ずるりずるりと、麺を啜る音。 今、私の目の前には熱々のカレーうどんと…
等身大の佐々木異三郎。
「なまえさん。カレーうどん、ありがとうございます。 とても美味しいです」
「…どういたしまして………」
箸を上手に使いこなし、綺麗にうどんを食べる彼を思わず凝視してしまう。 ……貴方は本当に人形なんですか。あ、今は“人の形”でしたね。
…それより、彼は今までどうやって過ごしてきたのだろう。 捨てられてしまった原因は、やはり人になってしまうことなのだろうか。
「……佐々木さん、質問良いですか?」
「……どうぞ?」
「言いたくなかったら言わなくて良いですからね?…あの……、どういう経緯で捨てられちゃったのかなぁ…なんて…」
「あぁ、そんなことですか」
あっけらかんとした態度の佐々木に、思わず呆ける。 いやいや、そんなことって……。
「……私の以前の持ち主は中学生の女児でした。人となった私を見た彼女は、それはそれは喜んでいましたよ」
「ふむふむ」
「私は彼女の部屋で過ごしていたのですが…当然ながら彼女の母君に見付かり、そのまま追い出されてしまったのです」
不意に視線を下へ向けた彼がどこか寂しげに見えて、胸が締め付けられる。
(佐々木さん、きっと前の持ち主の子と離れたくなかったんだろうなぁ…)
考え出すと止まらない。 あ、泣きそう。切な過ぎて泣きそう。
「………何か勘違いされていらっしゃるようなので言いますが……私は、あの時追い出されて良かったと思っていますよ」
「え…でも……寂しくないんですか…?」
「ちっとも寂しくないです」
「で、でもでも!もうその子とは会えないかもしれないんですよ!?」
「構いませんよ……
……………私には、貴女がいますから」
真っ直ぐこちらを見据える双眼に、 私の心は いとも簡単に射ぬかれてしまった。
|