この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ


▽ 挨拶

鬼童丸たちが遠野に来た翌日ー


「そーだ〈鬼發〉を持続させろ。戦闘中は決して解くなよ」


リクオとイタクは今戦っている。そしてそれを傍観する遠野勢、及び、私。


「ヒュイイーリクオやるね」

『………………』

「どう?
リクオの戦いぶり見て…何か感じることある?」


本来なら今頃私は冷麗と一緒に別の実戦場で訓練している筈だ。それがどうしたことか…リクオとイタクの戦いを見に行こうと誘われたのである。


『無駄な動きがない。避けるのも最小限の動き、攻撃するのも…小振りだからすぐ次の攻撃を出せる。』

「……クスッ、そうね。鯉菜は身軽だから、避けるのはリクオよりも速いわよ。防御も正確で、攻撃が当たりにくい。
ただ攻撃がねぇ……」


そう言ってフゥーと溜め息を吐く冷麗に、私のガラスのハートに少しヒビが入る。


『……そ、そんなに酷いの?』

「敢えて例えるなら、リクオの戦い方が〈攻め〉に対して、お前の戦い方は〈守り〉だな!」


私と冷麗の会話を聞いていたのだろう。雨造が話に加わる。


『まもり? 攻撃してても?』

「なんだか…傷付くのを恐れているって感じかしら。リクオが傷付きながらも突っ込んでくるのに対して、鯉菜は大きく攻撃することで…相手を牽制してる感じ?」

「オレらが避けられるように、ワザと見え見えな大きい攻撃をしてるようにも感じるんだよな〜。
…俺たちが相手だから傷付けないようにしてるのか?」


冷麗と雨造の言葉が重くのしかかる。
ハッキリ言って図星だ。避けられる攻撃をしていたつもりはない。
でも、相手を傷付けるのも、自分が傷つくのも…


『…覚悟をしてない…ってことか』


……正直言ってこわい。


「大変だぜリクオぉぉお!!」

「!! 淡島」


やって来た淡島のあまりの慌てぶりに2人は一時休戦する。


「京都方面に行ってる遠野妖怪から連絡があった!
陰陽師は壊滅だ!!
京都が…羽衣狐の手に落ちるぞ!!」

「陰陽師が壊滅…!?」


淡島の言葉に驚くリクオ。
ゆら達を見てきたから、そんなの信じがたいのだろう。


「詳しいことは分かんねーが…手だれの陰陽師が軒並みやられたらしい! てめぇら…京都に友達がいんだろ!?」

『リクオ……どーする?』

「今すぐ助けに行くべきだぜ!
今のお前らなら里の畏は断ち切れるはずだろ!?」

「羽衣……狐…!」

『……リクオ?』



ふと疑問がわく。


リクオはあの時、お父さんがあの娘に刺された所を見ていないはずだ。勿論、羽衣狐となったあの娘のことも…。
でも、リクオがおじいちゃんと戦った時に言っていた言葉は…確信的なものだった。
まるで、羽衣狐がお父さんを刺したと知っているような……何故?


「姉貴」


突如ふってきた疑問に頭を悩ましていれば、リクオに呼ばれハッとする。


「……少し、話したい事がある」

『………いいけど、向かわなくてもいいの?』

「話が終わり次第、遠野を出る。」


いいな?と聞いてくるリクオに頷き返す。






所変わり、川…昨日京妖怪に襲われた所だ。


「姉貴はあの時…
親父が刺されたのを見たんだよな、目の前で。」


さぁ、どこまで話そうか。
今までこの話を口にしてこなかったリクオに完璧に油断していた。


『……そうよ』

「刺したやつ…見たのか?」


原作ではリクオはこの時点でどこまで知っていただろうか…それすらも覚えていない。


『…知ってる人よ。
リクオも、私も、お父さんも…彼女の顔を知ってる。』


その言葉に目を見開くリクオ。


「誰な……」

『慌てなくとも、いずれ嫌でも知ることになる。
だって、京都に行くんでしょう?』


リクオの言葉を遮って言えば、納得のいかない顔だが「あぁ。」と肯定する。


『じゃあ赤河童様に挨拶して行こうよ。』


これ以上面倒な事を聞かれても困るため、早々に話を済ませて歩き始める私。そんな私に、数歩後ろを歩くリクオが口を開く。


「なぁ姉貴、」

『今度は何。』

「あの時、何で姉貴は親父が刺される事を知ってたんだ? 親父を助けるっつって、姉貴はあの時あの場に残ったんだ。オレに本家の者を呼ぶように頼んで…。
あの時、何があったんだ?」


