10月31日。ハロウィン。

毎年恒例となりつつあるこの楽しい行事。
今年は……異三郎さんと恋人同士となった今年からは、今までとはちょっぴり違う感じになるのかもしれない。


そんな期待と不安を胸に抱き、迎えた当日。

事前にお菓子は用意しなくていいと言われていた私は、今年は一緒に買いに行くのかななんて安易に考え、後悔した。

夕方、仕事から帰って来た異三郎さんとソファでくつろいでいた最中、ごくごく自然に彼の口から飛び出た“トリック・オア・トリート”の言葉に差し出すお菓子なんて何も無くて。

……そうなると、残る選択肢は“イタズラ”しか無い訳で。

「今から買いに行ってきます!」……なんて言う間もなく。私は、異三郎さんにソファへと押し倒されてしまった。




「あ、あ、あ、あの……!?」

「知っていますか、なまえさん。ハロウィンは友人との友情を深める為の行事ですが……恋人同士では愛情を深める為の行事になるそうです」

「へ?あ、えっと……そう、なんですか……?」

「ええ。あえてお菓子を用意せず、“イタズラ”を通して相手との仲を深めるとか。……という訳ですので、手始めに口づけを良いですか?」

「え!?そ、そんなイタズラ………あ!でも、ほ、ほっぺたですよね?それなら……」

「いえ。頬ではなく、こちらに」

「……え」




異三郎さんの指先が私の唇を優しく押した。


(くち、びる…………く、唇!?)


意味を理解した瞬間、カッと体中が熱くなった。
尚もふにふにと弄ぶように唇に触れる異三郎さんの表情は何だか艶っぽくて、それが更に私の中の羞恥心を掻き立てる。

慌てて彼の手を握って制止し、上擦ってしまうのも気にせず声を上げた。



「あ、あ、あ、あのっ……わ、私、まだ、そのっ……!」

「ダメですか?」

「……だ、ダメ……です」

「…………」

「ご、ごめんなさいっ……心の準備が……その……」



まさか“イタズラ”が、唇にキ…………キスすることだなんて…!


(ほっぺたへのキスでさえもまだ恥ずかしいのに……唇になんてされたら、心臓止まっちゃうかも……っ)


バクバクと暴れる心臓を落ち着かせようと深呼吸をしていると、私が息を吐き出したと同時に異三郎さんの口からも深い溜め息が零れた。



「……なかなか手強いようで」

「へ?」

「いえ、何でもありません。しかし、唇への口づけがダメなら、何か別のことを考えなくてはいけませんね……」

「やっ、あの!今からでもお菓子買ってきますから……「ああ、良い案が浮かびました」……うぅ……」



やけに乗り気な様子の異三郎さんに異議を申し立てたところで聞いてもらえるはずもなく……。私の言葉を流したのち、何か思い付いたらしい彼はおもむろに体を退かし、次いで私の体を抱き起こしながら微笑んだ。



「なまえさんから私に口づけをして下さい」



……とんでもない提案を口にしながら。



「え………………えぇぇ!?む、む、無理ですっ!!そんな、わた、私が、異三郎さんに……き、き、き、キスするなんて…っ」

「けれどこれ以外何も浮かびません。場所はどこでも良いので、どうかなまえさんから私に口づけを」

「そ、そんな……私……「嫌ですか?」……え?」

「私に口づけをするのは……嫌、ですか……?」



私の肩を抱き寄せ、覗き込むようにして見つめてくる異三郎さんの表情が見るまに寂しげなものへと変わっていく。

……ああ。ズルイ。そんな顔されたら…!



「っ……い、嫌な訳ないじゃないですか!」

「では、してくれますね?」

「え?!あ、えと…………うぅ……………………は、い……」



拒否出来ないに決まってる。


小さく返事をすれば、寂しそうだった異三郎さんの表情が安心したような、穏やかな笑顔に変わった。

……ズルイ。ズルイ!
寂しげな表情からのホッとした笑顔なんて、もう絶対に後には引けないよ!



