバカ姉弟。」
突如、私達の後ろに現れ、イタクは鎌を私達の首に宛てがう。
「イタク……」
「これでおめーはもう遠野で200回は死んでるぞ。」
『私は?』
「…100回は死んでる。」
『やったね、リクオに勝った。』
「…ちっ、姉貴に負けた。」
うるせぇと言って、鎌をチョンチョン動かすイタクはかなり物騒なヤツだ。
「危なっかしーんだよおめーらはよ。オレも冷麗も、てめーらの教育係はまだ終わってねぇ。ただし、てめーらと盃は交わされねーからな!!」
「…ありがとよ」
『心強いよ、ありがとう!』
にしても、やっぱりイタクは素直じゃないな。
「じゃあおめーら、準備はいいか!?」
そう言って多樹丸を構えるリクオに、イタクは口を開く。
「おい。その刀…祢々切丸は使わねーのかい。」
「こいつはもっとでっけぇ妖を斬る刀だ。ここの里の畏なんて…この相棒で充分だ。
姉貴もやれよ?」
『えっ、私も? …じゃあ私は番傘で。』
リクオは多樹丸を、私は番傘を構える。
この際、「京都初めてだうぇーい」と騒いでいる雨造は無視の方向で行こう。
何でそんなに遠足気分なんだ!
「いくぜ、さよならだ遠野!!」
その言葉を合図に、リクオと一緒に里の畏を断ち切る。家に帰るのが楽しみだ!なんて思っていると…
「あっ……」
『……わ、久しぶりの感覚。』
外に出た瞬間ボフンと音を立て、昼の姿に変わる私とリクオ。
「ご、ごめんね!
ボク、昼になると人間になるんだ!」
『私も。
変化は基本いつでもできるのはできるけどね。』
申し訳なさそうに何故か謝るリクオにイタクが突っ込む。
「何で謝るんだ。」
「……え、」
『おーぅ……』
「キュー」
声のした方を見れば、そこにいたのはイケメンなイタク…ではなく服を着た可愛いイタチ。
そうだ。そうだった……
昼になるとイタクはイタチになるんだった!!
『かっ……』
「キュ?」
『かっわいいーーーーーー!!!!』
「ぎゅぃぃぃいい!!!?」
「ちょっ!! 姉ちゃん! イタクが死にかけてるから!!
窒息してるから!!」
「ぎゅ……ぷ、ぅ……」
「い、イタクぅぅぅぅうう!!!!」
そんなこんなで…眠るイタチを抱いて奴良組へと向かう一行。
家への帰り道は楽しくなりそうだ。
(『あ、夜になったからイタクになった。』)
(「・・・てんめぇ・・・鯉菜! オレを殺す気か!?」)
(『愛ゆえにじゃ。苦しゅうない。』)
(「・・・刀を抜け。今からこのイタクがお前の相手をしてやる。」)
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