とっぷりと夜も暮れ、時刻は間もなく午後11時を迎えようとしていた。





いつもはまだ起きている時間なのだけれど……今日はいろいろとあって疲れたのか、瞼が自然とおりてくる。

このまま寝るのがもったいなくて、ローテーブルに上半身をだらりと乗せてうとうとしていると……背後から佐々木さんの酷く呆れた声。


「なまえさん、寝るならベッドで寝て下さいよ」

「むぅ……まだ寝ない…です…」

「今にも寝そうな人が何を言っているんですか…………そのまま寝たら添い寝しますからね」

「さぁー寝よう!ベッドで寝よう!!」



低い声で後ろから囁かれ、慌てて体を起こし振り向けば……思ったよりも近い位置に彼の顔があり、堪らず赤面する。



「あ……えーと……ね、寝ましょっか!」

「えぇ、寝ましょう」



ぎくしゃくしながらも私はベッドに、無表情の佐々木さんはベッドのすぐ傍にクッションを置き横になった。

電気を消せばカーテンの隙間から街灯の光が零れ、彼の色素の薄い髪の毛をキラキラと光らせており……つい見惚れてしまう。


―――あれ、何か…恥ずかしい……。
……喋ろう!とにかく喋ろう!!



「あの……佐々木さん…床でごめんなさい」

「クッションも毛布も貸していただけましたし、何も問題はありません。
……それに、望んだ所で一緒には寝てくれないのでしょう?」

「すみません。寝れません」



彼はどうしてこんなにも一緒に寝たがるのだろう……心臓もたないんだけど!?
今は人間の姿なんだから、もっと自重して!!



「あれ……そういえば、捨てられてから私に拾われるまでって……人間の姿の時はどうしてたんですか?」

「あぁ、適当に歩き回っていましたよ」

「え!?あの真っ白な隊服姿で?!」

「………それ以外に何があるんです」

「ない……です………」



隊服……かなり目立っただろうな…。
職務質問とか受けて、連行されたりしなかったかな……。



「格好はコスプレで通しました……貴女が想像しているようなことは一度もありませんので心配しないで下さい」

「良かったぁ……って、心の中読まないで下さい!!」

「貴女が単純過ぎるんですよ………さぁ、もう寝なさい。明日は買い物に行くんでしょう?」

「うぅ…私の立場がどんどん弱くなっていく……私って佐々木さんの何なんですか……」

「何って、可愛い可愛い私のしも……マスターですよ」

「今“しもべ”って言いかけましたよね!?」

「………………」

「寝たふり!?」



もぉー……このドSエリートが!!
明日の買い物で、絶対に立場逆転してみせますからね!!


心の中で固く決意すると、布団を被り直して目を閉じる。
元々無理矢理起きていたようなものだった私は、真っ暗闇の視界から簡単に眠りへと落ちていく。



……あぁ、眠る前に彼に挨拶しなくちゃ。



「…佐々木さん…おやすみなさい……」

「……!!」











彼女の言葉に思わず肩が揺れる。
…前の持ち主は私を“自分と同じように生きる人間”としては扱ってくれなかったが……彼女、なまえは違う………。


言いようの無い幸福感が全身を包む。


佐々木はなまえが眠りについたのを確認すると、ゆっくりと半身を起こして彼女の顔を覗き込んだ。





「………ありがとうございます…」






彼女の額に落とした口づけの意味は、自分自身でもわからない。
ただただ、幸せな気持ちが溢れる。




「…なまえさん、おやすみなさい……」





明日からはなまえが起きている時にきちんと“おやすみなさい”を言おう。
佐々木はなまえの頭を一撫ですると、満足げに眠りに就いた。












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