「あの……め、目を、閉じてもらえると……」

「わかりました」

「ほっぺたですけど…………ほ、本当に!き、キス、しますよ…!」

「はい、お願いします」



言う通り目を閉じた異三郎さんの肩に手を掛け、何度も深呼吸を繰り返した後ゆっくりと顔を近付けていく。

ドキドキと心臓の音がひどく煩い。

手が震える。手汗もすごい。下手くそだって思われたらどうしよう。



「っ………」



(ああ、でも……っ)



もう、触れてしまう―――………




あと少しで異三郎さんの頬へと触れる、寸前。
静まり返っていた部屋に、賑やかな電子音が響き渡った。



「…………」

「…………」

「…………あ、あの。携帯、鳴ってますよ……?」

「………………………はぁ……。すみません、ちょっと失礼します……」



あからさまに不機嫌になった異三郎さんはソファから腰を上げ、少し離れた場所で鳴り続ける携帯を懐から取り出し通話を始めた。



(……よ、良かったぁ……!)



キスを回避したことに一気に力が抜ける。

決して嫌ではないけれど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。もっと心の準備が出来てからじゃないと…………、



「……はぁ!?」

「っ!?」



ぐるぐる考え込んでいると、異三郎さんの大きな声がして反射的にビクリと肩が跳ねる。
急にどうしたんだろう……。



「今からなんてそんな急に……ちょっ…………ああ、もう!」

「あ、あの……」

「…………なまえさん、すみません。その……急な仕事が入ってしまいまして……」

「え……」



“急な仕事”

その一言は、頭をガツンと殴られたような強い衝撃だった。



「……本当にすみません。帰りも何時になるか……」

「っ………あ、えと……だ、大丈夫ですよ!お仕事、が、頑張って下さい!」





今日は、異三郎さんと恋人同士になってから初めて一緒に過ごすイベントの日。

なのに。それなのに。

意気地無しな自分のせいで、イベントらしいことは何一つ出来ないまま……終わりを迎えてしまった。






――――
―――






(…………もしもあの時、異三郎さんにキス出来てたら……今も一緒に過ごせてたのかな……)



異三郎さんが出掛けてしまった後、居た堪れなくなった私は、彼を追い掛けるようにして部屋を飛び出した。

かと言って、行きたい場所がある訳でもなく……後悔の波に溺れながらフラフラと町を歩き回るしかなかった。

辺りはもう真っ暗で、少し肌寒い。

寂しさに拍車を掛けるような環境に、自然と涙が込み上げた。



「っ……うぅ…」

「あら?もしかしてなまえさん?」



道の端で立ち止まって涙を堪えていると、背後から声を掛けられ恐る恐る振り向いた。



「あ……お、お妙さん……」



声を掛けてくれたのはお妙さんだった。
私の顔を見た彼女は目を丸くさせ、心配そうに駆け寄って来てくれた。



「そんな泣きそうな顔して……何かあったんですか?もしかして、具合が悪いとか……」

「ち、違うんですっ……その…………急に、予定が変わっちゃって……ちょっと、落ち込んでて……」

「なまえさん……」

「あ、あの!でも、もう平気なので……」

「ねぇ、なまえさん。これから私の働いてるお店に来ない?」

「……え?」

「今ね、ちょうどハロウィンのイベントをやってて、お客さんは多い方が嬉しいの。お代は気にしなくて良いから、来てくれないかしら」

「え!?お代気にしないでって……そ、そんな、悪いですよ…!」

「本当に大丈夫だから。それに……バレンタインの話も聞きたいもの」



―――だから、ね?……なんて微笑んでくれたお妙さんの優しさに、私の涙腺は耐え切れなかった。

ボロボロと泣き出した私を、嫌な顔ひとつせず慰めてくれたお妙さん。

……今日はこのまま、彼女の優しさに甘えることにしよう。

















「……で?何で俺もいるわけ?」



賑やかな笑い声に、沢山の綺麗な女の人達。
今まで足を踏み入れたことがない空間に緊張している私の横で、不満げに声を漏らしたのは坂田さんだ。



「ハロウィンといえば銀さんでしょ。ほら、甘いもの好きだし」

「甘いもんに有り付く前に有り金全部持ってかれるわ!」

「煩い子にはお注射しちゃうぞ☆」

「っ……ギャアァァァァ!!」



もう一方の私の横に座る、ナース服に身を包んだお妙さんがすかさず言葉を返す。
ハロウィンの仮装としてそれを着ている彼女の手には何故か注射器が装備されており、声を荒げた坂田さんの頭に容赦無く突き立てられた。

