「う〜……今日から一週間、外出禁止……」
さんさんと輝く太陽を恨めしげに見上げる。 ……天気がいいことをこんなにも疎ましく思ったのは初めてだ。
(せめて……せめて、今日新発売のドーナツだけでも買いに行かせてくださいっ……!)
そう、今日新発売のドーナツをなまえはとても楽しみにしていたのだ。 一週間前からチラシを何度も読み返しては、味や食感を想像し一人楽しんでいた程。
「………はぁ〜あ。草むしりでもして気を紛らしますか……」
口を尖らせて庭の草むしりを始めるが、どうしてもドーナツが頭にちらつく。
「ドーナツ……私のドーナツ……」
「あれ?なまえちゃん?こんな所で何してるの?」
「……?あっ…山崎さん!」
声をかけてくれた人物に思わず駆け寄る。 山崎はいつもニコニコとよく笑い物腰柔らかくなまえに接しているので、なまえもよく懐いていた。
「今から草むしりをして気を紛らわそうと思いまして」
「あー……今日から一週間外出禁止だっけ。大丈夫?」
「大丈夫ですよ!そもそもが自分で撒いた種ですし……」
「はは……まあ、副長もなまえちゃんが心配なだけだからさ。ちょっと度が過ぎるだけで……」
「……そうですね」
しばらく山崎と二人で土方の過保護っぷりについて話していると、何やら門の方が騒がしくなった。
「何でしょう……あ!もしかして、また偉い方がみえたんですか?」
「いや、今日はそんな話はなかっ……!?なまえちゃん……こっち!隠れて!!」
「ええ!?」
山崎に手を引かれて生け垣に隠れる。 突然のことに目を白黒させていたなまえだったが、真剣な山崎の表情に思わず息を呑んだ。
「…………見廻組だ……」
小さく呟いた山崎の一言に目を見開く。 それは、なまえを焦らせるには十分過ぎる言葉であった。
(佐々木さん、もう来ちゃいました……!土方さんにもまだ伝えられてなかったのに……!!)
―――― ――
「どうもお久しぶりです、土方さん」
「佐々木……何しに来やがった」
「そんなに殺気立ててどうしたんですか?私は書類をいただきに来ただけですよ。ああ……それと、みょうじさんにも用がありまして」
「!!……なまえに何の用だ…っ」
「うちの信女がどうしても彼女に会いたいんだそうです。どうか会わせてやってはくれませんか」
「はっ……残念だったな。なまえは今実家に帰ってるとこだ」
「そうなんですか?それは残念ですね。折角差し入れを持ってきたというのに……」
「ポメラニアン……会えないの?」
「さぁ……どうでしょうね……」
佐々木は持っていたマスタードーナツの箱を持ち上げしげしげと眺めた後、なまえ達が隠れている生け垣に視線を移した。
(っ…バレてる……!せめてなまえちゃんだけでも中に……)
山崎はなまえの手を再び取ると、身を屈めたまま慎重に建物の方へ向かった。
「あの、山崎さん……私、どうすれば……」
「しっ……今は何も聞かずに俺に従って……」
二人は声を潜めて、一歩、また一歩と建物へ近付いていく。
(よし!あとちょっ…………!?)
建物まであと僅かだった。
ガキンッと鋭い音をあげ、見るからに斬れ味のよさそうな刀が山崎となまえの間に突き刺さる。
「ひっ……!?かっ、かたっ、刀……っ!?」
「ポメラニアン……みぃーーーっけ……」
無機的にこちらを見据える紅い瞳に、 ゆらりと揺らぐ長い髪に、
なまえは恐怖を抱くほかなかった。
(なまえちゃん!大丈夫!?) (あ…ぁ……かたっ…刀っ………!?) (なまえ!!おい!!怪我は無ぇか!?) (刀が……刀がっ………!)
(信女さん……) (……だって逃げようとしたから)
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