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from:さぶちゃん

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風邪ひいちゃったから
暫く屯所で寝たきりだお(+_+)


P.S.割と酷い状態だけど、
気にしなくて良いからネ☆☆☆

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朝早くから届いていたメールに思わず目を見開く。



「か、風邪!?気にしないでって……でも酷い状態って書いてあるし……お、お見舞い行かなきゃ…!」



どんな時でもしゃんとしている、あのメル友の彼が風邪をひくなんて。

なまえは弱り切った異三郎を思い浮かべ、サッと血の気を引かせた。そして一拍おいた後慌てて鞄を引っつかむと、弾かれるようにして外へと飛び出した。



「林檎に冷えペタに……と、友達のお見舞いって、後何が必要なんだろう…!?」



あぁ、とにかく、

急いで向かわなくちゃ……!!










……一方見廻組屯所では、あの佐々木局長が風邪をひいたと大騒ぎ。
隊士達がこぞって“局長の代わりに自分が仕事を!”と奮い立っている最中、当の本人は私室のベッドで悠々と携帯を弄り倒していた。

風邪をひいたことに嘘はないが、実際は熱も微熱程度で寝込むほどではない。
しかし、微熱と言えどエリートである自分が熱を出すことなど滅多にないのだ。

初で世間知らずな可愛いメル友を呼び出す為の……そして、彼女にあれやこれやと要求する為の口実に出来るこの現状。



(……利用しないはずが無いでしょう…)



メールを見て慌てふためくなまえを想像し、異三郎はひとり笑みを浮かべる。
そんな策士な彼の私室にノックの音が控えめに響いたのは、それから暫くしてのことだった。




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隊士の方達に案内してもらい、何とか異三郎さんの部屋へとたどり着くことが出来たけれど……ノックをしても返事がない。
寝ているのかもしれないと恐る恐る扉を開けば、出迎えてくれたのは思った通りベッドで眠る彼。
そろりと近付いて様子を窺うと、苦しそうに呼吸を繰り返している。

辛そうな彼の様子に、私まで胸が苦しくなった。



「ど、どうしよう……冷えペタなんて急に貼ったら驚いちゃうよね…」

「ん……………なまえ、さん…?」

「あ!ご、ご、ごめんなさいっ……起こしてしまって……!」

「いえ……それよりも………来て下さったんですね…」



わたわたと焦って謝ると、異三郎さんは私に弱々しく笑いかけゆっくりと手を伸ばしてきた。反射的にその手を握って少し距離を縮めれば、不意に彼が顔を歪ませて咳込んだ。

その辛そうな表情に再び胸が苦しくなり、手を握ったまま覗き込むように枕元へと屈む。



「だ、大丈夫ですか?も、も、もしかして……苦しいですか…!?」

「っ……苦しい、です……それにずっと寒気が……」

「――っ!?ど、どうしよう……!な、何か私に出来ること……」



言葉の途中で大きく体が傾いた。
そのまま重力に逆らうことも出来ず、勢いよく倒れる体。
……倒れ込んだ先は、逞しい上体だった。
布越しから伝わる自分とは別の体温に、自然と顔が熱くなる。


異三郎さんが私の手を思い切り引っ張ったんだと気付いたのは、とんでもなく近い距離で彼と視線が交わってからだった。



「ち……近っ…!あ、あ、あ、あの、異三郎さ……っ」

「あぁ、すみません。熱のせいでこんな失礼なことを……何処か強く打ったりはしていませんか?」

「……へ?えと……大丈夫です……」

「それは良かった……」



狼狽える私を落ち着かせるように異三郎さんが何度も頭を撫でてくれ、少しずつ落ち着きを取り戻す。

―――そうだった。
彼はいつだって私を気遣い、惜しみ無い優しさを注いでくれるような人だった。

今だって熱のせいでぼんやりしているだけで……私に妙なことをするはずがないじゃないか。
それなのに恥ずかしがったりするなんて……


(わ、私のバカ…!異三郎さんは風邪で辛いんだから……いちいち慌ててたら、いつもみたいに気を遣わせて……風邪が悪化しちゃうかもしれない…!!)