私を挟んで飛び交う二人の過激なやり取りに圧倒されながらも、坂田さんがいることに少し安心感を覚えていた。

そもそも、何故坂田さんがいるのかというと……。

此処へ来る途中、「ちょっと待っててね」と素敵な笑顔でパチンコ屋さんに入って行ったお妙さん。彼女が戻って来た時、その片手には満身創痍な坂田さんの片足が握られていた。

そうして坂田さんは私と一緒に、彼女の勤めるお店……スナック“すまいる”へと(引きずられて)来たのだ。



「っ……………んで?何があったんだよ。なまえ一人でいるっつーことは、アイツと何かあったんだろ?」

「や、あの、違うんですっ……」

「急に予定が変わっちゃったのよね?
……それで、なまえさんを悩ませている殿方とはバレンタイン以降進展したのかしら」

「へ!?」



カラリと氷を掻き混ぜながらグラスを置いたお妙さんが、微笑みながら問い掛けてきた。

こ、これは、付き合ってるって……恋人同士になれたって、い、言わなきゃいけないんだよね……!?

そう考えると、途端に恥ずかしさが込み上げてきてしまい、思わず視線を逸らしてしまった。



「その様子だと…………お付き合いすることになったのね!?」

「なっ……え?!な、な、なんでわかって……!?」

「ちょ、おま……まじでか」

「や、あ、あの、えと……っ」

「よかったわね、なまえさん!……そうとわかれば、今日は目一杯お祝いしなくっちゃ!銀さんの奢りだから、好きなだけ注文して下さいね」

「っ……待て待て待て!銀さんの奢りってなんだよ!?銀さん一言もそんなこと言ってないよね?!」

「お祝いごとといったらドンペリよね。すみませーん、ドンペリ1本お願いしまーす」

「本気で待ってェェェェェ…!!」



お妙さんに見抜かれてしまったことにすごく驚いたけれど、テレビでしか見たことがなかったドンペリというお酒の金額の方が私には驚きだった。

ほ、本当にご馳走になってもいいのかな……。

困惑しながらも最初にお妙さんが注いでくれたお酒をチビチビ飲んでいると、やつれた様子の坂田さんと目が合った。



「…………良かったじゃねーか」



そう言って、坂田さんがくしゃりと私の頭を撫でてくれて。

お妙さんが優しく微笑み掛けてくれて。



「っ……あ……ありがとう、ございます……」



また、泣いてしまいそうになった。



「なまえさんが幸せそうで、何だか私も嬉しいわ。そういえば、お相手はどんな方なの?銀さんも知ってるような口ぶりだけれど……」

「ど、どんな…………えっと……」

「メール弁慶のいけ好かないエリート公務員」

「え?エリート公務員って…………「キャー!ありがとう、パパぁー!!」



突然、近くのテーブルから大きな声が聞こえ会話が途切れる。
あんなに激しい接客もしなくちゃいけないなんて、人見知りの私には絶対出来ないなぁ……なんて思っていた矢先。



「まさか見廻組の佐々木さんまで連れて来てくれるなんて……阿音、嬉しい〜!」



続いて聞こえてきた会話の内容に、時が止まったように感じた。



(…………え?今、見廻組……佐々木さんって………でも……)



異三郎さんは仕事で―――………




ドクリ、ドクリと心臓が嫌な感じに音を立てる中、恐る恐る会話が聞こえる方へと首を向ける。



「おいおい……何でアイツが此処にいんだよ」

「まさか、なまえさんの恋人って……」

(そんな………)




