この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 決意

『はぁあぁ……どうしようかなぁ……』

「何だい、その気の抜ける溜息は。」


ごきげんよう、皆様。夏休みに入り、私、鯉菜はただいま縁側でガリガリ君をガリガリ食ってます。


「…何を悩んでるんだい?
お前さん、最近溜息ついてばっかだぞ。」


そうなんです、今超絶悩んでいます。何も考えずにノコノコと遠野に大人しくついて行くか…それともお父さん達とシリアス会議を開くか。


『どっちにしようかな〜って悩んでるの』


前者だと、ガチな成り行きに任せることになる。でもそれだと…お父さんが暴走して命落としたり、乙女さんとフワフワな空気になったり、お母さんとお父さんの仲が倦怠期になったりしないかなぁってな感じで色々とマイナス思考に陥ってるんですよねーこの間から!!


「…聞いてんのか? さっきから人の話を」

『あれ、喋ってたの?』

「お前なぁ…。
まぁいい、どっちにしようかって、何の事だ?」

『んー? 次のガリガリ君、ソーダ味と梨味どっちにしようかなぁって。』

「…まだ食うのか。お腹壊すぞ?」

『うん。だから今日は食べないよ。明日食べる味を今決めてんの。』

「早くね!? 明日決めればいいことだろ!!
…つぅか美味しそうに食べんなぁ。一口くれよ。」

『ん。』


かじりかけのガリガリ君を突き出せば、それにかぶりつくお父さん。ちなみにこれはコンポタ味だ。


「美味いな…でもこれ変わった味だな。」

『コンポタ味。美味しいと噂になってるから青に頼んで買ってきてもらったけど、個人的にこの味は嫌いだな。』

「こんなにうめぇのにか?」

『じゃあ食べて。要らない。』

「あいよ。
……お前さんよ、」


急に真剣な顔をするお父さんに少しドキッとする。ちなみに、ときめきのドキッじゃなくて、「やっべ…」的なドキッだからね。


「味覚がおかしいんじゃないか? 美味いぞこれ」


……失礼な奴だな、この緑シマウマ野郎め。


『舌が腐ってんじゃないの? 不味いしそれ』

「失礼な奴だな、この不良娘め。」


お互い悪態をつきながら、縁側で特にすることも無くボーッとする。
…食べ終わるの早くね?


「…で? 本当は何を悩んでんだい。」

『…………ガリガリ君の頭の斑点について。』


いつもの乱暴な感じでわしゃわしゃするのではなく、本当に優しく私の頭を撫でるお父さん。
いつも恥ずかしくてつい避けたり手を払い除けたりするけど…本当は撫でられる度に嬉しかった。嫌がってる素振りを見せちゃうけど、実は甘えたかった。


『あの斑点もトゲトゲも気持ち悪い…』


最悪…京都編でこの関係もなくなっちゃうのだろうか。もし、乙女さんと…よりを戻したりしたら、こんな風に頭も撫でて貰えなくなるのだろうか。


『……妹も可愛くない。』


…お父さんに寄りかかるなんて、いつもの私じゃ考えられない行動だ。少し照れくさくて、肩に力が自然と入っちゃうけど…でもお父さんが遠くに行っちゃうんじゃって考えが頭から離れない。


「……………………確かになぁ。」


こんな暑い中、寄りかかってきた私を退けようともせず、変わらず優しく頭を撫でるお父さん。



「……なぁ、鯉菜」


やめてよ


「オレ達はいつでも話を聞く、だから…」


そんな優しい声で呼ばないで


「無茶だけは…してくれるなよ」


壊れてしまうじゃない。


『……してないよ、無茶なんて。』


私はいつも逃げてるから


『してないし、しない……』


自分を守るために、
傷付くのが怖いから、


『だから……安心して』


私はー
臆病者だから。



「あら、鯉菜ちゃんがあなたに甘えてるなんて…珍しいわね〜!」


突如後ろから聞こえてきた声にビクッとする。


『お母さん…』

「そうだろ? 珍しいこともあるもんだ。」

「ふふっ、良かったわね! 鯉伴さん!」


2人で笑いあっているその姿は正に理想の夫婦像で…尚更、壊れる可能性に恐怖を感じた。


『………………』


壊れて欲しくない。2人にはずっと一緒に居てほしい。乙女さんには申し訳ないけど…でも、2人には幸せでいてもらいたいんだ。


「あら? そういえばリクオは?」

『リクオなら学校の友達と外で待ち合わせだって』

「やっぱ男の子は元気で活発ね〜!」


そう言って、洗濯をしに行く為にここを去るお母さん。手伝うと言ったけど、「せっかくなんだから2人でのんびりしてなさい!」と断られた。何がせっかくなのか分からないけど、でもこれからもこうやって皆で一緒に暮らしたい。
ーだったら……



『……後者、になるか。』

「鯉菜?」


皆が知ってる情報、
前世である〈私〉が知ってる情報、
鯉菜である私が知ってる情報。
これらをそれぞれ整理しなくちゃならない。
整理して、考えて、境界線を引いて、そして敵の正体を言おう。そしてお父さんには乙女さんよりもお母さんを選んで貰うんだ。乙女さんと話して、わだかまりを失くすのは構わないけど…乙女さんとの復縁は嫌だ。あちこちで関係が崩れてしまうから。

問題は、敵の正体を推測するその過程作りだ。

〈私〉が知ってる情報を除外した上で、私の情報でその過程を作る。
そして、そのうえで重要なのが…


『どの面子を集めるか……か。』


私が知る筈もない情報を皆に吐かせつつ、私のもつ情報と組み合わせて、敵の正体を突きつめる。つまり、私にない情報を持っている面子を選びださないといけないのだ。
慎重にやらなければ。
1つでも綻びが出ればそれは広がって…全てがダメになる。


『……お父さん』

「何だ?」


リクオがおじいちゃんに負けるのは恐らく今日だ。清十字団に会いに行ったんだから、きっと帰ったら「京に行く」って言うだろう。遅くとも明日だ。


『今日…いや、明日か明後日、話したい事がある。』

「……ああ。明日か、明後日な?」

『そう。大事な話。今はまだ、分からない事だらけで話せないから…纏まり次第話す。』

「分かった。聞くのはオレだけでいいのかい?」

『いや、他にも何人か要るようになるけど…それが誰になるかもまだ分からない。これも決まり次第言うから…』

「…ああ。分かった。
…焦らなくていいから、ゆっくり考えな。
いつでも話は聞くからよ。」


何年ぶりだろう。こうやって抱きしめられたの。
恥ずかしいけど、嬉しくて心が温まった。



(『・・・ホッとする(ボソッ)』)
(「ん?何か言ったかい?」)
(『うんにゃ、何も言ってない。』)




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