…お父さんやおじいちゃん達程じゃないけど、リクオだって鋭い。情報を取捨選択しなければ、あっという間に私の隠し事はバレてしまいそうだ。


『……リクオは小さくて覚えてないかも知れないけど、あの頃私は夢見が悪かったのよ。毎日同じ悪夢を見ていて、それがある日正夢となってしまった…てところかしら。』

「…親父が刺される夢、ってことか?」

『ううん。
正確にはお父さんが殺される夢よ。』

「!!
つまり、夢では親父は死んでたのか…?」


そうよと答えれば、だからあの時残ったのかとブツブツ言うリクオ。


「姉貴は…親父だけでなく、オレも助けてくれたんだな。」

『…何言ってんのよ、リクオが私を助けてくれたんでしょ。リクオが家に行ってなかったら、お父さんだけでなく私も死んでたわ。』


ありがとね、と振り向きざまに言ってそのまま歩く。


「顔赤ぇぞ。」

『……うるさい。
そういえば、私も聞きたいことがあるんだけど。何で羽衣狐とお父さんが…』

「待て姉貴、続きは赤河童に挨拶してからにしよーぜ。」


先にオレが行くと言い、鬼發をしてリクオが先に部屋に足を踏み入れる。
自分だけスッキリしやがって。
私はさっきからずーっとモヤモヤだ!



「邪魔するぜ」


突如現れた私達に驚く面々。一方淡島は、何でいるんだって顔をしている。


「リクオ!? 鯉菜も…アイツら何モタモタしてんだよ。さっさと出ていきゃいーじゃねーか」


周りの連中を無視して、赤河童の前に座るリクオ。
私は、リクオの左斜め後ろにでも座ろうかな。


「…てっきり勝手に出ていくものだと思っていた。死んでいないってことは…多少は強くなったんだろ?」


そう言う赤河童に対して、リクオと私は手を床につき頭を下げる。


「短い間でしたが遠野の皆様方には昨今駆け出しのこの私らの為に稽古をつけてくれたこと、厚く御礼申し上げたい。」

『このご恩は一生忘れません。
誠にありがとうございました。』


リクオとは違い、私のは普通の挨拶になってしまったけど致し方ない。任侠風な挨拶の仕方なんか知るか。


「律儀に挨拶しに来るとはな…」

「遠野とうまくやるために教えこまれた処世術かい?」

「ハハハ…じいさんの英雄譚ばかり聞かされているだろうに。実際は先代がやめてからの奴良組は弱体化の一途を送っているのにな…」

「お前は何も知らんか…」


好き勝手に話す赤河童らを黙って見るリクオ。
だが、不意に口を開く。


「…八年前、親父を刺したのはおそらく羽衣狐だ」


やっぱり……。
どうしてかは分からないけど、リクオは分かってたんだ。お父さんが羽衣狐に刺されたってことに。
いや、「おそらく」って言ってるから、感づいてるって言った方が正しいか。


「あの時を境に奴良組は弱体化し、関西妖怪が勢力を伸ばし始めた。
この因果が偶然じゃねぇとしたら…親父を刺したんは羽衣狐だ。」


リクオの言葉にようやく私の中で合点がいく。
その因果が必然的な物とまだ確信したわけじゃないから、「おそらく」なんだ。


「だからその女に会いにオレは京都へ行く。
この深い因縁を断ち切るために!!」


リクオの京都に行く理由を聞き、ザワザワと場がざわめく。


「超美人の友達を助ける為じゃなかったのか…?」

「四百年前の主…羽衣狐が親の敵。奴良組の若頭が老いた総大将に代わり妖の主を争うか! 面白い!!」

「見ものじゃな!! この遠野で高みの見物とまいろう!!」


各々が好き放題喋ってる中、リクオの言葉で次の瞬間…水をうったように場が静まる。


「なんだ?
こん中にオレが魑魅魍魎の主となる瞬間を一番近くで見てぇやつは誰もいねぇのか?」


その言葉に「何が言いたい」と目をギラつかせる遠野勢。おー怖い怖い。


「こんな山奥でえらそーにしてても、それこそお山の大将だ。京都についてくる度胸のある奴はいねぇのかって聞いてんだ。」

「ああああ!? 今何を言うたぁ!?」

「オレたち遠野を馬鹿にしたな!?
二度と出られねーようにしてやれ!!」


楽しんだり怒ったり、忙しい奴等だな。
だが次の瞬間…襲い掛かってくる犬河童を鬼憑で避け、赤河童に酒を注ぐリクオ。


「世話になりやした。これにて失礼。
……行くぞ、姉貴。」

『りょーかい、若』


部屋を退室するリクオに続き、赤河童に会釈して私も部屋を出る。
京都に行く時が着々と近付いていることに緊張感が高まるが…
今は父、鯉伴に会える日が近付いてることにワクワクだ。



(「・・・若って呼ぶなよ。」)
(『何で?若頭じゃん。』)
(「・・・いつもみてぇに名前で呼べ」)
(『(タラシめ)・・・お家に帰ろうか、リクオ』)
(「あぁ・・・!」)




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