はい。私、みょうじなまえは 大変なことに気付いてしまいました。
え?佐々木さん? 彼は今お風呂です。入浴中です。 あぁ…湯上がりの色っぽい佐々木さんを見て卒倒しないか心配……じゃなくて! もっともっと重要なことが……!!
「お風呂先にいただいちゃってすみませ…………なまえさん?床に這いつくばってどうしたんですか…」
怪しいですよと訝しげな声で言われ 俯いていた顔を上げれば、そこには……
モノクルを外し、いつもオールバックにしている髪を乱した状態の佐々木さんがこちらを見下ろしていた。
真っ黒なTシャツとスウェットに身を包み 湿った毛先からはパタパタと雫が落ち、どこか艶っぽい雰囲気を醸し出している。
…こ、これは……卒倒だけじゃ済まないかも………!!
「……じゃなくて、じゃなくて!!佐々木さん、あの……実は大変なことに気付いてしまって…」
「大変なこと?」
「そうなんです!大問題発生なんです!!その……寝る場所なんですけど……」
私の家はワンルームマンション。 そう…客室も無ければ、ベッドもひとつ。 せめてソファーがあれば良かったのだが、壊れてしまい先日処分したばかりなのだ。
(あ…そっか!今日は私が床で寝て、明日の買い物の時に布団も買ってくれば良いんだ!! ……出費が重なってちょっと痛いけど……)
背に腹は替えられない。
「あ、問題解決しました。今日は私床で…「問題なんて何一つ無いじゃないですか。貴女と私、一緒に寝れば良いでしょう」………え?」
「どうせ朝には人形に戻るんです。たった数時間、隣で寝転がるだけのことですよ」
「や、あの…そんな簡単に……私も一応、年頃の娘っていう隠れ設定がありまして…」
「それが何か?間違いが起こる訳でも無いでしょうに………あぁ、それとも…間違いが起こってしまうような願望がおありですか?」
「なっ!!…っ……!?」
とんでもない発言をした彼をキッと睨む……が、想像以上に距離が近くてたじろいでしまった。
彼と私の距離、およそ三十センチ。
ニヤリと笑う彼から目を逸らせば、それを許さないとでも言うように 片手で顎をクイッと持ち上げられ、視線を無理矢理合わせられる。
「例えば……こういった事がご希望で…?」
徐々に近付いてくる端整な顔立ちに、堪らずギュウッと目を閉じれば……ほんのり笑いを含んだ声が耳に届く。
「……冗談です。私が床で寝ますから問題ありません……お望みとあればいつでも一緒に寝ますけど」
「……んなっ………!?」
「けっ………結構です…っ!!」
前話での天然たらしを撤回。 ……彼は猫被りで計画的ドSの帝王だ。
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