この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ イタク現る

「…ぃ、……げん起きろ!」

『……んぅー』


誰だ私を揺すって起こすバカは。朝は揺すり起こすなって昔言ったよね。


『……………………you,……死刑。』

「は? 何寝ぼけてんだよ」

『…ぁ、リク……?』


ボヤーっとした視界が段々とハッキリしてきて、リクオと目が合う。


「相変わらず寝ぼすけだな」

『2日以上寝てたアンタに言われたくない』


リクオと久しぶりに会話を交わしていれば、知らない声が次々と聞こえてくる。


「ちぃ……アッチも起きたのか」

「あと半刻寝てりゃあ喰えたのに……」


キョロキョロと辺りを見渡す限り、服を着た動物がいっぱいいる。


『……わぁっ、何ここ〜オモシロ動物園??』

「何だと!? この小娘!!」

「たかが4分の1の存在で…生意気な」

「どうせ一日も持たず死ぬんじゃないか?」


好き勝手な言われようだな。にしても狭い。何これお椀? 奴良姉弟インお椀?


『まぁ、リクオとくっつけるから一歩譲って良しとしよう。』

「一歩かよ。全然気にしてねぇんじゃねぇか。」

『私の心は寛容だからね。……ん?』


地響きと共にドスドスと鬼(仮)が来る。
あぁ、そうだ。今更だけど、私アイツに乗ったままねてたんだった。


「やっと起きたがお前ら〜世話を焼かせる見習いじゃ〜。ほら、赤河童様にご挨拶じゃ!!」

「!!」

『きゃっ……ぐえっ!!』


説明しよう。
鬼(仮)がお椀を蹴ったせいで、私とリクオが大砲のようにポーンと出たのだ! くそぅ…せっかく女子力の高い悲鳴が出たと思いきや…! リクオに押し潰されて色気もクソもない悲鳴が出たではないか!!


『リクオ……苦しい。』

「あんたらがぬらりひょんの孫かい。ふむ、似とるな…あの頃のあやつが蘇るようだわい。優秀な奴だけ根こそぎ持って行きおって…おかげでワシらが手薄にさせられてしまうし、憎らしい…孫も憎らしい顔しとる」

「…あんたら誰だ。
じじいの知り合いか? ここはどこだよ」


その前にお前は私の上からどけ。内臓出る。


「おい 赤河童様に生意気きいちゃいけねぇ」


体の内にある臓器だから内臓なんだ。このままじゃ姉ちゃん外臓になっちゃうよ。


「ここは東北、遠野の里…古くから〈妖の里〉と呼ばれる隠れ里じゃ。」

「遠野……隠れ里?」


気付いて無視なのか、天然無視なのかもはや分からない。取り敢えずマジックで床に〈リクオ〉と書く。


「せいぜいしっかりやることだな。おいもうよいぞ、連れてって見習いの仕事を教えてやれ」

『……っはぁ! やっと解放された。』


猿たちが私とリクオの腕を掴み、どこかに連れていこうとする。今はこの猿に感謝だ。


「見習い!? 東北!? ふざけんな!!
オレは早く京都に行かなきゃなんねーんだよ!!」


その言葉に一同大声をあげて笑う。可笑しくて笑うのではなく、馬鹿にしたような笑いだ。仕方ないけど不愉快だな。


「〈畏の発動〉しかできぬお前では死に急ぐも同じ」


赤河童の右腕的存在の河童のその言葉にも耳を貸さず、リクオは私の手を引っ張り出口に向かう。


『ちょ、リクオ…?』

「こんなとこで油売ってる暇はねぇ、行くぞ姉貴!」


だが部屋の出口に着くと……


「そう簡単には出られないよ、ここからはね」

『……可愛くない(ボソッ)』


軒下に居る変な妖怪にそんなことを言われる。
そしてー


『また可愛いくない。』

「犬……?」

『おっと。』


河童犬に一回転して転がされるリクオ。
え? 私はちゃんと避けましたよ?


