この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 二人目の正体(鯉伴side)

『じゃ、もう1人地獄に居た奴についてなんだけど…そいつはお父さんに大変な怨みを持ってます。何したんですか、父上。』


フォークでカステラを刺し、そのまま俺の前に持ってくる鯉菜。
…マイクか? マイクのつもりなのか? てか食べてもいいのかソレ?


「あーん……甘いな。」

『当たり前でしょ。カステラに何の期待を抱いてたんだ。んで、何したの?』

「モグモグ…何ひはっへ言わへへもねぇ、ゴクッ…
任侠一家の頭だからなぁ。オレに怨みを持って死んだ奴なんかたくさんいるだろうよ。」

『もっともだ。でも江戸時代に絞ったら?
江戸の時に大きな出入りとかなかった?』

「どうして江戸なんです?」

『そいつが江戸に鯉伴に葬られた的な事を言っていたから。ほらほら、お父さんでも首無でも誰でもいいから。…皆知ってること早く吐け!』


コイツ絶対に面倒くさくなってきたんだな。早く終わらせたいオーラが出てる。


「江戸に大出入りっつったら…
やっぱ山ン本ですかねぇ?」


そうさねぇ…あれが1番大惨事だったなぁ。


『はい出たぁ。知らない名前が出ましたよ〜!』


話して話して〜!!?とパンパン手を叩く鯉菜はせっかく可愛いのに立派なオッサンである。誰の遺伝だよこれ。


「……オレじゃねぇよな。」

『はぁ? 何言ってんの。いいから早く吐け!
山ン本とは何があって戦ったの?』

「山ン本はなぁ、江戸で妖を生み出して悪さしてた奴だ。」

『最後はどんなふうに倒したの?』

「確か…山ン本自身が妖怪になったんだよなぁ。小さく分裂していった山ン本の妖怪を倒してって…最終的に本体を倒した筈だが?」

『…分裂……山ン本が。』


鯉菜は顎に手を添えて考える。


「何か引っかかるのか?」

『全員、倒したの?』

「…何が言いたいんじゃ?」

『……首無、青、黒。あんた達はどう思う。一匹残らず山ン本を駆逐した? それとも、生き残りがいる可能性があると思う?』


親父の言葉を無視し、鯉菜は3人に問い詰める。包み隠さず吐けって顔だな。


「……オレは、生き残りがいると思います」


そうポツリと言葉を漏らしたのは首無。


「二代目…黙っていてすいません!!
実はあの時、何人か逃してしまいましたっ!!」

「なっ、首無! おめぇ……!!」

「やめろ、青。首無に非はねぇ。」

『そうね。責めるつもりはこれっぽっちもないわ。
でも、話してくれる? 知ってること…』

「……はい。二代目が黒田坊と一緒に山ン本を倒している間、オレは町の人を避難させていました。
ですが、途中で山ン本の1部だと思われる奴らが数人現れたんです。そいつらは、今まで倒してきた山ン本とは明らかに違ってました……。」

『戦ったの? そいつらと。』

「いえ…二代目の、奴良組の弱味を聞いてきたんです。もちろん、話してはいません!! 誓って!!」

『分かってるよ。首無はお父さんを本当に想ってくれてるの…知ってるから。』


そんなことがあったのか…知らなかった。


「そうだぜ、心配しなくともそんくらい分かってらぁ」

『あ、こういうのはどう?
山ン本は、同じく鯉伴を邪魔に思う安倍晴明と地獄で手を組んだ。山ン本がいたからこそ私は狙われたし、乙女さんも羽衣狐になってしまった。』

「……ん? どういうことじゃ?」


山ン本がいたから……〈こそ〉?


『もし地獄に居たのが安倍晴明だけだったら、私や乙女さんの存在を知らなかったんじゃないかな。
つまり、山ン本は奴良組の弱味を握るために、自分の生き残り者を奴良組に置いているってこと。だから鯉伴に娘がいる事も知っていたし、乙女さんの事も知ることができた。そしてその弱味を安倍晴明に伝えたってこと。』

「…要は奴良組に山ン本の内通者がいるかもってか。よくそんなこと思い付いたな。」

『え、私も山ン本の立場だったらそうするし。』


何コイツ、怖ぇな。


「えぇー……ここまでの話を纏めますと、
羽衣狐の復活には二人の人物が関与しているということですね。一人は羽衣狐の子だと考えられる安倍晴明、もう一人は江戸に二代目が葬った山ン本。」

『そゆこと。…で? お父さんはどうすんの。』


木魚達磨のまとめに満足そうに頷き、鯉菜はオレに問いかける。どうするって、何がだ?


『リクオは京都に行くよ。お父さんは?』

「……オレも行くぜ。リクオを見守るために、そして…乙女にも謝りてぇ……。」

『……じゃあ私も行く。
分かってると思うけどお父さん…私にとってお母さんは奴良若菜だから。…お母さんを悲しませるような選択だけはやめてよね。』


そうか…今の言葉でようやく分かった。
コイツは不安なんだ。オレが若菜やリクオ・鯉菜を置いて、乙女の所に戻ってしまうことを恐れている…。だからオレと行動を共にするって言ってるんだ…オレを見張る為に。


「…オレは随分と信用ない男なんだなぁ?」

『……好きになった女一筋だから、余計心配なだけよ。お母さんのことを愛してるのは分かってるけど、乙女さんのこともまだ忘れら…』

「鯉菜、黙れ。」

『……ッ、……ごめん、なさい…。』


言葉を遮って強目に言えば、鯉菜は肩を揺らして謝る。


「…こりゃ鯉伴、何不貞腐れとるんじゃ。」

「…別に。不貞腐れてなんかねーよ。
それより話は終わったんだろ? オレはもう寝るぜ。」


おやすみも言わず、部屋を退室する。
正直、親父の言葉にオレは図星だった。確かにオレは乙女を愛してたし、今でも会いたいと思うことはある。だがそれは恋愛的な意味ではなく、謝りたいからだ。流石にオレだって、若菜がいるのに乙女とヨリを戻そうなんざ考えねぇ。
なのにー


「……何でこんなイラつくんだ。」


悩みがあっても父親のオレを頼らず、ましてやオレを信用してねぇ鯉菜に苛立ってしまう。
でも一番腹が立つのは…


「娘を安心させることもできねぇ、自分自身にだ」



(『・・・お父さんを・・・傷付けた』)
(「お嬢・・・」)
(「そんな気に病まずとも・・・明日には機嫌も直ってますよ!」)
(「そうじゃ、放っておけ。イジけてるだけじゃ。」)




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