――――誰か嘘だと言って。













「……佐々木。お前さん、もうちょっと愛想よく出来ねぇのか」

「お言葉ですが松平公。強制的に連れて来られた場所で、愛想をよくする理由が見当たらないのですが」

「はっ、相変わらず面白みのねぇ男だな」

「面白くなくて結構。そもそも、何故私をこのような場所に……」



キャバ嬢に引っ付かれながらグラスを傾ける、自分の上司である男をジトリと睨む。

そう、突然の電話の相手は彼……松平公であった。

内容はこの通り“キャバクラ行くからお前も来い”なんて、下らないものだったのだから、余計に怒れて仕方がない。

初な恋人からの初めての口づけを、あと少しのところで逃してしまった要因は、紛れもない彼からの電話だったのだから。



「あー……なんだ。人肌恋しい季節だろう」

「……は?」

「余計な世話かもしれねぇが……お前さんにも、そろそろ春が来たって良いんじゃねーかと思ってよ」

「…………」



こちらをチラリとも見ずに言葉を並べる男に、思わず呆ける。

回りくどい人間だと、つくづく思う。
……彼も、自分も。



「……だからといって、キャバクラに連れて来る人がありますか」

「あぁ?キャバクラほど女口説ける場所はねーだろーが」

「それは貴方にとってだけでしょ!」

「も〜、そんなことよりもパパぁ!私、ドンペリ飲みたいなぁ〜」

「阿音ちゃ〜ん。オーケーオーケー、ドンペリね。ほれ、佐々木。お前さんも何か好きなもん頼め」

「はぁ……」



今すぐにでも帰りたいのはやまやまだが、この不器用な上司の気遣いを無下にも出来ない。

家で待っているであろう彼女には申し訳ないが、今日だけは目の前の男にとことん付き合うことにしよう。



「でしたら、焼酎を……「あっれー?何処かで見たことがあると思ったら、エリート公務員の佐々木さんじゃないですかー」

「!貴方は…………金欠だ何だと騒ぎ立てていた割に、このようなお店にも足を運ぶんですね」



間延びした声に言葉を遮られ、声がした通路の方を見遣れば、これまた間延びした顔立ちの坂田銀時が立っていた。

妙なタイミングで会うものだと内心げんなりしていると、おもむろに彼がニヤリと笑った。



「それに……随分とご機嫌なようで」

「そりゃあな。なんせ、これからこの店1番の女とアフターだからよ」

「それはそれは、どうぞ楽しんで来て下さい」

「ああ、そうさせてもらうわ。なまえ、行くぞ」

「…………は?」



この場で聞くことは絶対に有り得ない名前が耳に入り、目を見開く。

なまえ?この男……今、なまえと言わなかったか?



(いや、そんなまさか……っ)



