橙色の花をいただいてから、もう三日が過ぎましたが……花は相変わらず綺麗に咲いています。



「しおれる気配の無い、不思議な花ですね……」



なまえは一輪挿しにいけてある花の花弁を優しく撫でると、その愛らしさに自然と笑みを浮かべた。

揺れればフワリと漂う甘い香り。
その魅惑的な香りに、なまえは今日も酔いしれる。





「……さて、お花に元気も貰いましたし、今日は佐々木さんのお部屋をピカピカにしますよ!」




張り切って部屋を出ていくなまえを、橙の花が風に揺られながら見送っていた。






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「こんにちは、土方さん。先日はうちの信女がどうも失礼しました」

「佐々木…っ!?……てめぇ、どの面下げて此処へ来やがった…!!」



真選組屯所へ突然現れた佐々木に、その場にいた隊士達は一斉に刀に手を掛け身構える。



「……随分と嫌われたものですね。真選組のファンとしては少々哀しいものがありますが、仕方ありませんね……

なんせ、皆さんが大切に囲っていた姫君を、許可無く連れ出したのですからね」



飄々と話す佐々木に堪らずカッとなり、土方は勢いよく彼の胸倉を掴む。



「……なまえはどうした。うちの大事な大事な“姫君”を返しに来たんじゃねーのかよ?」

「これはこれは、どうもすみません。なまえさんは私の私室の清掃で忙しそうだったので……連れて来ることが出来ませんでした」



佐々木の言葉に土方の眉がピクリと上がる。



「……何でてめぇの部屋をアイツが掃除しなきゃいけねーんだよ。こき使うんだったら隊士でも使えばいいだろうが!」

「勘違いしないで下さい。なまえさんから申し出があったのです………日頃良くして貰っているお礼がしたい、とね」



尚も平然としている佐々木に土方は舌打ちをすると、締め上げていた手を離し煙草を踏み消した。

何事も無かったかのように乱れた襟元を整える佐々木に、土方は何とか苛立ちを抑え口を開く。



「……多忙なエリート様がわざわざこんな所まで足を運んで、一体どれ程重要な用件がおありなんですかね?……さっさと用件を言いやがれ」

「決まってるでしょう、飼い犬に噛まれた飼い主の情けない姿を傍観しに………というのは半分冗談で、今日はなまえさんからの手紙を届けに来ました」

「半分本気なのかよ!?……ったく、胸糞悪ぃ……さっさと手紙を寄越して帰りやがれ!!」

「言われなくとも帰りますよ。なまえさんが私の帰りを待っていますからね」



懐から白色の封筒を取り出すと、土方の前にひらりと差し出す。
佐々木の行動に一瞬躊躇した土方だったが、それがなまえからの手紙だとわかると素早く奪い取った。



「っ………なまえに戻って来いと伝えておけ。アイツの居場所は此処だ」



悔しそうに睨みつける土方に、佐々木はくつりと笑うと背中を向ける。



「気が向いたら伝えておきましょう……ああ、そうです。なまえさんは少々世間知らずな所が見受けられますので、躾し直させていただいてますよ。


……帰る頃にはしっかり私色に染まっていると思います。楽しみにしていて下さいね」




「なっ…!?どういう意味だコラぁーーっ!!」




堪らず吠え出す土方に、佐々木は笑みを深め悠々と歩き出す。
佐々木の発言に憤慨した土方も後を追って歩き出し、追いかけっこは門まで続く。





「おいコラ、待ちやがれ!!」

「嫌です。なまえさんが私を待ってますから」

「待ってねぇ!ぜってぇ待ってねぇから!!」




「……こりゃあなまえが帰る日は当分先になりそうだねィ」

「なまえちゃん……ご愁傷様……」




二人のやり取りを遠目から見ていた沖田と山崎の呟きは、なまえに届く訳も無く風の音に掻き消されていった。






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「……………よし!完了です!」



佐々木の私室を清掃していたなまえは、辺りを見回し満足げに頷いた。

元々綺麗に片付いていたこの部屋は、掃除などする必要は無かったが……更に綺麗になるようにと、思い付く限りのことは全てやった。
努力の甲斐もあって、以前よりも綺麗になった気がする。

あとは部屋主の帰りを待つだけだ。



(佐々木さん、もう帰って来るでしょうか……)



――この部屋を見たら喜んでくれるだろうか。



いつかのように優しく頭を撫で、
ありがとうございます……と、笑ってくれるだろうか。


なまえは想像を膨らます度、自身の心臓が急速に脈打つのを感じ、首を傾げる。





ドキドキ。ドキドキ。ドキドキ。





………何故だろう、今度は眩暈だ。
呼吸もどういう訳か苦しくなってきた。







ふわふわとした思考を何とか回転させて考え込んでいると、ガチャリと扉が開き、待ち侘びていた男が姿を現す。



「……なまえさん、ただいま戻りました」

「あ……佐々木、さん……お帰りなさい…ませ……」



ふらふらと覚束ない足取りで近付いてくるなまえに、佐々木は怪訝そうに顔をしかめる。



「なまえさん……ちょっと失礼しますよ」

「はい……?」



佐々木はほんのり顔を赤くしたなまえの額に手を当てると、更に顔をしかめた。






「…………熱がありますね……」








熱……?
……ああ、何だ、熱があったのか。



自覚した途端体の力が抜けてしまい、バランスを崩したなまえは恥じらう余裕も無く佐々木にもたれ掛かった。



(……何だか安心します。どうして……)



自身の不調の原因には納得出来たなまえだったが、彼に安心感を抱く理由は見付けられぬまま、その意識を手放した。






(なまえさん、なまえさん……?)
(……………)
((意識がありませんね……何も熱が出るまで頑張らなくても……))



(……なまえさん、ありがとうございます)









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