【土方 side】
私室に戻った土方は、佐々木から受け取った白い封筒を訝しげに見つめ溜め息を吐く。 ……なまえは何故わざわざ手紙を、それも佐々木に頼んだのだと眉間に皺を寄せれば、自然と封筒を持つ手にも力が入る。
「っ……一体何考えてんだ……」
ビリッと乱暴に封筒を開くと、手紙らしき物が二種類。 ひとつは三枚程重なった物…もうひとつは一枚だけの薄い物だった。
土方は手っ取り早く読み終えることが出来そうな、薄い物から取り出す。 三つ折りのそれを開けば何とも綺麗な文字が連なっており、呆気に取られる。
「アイツ、こんなに字綺麗だったんか………何々……“土方十四郎様。単刀直入に申しますが、私は見廻組で生涯過ごしていきたいと思って…いま……”」
……今とんでもない文章があった気がする。 いや、いやいやいや、気のせいだろ。
「“単刀直入に申しますが……私は見廻組で生涯過ごしていきたい…”……あ゛ぁ!?」
何なんだこの手紙は。不幸の手紙か。
見廻組で生涯過ごしたいだぁ……? なまえやつ、何勝手なことほざいてやがる。 真選組での恩を仇で返す気か。
そもそも自分を攫った奴らに懐くたぁ、どんだけ平和ボケしてんだアイツの頭は……!
苛立ちはやがて全身に回り、胡座をかいていた足を忙しなく揺すらせる。
しかし、怒りでいっぱいの頭の片隅で、手紙の内容がもしも彼女の心からの願いだとしたら……と浮かんだ考えが消えない。
冷や汗が背中を伝う……
土方は何処か焦るように、再び手紙を読み進めていった。
―――――――拝啓 土方十四郎 様
単刀直入に申しますが、私は見廻組で生涯過ごしていきたいと思っています。
見廻組の皆さんは本当に優しくて、私をお姫様のように扱ってくれるのです。 貧しい真選組とは大違いです。
特に、佐々木さんには本当に良くしていただき感謝の気持ちでいっぱいです。 やっぱりエリートは違いますね。
土方さんも少しは見習ったらどうですか。
……なんてことがなまえさんからの手紙に書かれていたとしても、安心してください。 なまえさんは見廻組でしっかり面倒見ますので。
P.S. なまえさんの髪って、とても触り心地が良いのですね。癒されます。
佐々木 異三郎
「……………テメェかよっ!!!」
贈り主の名前を見た瞬間、思わずぐしゃりと手紙を握り潰す。
「っつーか最後の追伸は何なんだよ!!……触れたのか!?アイツの髪に触れるような何かがあったのか?!」
ぐしゃりぐしゃりと小さく丸めた手紙を、力一杯畳に叩き付ける。 苛立ちは最高潮。今なら躊躇うことなく佐々木を斬れるだろう。
「……まさか、こっちまで佐々木の野郎からじゃねぇだろうな……」
もう一方の紙束を取り出し恐る恐る開く。 そこには先程の物と違い、どこか愛らしさが滲み出る小さく丸みを帯びた文字が並んでおり、土方はホッと胸を撫で下ろした。
「……ちっせぇ字………」
可愛らしい文字達は自分よりも随分小さい体の彼女を連想させ、土方は自然と口元に笑みを浮かべた。
――――――――――土方十四郎 様
土方さん、お元気ですか? 私はこの通り元気です。
外出禁止令を破ってしまったこと、酷くお怒りだと思います。 あの時は本当にすみませんでした。
不可抗力だったと言ってしまえばそうなのですが、私にも少なからず隙があったことは拭えません。
こんな私に、土方さんは呆れてしまっているでしょうね。
見廻組の方々には、とても親切にしてもらっています。 特に、佐々木さんと信女さんには、本当に良くしてもらっています。
……でも、それでも、 やっぱり真選組が恋しいです。
私の居場所は真選組だから。
土方さん、どうかまた私を真選組に置いてください。 土方さんが私を許してくださるまで、 ずっと待っています。
みょうじ なまえ
「…………本当、どうしようもねぇ奴」
二枚目、三枚目に目を通せば、そこにはマヨネーズの特売情報がずらりと書き綴られており、再び口元が緩む。
「……ったく、マヨネーズはお前が買いに行く役目だろーが………お、此処半額じゃねぇか」
俺だって、やり過ぎたって思ってんだ。
「お一人様三個までだぁ!?……俺だけじゃ全然手に入んねぇじゃねぇか……」
世間知らずなお前が心配だっただけなんだ。
「やっぱなまえがいねぇとマヨも数揃わねぇな……」
もう怒ってねぇよ。
怒ってねぇから……
「マヨネーズ足りねぇんだよ、バカ……早く戻って来やがれ」
――
(おい、山崎) (あ、副長!何ですか?) (……近々なまえを迎えに行く) (!!……は、はい!!) (か、勘違いすんなよ!別にアイツに会いたいとか心配してるとかじゃなくて、マヨの特売があってだな……)
((素直じゃないなぁ……))
|