引き続き買い物をするべく、
私と佐々木さんはモール内をブラブラ歩いているのだけれど……




………痛い……。

射抜くような視線が、とても痛い。


誰の視線かって?そんなの決まってる。




「あの人、男の人なのに色っぽーい…お近づきになりたーい!ね、声かけちゃう!?」

「……でも彼女と手繋いでるよ」

「え。あれ、彼女……?」




(っ………うるさいわァァァァ…!!)





佐々木さんを見て色めき立った女性達の、非難を含んだ視線ですよ!!


そりゃあ私と佐々木さんじゃ釣り合いがとれないだろうさ。
スタイルも良いし、何か気品溢れてるし。

…でもでも、
手を繋いできたのは紛れも無く彼だ。
だからそんな理不尽な文句は、私じゃなくて彼に言ってもらいたい。


悶々と考えながらちらりと佐々木さんの様子を窺うと、ガッチリと視線がかち合った。


「なまえさん、先程から黙っていますが…気分でも優れないですか?」

「え!?だ、大丈夫だよ?うん………あの、それよりも手を離そ「嫌です」

「即答!?……もう、佐々木さん意味わかんないです。何で手なんか繋ぎたがるんですか…」


読み取れない彼の行動に口を尖らせれば、くつりと笑われて益々悔しくなる。

文句のひとつでも言ってやろうと口を開いた所で、遠くの方から自分の名前を叫ばれ思わず声を飲み込んだ。



「ちょっとちょっとー!なまえ、アンタ何やってんのよー!?」

「うあ……柴ちゃん……」



声を張り上げて駆け寄って来たのは、同僚の柴田さん。通称“柴ちゃん”だ。

面倒臭い人に見付かった…。



「ちょっと……何よ、アンタこんな素敵な彼氏いたわけ!?」

「彼氏じゃな……むぐっ」

「はじめまして、佐々木と申します。うちのなまえがいつもお世話になっています」

「やーん!同僚の柴田ですぅー。ほんとなまえにはいつも手を焼いてるんですよー!」

「ん…んんんっ!?」



否定しようとすれば、彼の大きな手で背後から素早く口を塞がれてしまい、何も話せなくなる。

まずい…噂話大好きな柴ちゃんにかかれば、
今日中にはこのことが会社の半分以上の人の耳に入り……一週間は弄られること間違い無し。


そんなの絶対に嫌だ!


私は渾身の力を振り絞って、彼の手をバリッと剥がした。



「っぷは……し…柴ちゃん!佐々木さんは彼氏じゃないよ!その……」

「え?違うのー?」

「えぇ、どうもすみません…なまえさんをからかうのが楽しくて、つい冗談を。
なまえさんは私の恩人なんです。訳あって彼女の家で居候させてもらっているんですよ」

「恩人って、なまえ…アンタそんな大層な人間だったっけ……。
…でも良かったー!なまえに彼氏がいるなんて聞いたら、田中くんが卒倒しちゃうよ。あの子、アンタのこと本当に大好きなんだもん」

「な、何言ってんの!?」

「あ、でも、男の人が居候してるって聞いただけでも卒倒しそうだわ」

「しーまーせーんー!」



田中くんは後輩の爽やか好青年だ。
仕事熱心で、わんこのように私の周りを付いて回る…可愛い可愛い弟分。

彼も私を姉のように慕ってくれているのだから、彼氏云々の話で卒倒するはずが無いのだ。



「またまたー!あの子、口を開けば“なまえさん、なまえさん”じゃないの!」

「いやいやいや!そんなことな………っ…」



佐々木さんに繋がれた右手に痛みが走る。
驚いて彼を見上げれば、無表情の中に何とも言えない不機嫌さが滲み出ており、


見たことの無いその表情に……

少し、怖くなった。




「…し、柴ちゃん…ごめん、もう行くね?買い物終わってなくて……」

「あ、そうなんだー!こっちこそ呼び止めてごめんね。そんじゃ、また会社でー!
佐々木さんもまた会いましょうね!」

「………えぇ、また…」



来た時同様軽い足取りで帰っていく柴ちゃんを見送ると、二人黙ったまま歩き出す。

このまま気まずいのが嫌で、どうにか口を開いて言葉を発してみる。


「あの……佐々木さ…「田中くんとやらは、貴女の何なのですか」……え?」


…私の努力も虚しく、見事に佐々木さんの言葉に遮られてしまった。
……え?………田中くん?



「田中くんは……会社の後輩で……弟みたいな存在で……」

「弟…………なら、私は……貴女にとって…」

「……佐々木さん?」

「………いえ、なんでもありません」













その日はそれっきり、

佐々木さんが私と言葉を交わしてくれることはなかった。










胸がツキリと痛んだ。












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