「っ…あ、あの……何か私に出来ることはありますか……?」

「なまえさんが来て下さっただけでも有り難いというのに……その上、私の願いを聞き入れていただくなんて心苦しい……」

「そんなこと言わないで下さいっ……わ、私…いつもいろんなことを教えてくれる異三郎さんに、何か恩返しがしたいんです。
……何でも言ってください!私、頑張りますから…!!」

「ほぉ……何でも、ですか……」



申し訳ない気持ちからそのままの体勢で捲し立てれば、異三郎さんの表情が見たこともない怪しげな笑みに変わった気がした。



「っ……あ、の……私……」



心に沸き起こったほんの少しの違和感は、途端に不安を呼び寄せる。
何となくこのままくっついているのはいけない気がして、視線を逸らし彼から離れようと身じろいだ。

そんな私の行動を制止するかのように、やんわりと頬を撫でてくる彼の手つきは変わらず優しくて……何だか混乱してしまう。

おずおずとその手を伝うように視線を戻せば、そこにはいつもの優しげな微笑みが浮かんでいた。


(さっきのは、気のせいだったのかな……)



ジワリと心に広がる安心感に表情を緩ませれば、異三郎さんも釣られるようにして口元を緩ませた。
……やっぱり、気のせいだったんだ。



「ではなまえさん、友人である私のお願い聞いていただけますか?」

「は、はい!」

「先程もお伝えしたように、実は寒気が酷いんです……なので貴女に添い寝をして暖めていただきたいんです」

「はい!添い寝です、ね…………え?添い……えぇぇ!?む、む、無理ですっ……添い寝なんて無理ですよ!いくら友達でもそんな……」

「おや、なまえさん知らないんですか?添い寝は親友になってからしか出来ない……言わば親友という地位を確立させた証です。
てっきり、貴女とは添い寝も出来る仲だと思っていたんですが……どうやら私の勘違いだったようですね……」



悲しそうに目を伏せた異三郎さんは私から手を離すと、そのまま寝返りをうちこちらに背を向けてしまった。

どうしよう、どうしよう……自分の勝手な考えで彼を傷付けてしまったんだ。



「あ……い、異三郎さん……」

「……何です?勝手に勘違いしたのは私です。私のことはお気になさらず……あぁ、もし気まずいのであればお帰りになられても……」

「か、帰りません…!あの……私……っ…添い寝、します…!」



これ以上彼を傷付けたくなくて、思わず声を張り上げる。
すると、背を向けていた異三郎さんはゆっくりとこちらに向き直り、掛け布団をめくり上げた。

……それはもう、すごく嬉しそうに。



「お願いを聞いて下さるんですね、ありがとうございます。なまえさん、やはり貴女は素晴らしい友人……いえ、親友です。さぁ、どうぞこちらへ」

「…え……あ………わぁっ…!?」



心の準備も出来ていないままベッドへと引き込まれる。

向き合うような体勢で彼の腕が腰に回り、かつて無いほどに体が密着する。狼狽える間もなく上から布団を掛けられ、まるで密室に閉じ込められたかのような錯覚に陥った。

ち、近い…!心臓が口から飛び出そう…!
で、でも、異三郎さんが寒いって言ってたし……恥ずかしがってる場合じゃない…!!



「っ……あ、暖かいですか…?」

「えぇ、ひとりで寝ていた時より随分と暖かいです。それに、貴女からとても良い香りがして落ち着きます」

「えっ!?か、香り…?!」

「……とても芳しい香りです。目眩がしてしまいそうな程……。そうです、私の専属抱き枕になるのも良いかもしれませんね」

「っ……だ、抱き枕じゃ遊びに行ったり出来ないです……私達、せっかく……し…し、親友に…なれたんですよ…?」



冗談とはいえ、異三郎さんと友人でいられなくなるなんて悲しい……。
ましてや親友に昇格したのなら尚更だ。

抗議するように口を尖らせて見上げれば、彼は驚いたように目を見開いた後、そうですねと一言呟いて私の額に唇を寄せた。

それは、ほんの一瞬の出来事で……。
あまりの自然な動作に思わず呆けてしまったが、意地悪さの混じった彼の小さな笑みを見て自分が今何をされたのか漸く理解する。



「いっ……今っ……キ…キ…キス……!?」



経験の無い私には強過ぎる刺激にクラクラと視界が揺れる。
……そして、とうとう私は意識を手放してしまった。






「おやおや。なまえさんは本当に初な方だ……まぁ、今日はこのくらいで勘弁して差し上げますよ」



ほくそ笑む男の腕の中で目を回すなまえ。目覚めた時、彼女はまた可愛らしい反応を見せてくれるのだろう。
異三郎は華奢な体を一層強く抱きしめると、彼女の頭の頂に顔を埋めその瞳を閉じた。







((あんな表情で見つめてきて、思わず唇に口付けてしまいそうでしたが……

……狩りに焦りは禁物ですからね。ゆっくりと時間を掛けて追い込ませていただきますよ))





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