▽ 思わぬ助け
『てくてくてく…ガラ〜ッ。
わぁー☆ 豪華なメンバー! 帰ってもいい?』
「何言ってんだ。お前の家はここだろ。」
んなもん分かってるよ!
でもこれ…ツライッス。揃った面子はお父さん、おじいちゃん、カラス天狗、木魚達磨、牛鬼、首無、黒、青。大体は分かってたけど…全員キリッとした顔で円形に座ってるのを見たら、帰りたくなったわ。カラス天狗、首無、黒、青は…まぁ、なんとか大丈夫そうな気がする。木魚達磨も気をつければ大丈夫な気がする。問題は、牛鬼とぬらりひょん親子だ。この3人が危険なんだよ…
『混ぜるな危険ってまさにこのこと。』
「どうかしたのですかな、鯉菜様」
『何でもないですよ、牛鬼。』
でも、ここまで来たからにはもう逃げられない。
「して、今回はどういったご用件で?」
スタートダッシュを一番に切ったのは木魚達磨。
あっれぇ、もしかして何も説明してないの?
達磨だけじゃなくて首無達も不思議そうな顔をしてるけど。
「用があるのはわしじゃなくて、鯉菜じゃ。」
そう返すおじいちゃんに、皆驚いた顔をする。
やめてー。こっち見ないでぇー…
「それでは……鯉菜様どうぞ。」
『あ、はぃ……。』
達磨の言葉で空気が一瞬で変わる。
まるで、一言も聞き漏らさないようにしている感じだ。
…緊張する。
元々人前で発表とか全力で避けるタイプだし。いくら少人数で家族とはいえ、緊張レベルが半端ない。だって内容が内容だもの。
『……っ』
そもそもどこから話せばいいんだ。
もし情報を選択ミスしたら…どうなる? 今まで考えないようにしていたけど、皆思うだろう…
ー 何でそんなこと分かるんだ、
ー 何でそんな情報を持ってるんだ、
ー 本当は敵の息が掛かってんじゃないのか、
挙げたらキリがないけど、きっと敵と思われるだろう。
「…ぃ、……」
いや、もしかしたら既に敵視されているのかもしれない。私の正体を暴くために、おじいちゃんは今回こういう手にうつったのかも。
「……ぃ、おぃ、……て」
敵だとみなされたら、皆私を攻撃するのだろうか。
雪女は氷で、青は素手で、黒は暗器で、首無はあやとり、毛倡妓は髪の毛、そしてリクオやお父さんも……私に刃を向けるのだろうか。
「おいっ!! 鯉菜っ!!」
『! ぁ...ご、ごめん...』
お父さんの私を呼ぶ声で現実に引き戻される。
『どっから話そうか、悩んでたの…えっと、』
慌てて話そうとした時、
『ッきゃあ!!???』
目の前を黒い物が落ちていく。
『な、何!? 虫ぃぃい!??』
「お、落ち着け! 鯉菜! 虫じゃねぇから!!」
その言葉に落ち着いた物を見れば…
『さ、三の口……?』
黒い着物を着ているポケっと顔をした三の口だった。周りを見れば、皆「お前いたのか…」ってマヌケ顔をしている。どうやら私にいつの間にか引っ付いていたようだ。
『…プ、クク……アハハハハハ!!!!』
強い皆が弱小妖怪の三の口にポカンとしているその光景が、どこか滑稽で笑ってしまう。
『アッハハ! あー、可笑しいー…フフッ』
何だかウジウジと考えていたのが馬鹿らしくなってきた。
『…ありがとう、三の口。
でも今から話があるから外で待っててね。』
三の口を部屋から出し、皆と向き直る。
…失敗した時のことを考えても仕方ない。
敵と見なされれば、逃げればいい。
独りなんて慣れっこだ!
そう自分に言い聞かせながら…大きく深呼吸して、頭を冷やし、心を落ち着かせる。
『…お待たせ致しました。本日集まってもらったのは他でもない、羽衣狐について話があるからです。』
「あの陰陽師の言っていたことか。
リクオ様は京都に行くつもりだとお聞きしましたが、鯉菜様はどうなさるのです?」
『まだ分かりません。父、鯉伴の行動しだいです。』
「……それはどういう意味ですかな?」
『…そうですね…これは私の憶測に過ぎないのですが、あの日、あの時、父を刺したあの女の子のことを…父はご存知ですよね?」
お父さんはあの女の子が乙女さんだと薄々気づいている筈だ。
「ど、どういうことです!? 二代目!!」
しかし皆の様子を見ると、おじいちゃんと木魚達磨、カラス天狗、牛鬼にしか話していないようだ。
「鯉菜はどうしてそう思うんだい?」
首無らの質問を無視して、こちらにふってくるお父さん。
『あの女の子の後ろにいた目玉親父が言っていました。〈自ら愛した男を刺した〉〈できなかった偽りの子のフリをして〉…お父さんに昔何があったのか知りませんが、恋人関係に合った人なのでは?』
……あぁ、私って嫌な娘だな。
お父さんのこんな辛そうな顔なんて、見たくなかったのに。
「……もしや、山吹……乙女、さま…」
『…山吹、乙女…? 誰なのそれは』
首無がポツリと呟いた言葉を拾い上げ、説明をすることを促す。だが、お父さんを気遣ってか…なかなか口を開くことはない。
……仕方がない。
『その方のことを私はよく存じ上げませんが…羽衣狐の依代はそのお方です。』
「…なっ!! そんな、どういう事ですか!?」
「あの方はもうお亡くなりに……っ」
『…亡くなっている? それは変ですね。
羽衣狐の仕組みをご存知でしょう? めぼしい幼子について、宿主を乗っ取ると…。』
「だからこそ、あのお方が依代などありえません!!」
『でも、実際にそれが起こっていますよ?』
「鯉菜様!!!」
「お嬢! いくら何でも……」
首無や黒、青はお父さんに辛いことを思い出させたくないのだろう。だから山吹乙女さんのことをなかなか話してくれない。ましてや、乙女さんが羽衣狐の依代だなんて言って欲しくないのだろう…
だから私に対して怒り咎めている。
でも私だってもう後には引けないんだ。
『……本来なら私が羽衣狐の依代になり、父を殺していました。』
「なっ…」
「……どういうことじゃ」
「鯉菜…様?」
私の言葉に全員驚いた顔をする。
当たり前だ、この話は誰にもしていない。
『昔、私の祖母珱姫が夢に出てきた事がございました。当時、私はまだ幼かったので分かりませんでしたが…今なら分かります。
あの時珱姫は…私が依代にされそうなところを助けて下さったのです。』
おじいちゃんとお父さんには、珱姫が夢に出て私を助けてくれたとしか話していない。依代のことは言ってなかったのだ。だから二人は今とても驚いているし、他の皆はもう混乱状態だ。
『…敵は……羽衣狐だけじゃありませんよ』
不穏な空気が流れるこの部屋とは逆に、外はいつも通りの賑やかさ。
奴良組の上には闇夜に映える月…
あの夜の日の月と同じように、恐ろしく綺麗な月があった。
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