今日も会社はお休みだ。 せっかくだから佐々木さんと何処かへ出掛けようと思ってたんだけど……
「佐々木さぁ〜ん」
「…………」
「おぉ〜い……」
「…………」
昨夜と同様、今朝も頑なに口をきかないこの小さな彼は、現在膝を抱えてベッドに座り込んでいる。
顔を覗き込めばプイッとそっぽを向かれてしまい、表情すら窺えない。
(何で急に話さなくなっちゃったんだろう……えーっと、きっかけは確か………)
「………田中くん?」
「……!!」
思い当たる単語をぽつりと呟けば、キッと鋭い目つきでこちらを見る佐々木さん。 どういう訳か“田中くん”が彼の地雷ワードになってしまったようだ。
ところでそれ、睨んでるの? 可愛すぎて全然恐くないよ……!
…………とにもかくにも、 ずっと話せないままなんて、柴ちゃんに有ること無いこと言い触らされるよりも堪え難い。
何とか彼のご機嫌取りをしなくては……。
「……佐々木さん、プリン食べますか?」
「…………人形の姿では食べられません」
「(やった!喋った!!)……そうだったね…。じ、じゃあさ、お散歩行きませんか!?」
「今はそんな気分じゃないです」
「うぅ……えっと…じゃあ……じゃあ〜………あっ…携帯!携帯電話買いに行こうよ!!」
「!?…携帯、電話…?私のですか…?」
キラキラと目を輝かせてこちらを見上げる彼に、思わず胸がキュンとする。 あぁ〜…可愛い…可愛いよぉ……もう!
激しくほお擦りしたい気持ちを隠してニッコリ笑いかければ、立ち上がってこちらに両手を伸ばしてくる佐々木さん。
え………?これって……………
「早く買いに行きましょう。ほら、なまえさん、昨日のように私を肩に乗せて下さい」
子供がやる“抱っこして”のポーズ…!!
可愛すぎるその様子に思わず両手で口を覆う。 何なの!?私を萌え殺すつもりなの!?
「そ、そうだね、早く行かなきゃね!」
「?…何を興奮してるんですか…気持ち悪いですよ」
「ひどっ!?まぁ良いや……それより、やっぱり佐々木さんは携帯電話が好きなんですね。暇な時はゲームも出来ますしね!」
「…別に、そんな理由で欲しい訳では……」
「あれ?違うの?」
小さな彼を両手に乗せて言葉を交わせば、どういう訳か俯いてしまった。
その…どこか歯切れの悪い返事に首を傾げていると、彼は俯いたまま話し始めた。
「………貴女は明日から会社に行ってしまうのでしょう?私を此処に置いて…」
「え?あー…うん、そうですね」
「…そんなの………じゃないですか…」
「はい?今何て………」
「っ……さ…寂しいと言ったんです…! ……貴女と離れて過ごす間、メールのやり取りぐらいはしたいです……」
「!?」
真っ赤な顔で「寂しい」と声を張り上げた佐々木さんに、私はもう我慢出来なかった。
私と連絡を取りたいが為に携帯電話を欲しがるなんて……嬉しすぎる!!
「………っ…も、大好きだよぅ!!」
「なっ……何ですか急に!やめてくださいっ」
小さな彼をギュウッと両手で抱きしめて、自身の頬を擦り寄せれば、これまた小さな両手でぐいぐい押し返された。
それでも構わず続けていれば抵抗しても無駄だと思ったのだろう、おとなしくほお擦りされてくれた。
「えへへ…佐々木さん可愛い」
「可愛いなんて言われても嬉しくないです。それより早く携帯を買いに行きましょう」
「はいはい、それじゃあ出発しまーす!」
ストールを巻いて、 ムスッと顔をしかめる彼をそこへ乗せる。
またご機嫌ナナメになっちゃったかなぁ…と不安になったが……
耳元で小さく聞こえた“ありがとう”の言葉に、私は口元をふにゃりと緩めた。
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