この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 一人の正体(鯉伴side)

『敵は…羽衣狐だけじゃありませんよ』


鯉菜のその言葉は俺たちを尚一層、混乱に落とし入れた。


「鯉菜様には他にどういった敵が見えてるのですか?」

『……羽衣狐の他に2人はいるかな』


質問するカラス天狗に鯉菜はひょうひょうと返す。どうやら緊張がだいぶ解けてきたようだ。さっきまでの真面目な雰囲気が、いつものものへと変わる。
にしてもー


「2人? 偉い明確な数字を出すんだな。
誰か心当たりでもあんのかい?」

『さっき言った夢に出てきたんだなー、これが。
夢と言っていいのか分からんけど。』

「…あのぉ、お嬢。」


言いづらそうに、口を開いたのは青田坊。


「その夢の話とやらをワシら知らねぇんで…良かったら詳しく話してくれやせんか」

「…そうだな。俺と親父も、おふくろが夢に出たって事以外は聞いてねぇし。さっきの依代の事も含めて、詳しく話してくれ。」


そう言えば、まるで元から話すつもりだったかのように、頷いて了承する。


『了解。…何年か前、私が3日間起きなかった事があったでしょう? あの時に起きたことなんだけど…私、地獄に行っておりました。』


地獄ぅぅううう!!???と綺麗にハモる数名に、少し黙るよう告げる鯉菜。いやいやいや、急にそんなこと言ったら誰だって驚くだろうよ。


『なぁんか変な奴二人の声がボソボソ聴こえるなぁーって起きたら、地獄に居たの。ビックリでしょ?』


ビックリだな。
つぅか、よくこんな話を笑いながら話せるな。


『んで、そいつらが私を依代にしようとしてたの。さっき言った通り、お婆ちゃんのおかげで助かったけどね。』

「…何で依代にされると分かったんじゃ?」


親父の質問に一瞬、顔に動揺の色が浮かぶ。だが、それもほんの一瞬で直ぐに話始める。


『…今だから分かったのよ? 当時は話の内容が難しくて分からなかったわ。でも、あの時私の身体と魂は分離されてて…謎の2人は私の身体に〈羽衣狐を憑かせよう〉って話してたの。私の魂が地獄に居る間にね。』

「その二人は誰なんです?」

『知らんがな。』


木魚達磨の問いはアッサリと切り捨てられた。


「何じゃい! 分かっとるんかと思いきや!!」

『分かりそうで分からないんだわ!
だから少し時間をくれっつったのよハゲ頭!!』

「何じゃと!? 誰がハゲじゃーーーー!!!」


親父…そこは鯉菜の言う通りだぞ。時間をくれなかったのは親父だし、確かに禿げている。


「総大将、落ち着いてください。
鯉菜様もそれは禁句です。」


牛鬼、お前それフォローに微妙になってねぇぞ。ハゲなのを認めてるから〈禁句〉なんだろ。


「分かりそうで分からないと仰りましたが…お嬢は何か予測がついてるんですか?」


イイこと聞くねぇ首無。親父との争いをやめ、コホンと小さく咳をする鯉菜。


『一応はね。でも私は皆ほど長くは生きてないから、情報がない。だからパズルも完成しない。パズルを完成させるためにも、皆には私にピースをくれて欲しい。』


パズルのピース…ねぇ。
なるほどな、情報は多ければ多い程いい。だから親父の代と俺の代の両方から、数人ずつ呼び出したのか。


「分かった。んで?
お前さんは何が知りたいんだい?」

『そうね…じゃあまずは山吹乙女さんについて教えてくれる? 私の代わりに依代になっちゃったみたいなモンだし…』

「…山吹乙女はオレの前妻だ。江戸の頃に夫婦になったんだが、子供がなかなか出来なくてな…責任を感じた乙女が奴良組を去ったんだ。そして、そのまま辺境の地で亡くなった。」

『…………そう。
…お父さんはどう思ってるの? あの日現れた女の子のこと。今のお父さんの話を聞いたら、私は…あの女の子が乙女さんそのものだと感じたけど。』


コイツの言う通りだ。あの時居た目玉親父のセリフからもそうとしか考えられねぇ…。


「確かにあの女の子は乙女そっくりで、オレもお前さんと同じ考えだぜ? でもよォ、アイツはもう…死んだんだ。」

『…でも、乙女さんの親戚とは考えられない。〈昔愛した男〉ってお父さんを指して言ってたし、実際にお父さんを傷付けたことに絶望して羽衣狐となったんだから。
ということは…生き返ったンじゃないの?
……誰かの術とかで。』


鯉菜の考えに場がどよめく。


「そんな術、羽衣狐に使えるとは思えんがのぅ」

『そうだね。羽衣狐には無理だね。
でも地獄に居た2人の内の1人なら…できるかも。』

「そいつぁ術師なのか。」

『おそらく。陰陽師っぽい格好してたし。それに私が逃げようとしたら、術使って来たし? そもそも人の体に羽衣狐を憑かせようとしてる時点で、半端ない奴だと思うけど。』


羽衣狐の転生を裏で操ってたってわけかい…誰なんだソイツ。


『多分、羽衣狐が産もうとしている奴なんじゃないかなーって思ったり思わなかったり…。
と言うのも、地獄でそいつが言ってたのよ。
〈奴良鯉伴に母は何度もつぶされた。彼奴を消さねば私は復活出来ない。〉
……これを言い換えるとどーなる?
〈鯉伴がいなければ、母のおかげで私は復活できた。〉
ー そして私が選ばれた。
娘という立場上、鯉伴を殺しやすいし…それに羽衣狐に乗っ取られる条件を満たしやすいでしょ?』


なるほどな。確かに鯉菜だったらオレは完璧に油断して殺されていただろう。次いで、オレを殺したことから鯉菜は絶望し…そのまま羽衣狐に乗っ取られるってことかい。


「……胸糞わりぃ作戦だな。」

「しかし…羽衣狐が産もうとしてる奴はいったい何者なんです?」

『…牛鬼とか物知りじゃん。何か思い当たることない?』

「狐を母に持つ陰陽師…。噂にしか聞いたことないのですが、安倍晴明、彼ならば蘇生の術などを使ってもおかしくはないかもしれません。」


安倍晴明……
有名な名前だが、アイツ悪い奴だったのかい。


『へー、じゃあ地獄に居た奴の1人は安倍晴明ってことで決定ね』

「……はっ!? あ、あくまで噂ですし、決めるのにはまだ不充分かとっ……」

『いーよいーよ!! 仮決定なだけだし。
それに考えたってこれ以上分からなくない?』

「お前さん…考えるのに飽きてきたんだろ」

『よく分かってんじゃん。私まだ禿げたくないし』

「誰がハゲじゃ!!!」


……落ち着けよ親父。


『というわけで、5分休憩ちょーだい。
頭疲れたからチョコ持ってくる。』


虫歯になるぞ、もう夜だし。


(「・・・オレも甘い物食べて来ます。」)
(「カラス天狗・・・カステラが確かあったじゃろ。持ってきてくれんか。」)
(「青・・・お前、大丈夫か?目が死んでるぞ」)
(「黒・・・ワシはもう頭が痛い。ついてけん」)
(「お前ら・・・まだ話終わってないんだぞ」)




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