「はははははは! 河童犬に敗れたぞ!
奴良組の若頭は犬以下じゃ!!」

「あれじゃ、避けた姉も偶然じゃろう!!」

『…りっく〜ん、大丈夫?』


ポカーンとしたリクオに手を差し延べる。


「ジジイの時と同じだ……今何されたんだ」

『…リクオがあの犬に畏れちゃったんだよ。
妖怪は元はと言えば化かし合いの勝負だからね。』



そんなこんなで所変わりー


『ほい、出来たよー。持ってってー。』


私とリクオは川なぅ。洗濯物を2人でやってんのだ。


「……おぅ。」


私が川で洗い物をし、リクオがそれを干す。干すと言っても…この苔むした岩山を登って行かなきゃなんないんだけどね。


「うおっ!?」

『大丈夫ー? 私がそっちやろうか?』

「いってぇ…しまった、せっかく洗ったのに…
くそっ、何で苔むしてんだ。」

『(……大丈夫かな)』


転けて散らばった服を拾い集めるリクオ…可哀相に、家では家事全くしないのにね。


「おい新米共。ここ置いとくからこれも洗えよ」

「…なぁ、何でオレらがこんな場所でこんなことしなくちゃなんねーんだ」


あ、そういえば…私達が遠野にいる理由を話そうと思って忘れてたわ。


「テメーの爺さんが送ってきたんだろが。〈死んで本望〉〈我が愚孫をきたえてやってくれ〉つってよ。〈好きに使え〉とも言ってたで。人手が足りねーこっちは大助かりぃー」


ケラケラと笑う鬼(仮)の言葉に、リクオの米神がピクピクと動く。そんなリクオを無視して去ろうとする鬼(仮)を、リクオは慌てて呼び止める。


「なんでこんな洗い場と干すとこが離れてんだよ!?」

「…そりゃこの里はケムリだらけで日の当たる土地がすくねーからな。その分妖気もたまるでな。
カリカリ働けよー!」

『…あ、私も夜の姿だ。気付かなかったわ。まっ、いいや。リクオー、落とした奴持って来て、洗い直すから。』

「悪ぃな…姉貴。」

『いいのいいの。それよりその間にその蒔を割ってくれるかしら。』


新しく増えた洗濯物の前に、リクオが落としてしまった服を再び洗う。一方でリクオは蒔割り中だ。


「……洗濯ってのは大変なんだな。」


急にポツリとこぼすリクオ。


『そうね……つららとか皆に感謝しなくちゃね』

「……姉貴もたまにやってるよな」


あれ、見てたんだ。どうせ知らないのかと思ってたけど。


『暇でやることがない時はね。』


前世ではゲームとか漫画で手伝いが嫌いだったけど、奴良組にはゲームないから基本暇なのだ。
つぅか手が止まってるぞ、リクオ。


「よし、逃げよう。」

『…リクオさん? 全然〈よし〉じゃないよね』

「やってられっかよ、こんなこと。誰も見てねーし行くぞ!」

『え、えぇー……仕事が……』


あぁ、こうなったらもう駄目だ。リクオは決めたらやる子だもんね。良い意味でも悪い意味でも。
逃げる気満々なリクオに対して、怠そうに走る私…何て対照的でシュールな光景なんだ。


「姉貴! 橋だ!!」

『へいへーい…………ん? その橋……』


距離が少し離れているから分からないが、何故だかその橋に違和感を感じた。
……偽物?


『リクオ、ちょっとま……っリクオ!!』


遅かったか!
橋に足を踏み込んだ瞬間、それは幻となって消える。そして橋が消えたことで、リクオ自身も空から落ちてゆく。結構な高さがある…落ちてしまったらタダでは済まないだろう、早く助けなければならない。


『…くそっ、間に合わな……』

「バカだなーお前ら…
お前らじゃこの里から出られねぇってば」

『……あっ』

「見張りが付いてて良かったな。
この〈鎌鼬のイタク〉がな!!」


出たーーーーー!! カッコ可愛いーーー!!
背中にある鎌を取り出し、それを投げる。投げられたそれはまるで意思があるかのように木々の間を通って行き、そして木の網が完成した。


『……凄い……』

「おめーら…本当にこの遠野の里を知らねぇんだな。ここは〈隠れ里〉…言ってしまえば里全体が〈妖怪〉。畏れを断ち切る力がなけりゃ死ぬまでここから出られねぇ!!」


可愛い…何て美形なんだ…!
じゃなくて、


『あの、リクオを助けてくれてありがとう!』

「!
別に、俺はコイツの教育係だからな。
当然のことをしたまでだ。」


やっぱりな。漫画見てた時から思ってたけど、コイツやっぱツンデレだぜ! お礼を言うだけで照れちゃったよ可愛いのぅ。


「…おい、今何て言った!? 畏れを…断ち切る力!?」

「そーだよ。何だ? まだ逃げる気か!?
バッカでねーの? 今のお前じゃ無理だよ!」


うわーお!! 方言!! イタクの方言が出た!!
なんてカワユイの!! リクオに負けず劣らずだ!!


「……姉貴!」

『え、あっはい! 違うよ!? リクオも可愛いから!負けてないから安心して!?』


慌てて弁解をするが、リクオに変な目で見られる。
……久しぶりにその目を頂きました。


「何の話してんだ。
じじいが俺達をここにつっこんだ理由がようやく分かったぜ!〈畏れを断ち切る力〉…それを使えるようになるんだ!!」

『(そっちか。)
……ふふ、そうね。一緒に頑張ろうリクオ!』


やっとココでする事が分かったようだ…
これで少しは安心だ。
にしても、私の教育係は誰なんだろうか。
オラ、ワクワクすっぞ!!


(『えっと・・・イタク、くん・・・だっけ?』)
(「イタクでいい。」)
(『分かった、じゃ私の事も鯉菜でいいよ。これからリクオ共々よろしくお願いします』)
(「あぁ・・・。」)
(『ほら、リクオはまずお礼を言いな』)
(「お、おぅ・・・助かったぜ、イタク。」)




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