坂田銀時がゆっくりと歩みを進める。死角になっていた彼の向こう側が見え、血の気が引いた。



「なまえさん……」



家にいるはずの彼女が、そこにいた。


けれど、その顔にいつもの笑顔など無くて……明白な彼女の傷付いた様子に、胸に痛みが走る。

見つめ合うこと数秒間。彼女に目を逸らされたことで漸く我に返り、慌てて立ち上がると弁明するべく口を開いた。



「っ……なまえさん、これは……!」

「………き……」

「え?」

「…………嘘吐き……」



泣くこともせず、淡々と言葉を紡ぎ、私を瞳に映すこともなく足早に通り過ぎていった彼女に、言葉が出なかった。

……あんな表情は、初めてだ。



「おい、佐々木。今のキャバ嬢は……」

「……すみません、松平公。私はもう行きます」

「あぁ?行くってお前、まだ……」

「お気遣い、感謝しています。しかし……春ならば既に私の元へ訪れています。ご報告が遅くなり申し訳ございませんでした」

「…………」

「それと、先程の女性はキャバ嬢ではありませんので……次に出会った時、間違っても口説いたりはしないで下さいよ。それでは、失礼します」



驚いた表情で凝視してくる自身の上司を放って、出口へと急ぐ。

早く、早く、彼女の元へ―――……












「…………春が来たなんて、俺ぁ聞いてねーぞ。さっさと帰りやがって……文句どころか祝言すら言えなかったじゃねーか」

「ふふ。雪解けは人知れず起きるものですからね」

「あ?!ちょっと!アンタ勝手に人のテーブルにつかないでくれる!?」

「いいじゃない。私も友達に春が来たお祝いをちゃんと出来なかったから、今からでもお祝いしたいのよ。
ねぇ松平さん、本人達はいませんけど、お祝い……しませんか?」

「……ああ、そりゃ名案だ。アイツらの代わりに……「じゃあさっそく、ドンペリ5本お願いしまーす!」

「いや、ちょっ……「ふざけんじゃないわよ!こっちはドンペリ10本!!」

「誰かオジサンの話聞いてくれない?」






――――
――







外へと飛び出せば、路地裏に入っていくなまえさんの後ろ姿を見付け、急いで後を追う。


(なまえさん一人……?いや、今はそんなことよりも……っ)


あちらは着物で、こちらは洋服。
彼女が目一杯走ったところで、悠々と追い付けることは分かり切っていたが……どれだけ手を伸ばしても、なかなか掴むことの出来ない華奢な手に心が焦がれた。



「っ……なまえさん!!」

「!!」



曲がり角をいくつも曲がり……ようやく掴んだその手首は冷え切っていて、握る力が自然と強まる。

立ち止まり、人気の無い路地に二人の息遣いだけがやけに耳に付いた。



「すみません、でした……」

「…………」

「嘘を……吐いたつもりはないんです。あの方は私の上司で、あの場所に呼ばれたことも仕事の内だと……」

「…………」

「けれど、なまえさんに悲しい思いをさせたのは事実です。どれだけ謝罪しても許してはもらえないのかもしれませんが……私は……「……トリック・オア・トリート」……はい?」



こちらを振り向いてもくれないなまえさんに、再び謝罪の言葉を投げ掛けようとした……その時。

ハロウィンでお馴染みの台詞を逆に投げ掛けられ、何とも情けない声を出してしまった。



「と、トリック・オア・トリート……!」

「あの……すみません、お菓子は今持ち合わせていないんです。しかし、お菓子で貴女の気が済むというのであれば、いくらでも買って……」

「っ……お菓子、無いなら……い……い、イタズラです……!」

「は?」



くるりと振り返ったなまえさんが、同時に私の腕を自分の方へと思い切り引き寄せた。
バランスを崩し、彼女に向かって傾く体は支え切れなくて。自然と前屈みの姿勢になってしまう。

そんな無防備な私を襲ったのは……、



「っ……」

「なっ……!?」



頬に伝わる衝撃と、柔らかい感触に、小さく聞こえたリップ音。
その後ふわりと鼻先をくすぐった彼女の甘い香りに、顔に熱が集中していくのがわかった。

今……今のは、まさか……。



「なまえさん……今……」

「っ……も、もう、ああいうお店には行かないで下さいね…!」

「…………」

「ど、どうしても行かなきゃいけない時は…………ち、ちゃんと、伝えてから行って下さい……っ」

「…………はい」

「あ、あと!ほ……他の女の子に……デレデレしちゃ……やです……」



呆然と立ち尽くす私に、真っ赤になって怒るなまえさんがあんまりにも可愛くて。
口元が緩んでしまうのを見られないよう、彼女を思い切り抱きしめた。




「デレデレだなんて……私がうつつを抜かすのは、いつだって貴女にだけですよ」





―――なまえさんと恋人同士になってから初めて迎えたイベント。
彼女には嫌な思いをさせてしまったが……私にとっては堪らなく幸せな出来事ばかりだった気がしてならない。



「お菓子、買って帰りましょうか」

「あ…………は、はい!」





結局のところ、どんな状況でも彼女が隣にいれば私は幸せなんだろう。






((さ、坂田さんっ……私、坂田さんの助言通り頑張りましたよ……!!))
((……近々、松平公にも紹介した方がよさそうですね……。まぁ、今はそれよりも……))


(なまえさん)
(え?!あ、は、はい!!)
(後でもう一度してくださいね)
(……へ?)
(頬への口づけを、貴女から)
(え、あ、いや……それは……っ)
(一度出来たんです。二度も三度も同じでしょう?絶対にしてもらいますからね)
(……うぅ…!)






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