「……ポメラニアン」

「……えっ!?ポメ……!?」



近付いてくる信女に山崎と土方は警戒し、なまえを背に庇い立ちはだかる。



「いけませんよ、信女さん。子犬を躾けるには、まず鞭ではなく飴を与えなくては」

「っ……どういうつもりだ!佐々木!」

「どうもすみません。うちの信女は不器用でして……みょうじさんとお友達になりたいと強く思う余り、つい、刀が出てしまったようで」

「私と、友…達……?」


佐々木の言葉を聞き、なまえは驚いた表情で信女を見る。
先程まで無機的で冷たい印象しかなかった彼女の瞳が、どことなく寂しげに見えた。



「何調子のいいこと言ってやがる……なまえが怯えてんのがわかんねぇのか!さっさと帰っ……「あの、わ、私……!

……私も!お友達になりたいです!!」


「「………………………は?」」






「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」






「……え?なまえちゃん?さっきの見たよね?刀目の前に刺さってたよね?」

「不器用な方ならしょうがないですよ」

「いや、不器用関係無いしぃぃ!?むしろ器用にお前狙ってたしぃぃぃ!?」

「それだけ私とお友達になりたかったってことですか!?うわぁ……どうしましょう?!」

「……駄目だ。話が通じねぇ……」



顔を紅潮させ、興奮気味に喋るなまえを土方と山崎はげんなりと見る。
先程まで怯えていた女はいったい何処へやら。なまえは嬉しそうに信女の元へ駆けて行く。



「私、みょうじなまえと申します!江戸でのお友達って初めてで……すごく嬉しいです!どうぞよろしくお願いしますね!
……あ!お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「…………今井信女」

「今井さんですね!」

「信女でいい」

「は、はい!!」



信女は自分よりも低い位置にあるなまえの頭を撫でると、くるりと佐々木の方へ振り返る。



「異三郎」

「ああ、そうでしたね。みょうじさんがこちらにいらっしゃったようでよかったです。これ、差し入れのドーナツです」

「!!………もしかして………」

「ええ、今日新発売の“トリプルショコラポンテリング金粉乗せ”です。昨日お話しされていたので」

「うわぁ……うわぁ……!いいんですか!?」

「ちょっ!ちょっと待て!!なまえ、勝手にそんなもん貰うんじゃ……」

「土方さん。過保護も度が過ぎると、子犬といえどいつか噛み付かれますよ。……そんなことより、書類を」

「…っ……山崎、近藤さん呼んでこい」

「は、はいぃ!!」



ドーナツの箱の中身を見ながら嬉しそうに笑うなまえに、土方は長い溜め息を吐いた。











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――――――――――
――――――――

[真選組屯所 応接間]






「いやぁ〜すまない、佐々木殿!実はあの書類、まだ完成していなくて……や、後少しの所で……」

「貴方達に端から期待などしていませんが、期日くらいは守っていただけるかと思っていましたよ」

「や!ホントに!ホントに後少しなんだって!今だってちょ〜っと息抜きしに行ってただけで……」

((このゴリラ、またストーカーしに行ってたな……))

「……では、完成するまでこちらで待たせていただきますよ」

「なっ……!」

「何か問題でもありますか、土方さん?」

「……チッ」



まさに一触即発寸前。誰もがハラハラとしていた所に、この場にそぐわない緩やかな声が響く。



「失礼します。お茶を煎れてきましたよ〜」

「なまえちゃん!ありがとう!本当にありがとう……!!」

「?いえ、どういたしまして?」



なまえの登場に空気は和み、それに比例して土方の眉間の皺は濃くなった。



「佐々木さんもどうぞ」

「ありがとうございます。……ところでみょうじさん、江戸でのご友人がいらっしゃらないんですね」

「え、ええ……そうなんです。見知らぬ土地でお友達を作るのって難しいんですね……信女さんに出会えて本当に嬉しいです!」

「それはよかった。……よろしければもう一人ご友人に追加していただきたい人がいるのですが、ご紹介しても?」

「ええ!?一日にお二人も……嬉しいです!是非お願いします!」

「では……改めまして私、佐々木異三郎と申します。今日から貴女のご友人の一人として、どうぞよろしくお願いします……なまえさん」

「ぶっ…!……げほっげほっ…何言って………っ」



佐々木の言葉に、土方は飲んでいたお茶を盛大に噴き出した。



「わっ!土方さん、大丈夫ですか!?」

「っ……俺は認めねぇからな!!」



土方は心配そうに布巾を持って来たなまえの両肩を強く掴み、激しく怒鳴りつけた。



「で、でも、私…………佐々木さんともお友達になりたいです!土方さん、ごめんなさい!!」



なまえも負けじと大きな声で返すと、土方の手を振り解き逃げるように部屋を出て行った。










「ほら御覧なさい……いつか噛み付かれると言ったでしょう」




佐々木の一言で土方の我慢のメーターは振り切り、再度訪れた険悪な雰囲気に周りの者は顔を真っ青にするのであった。







「俺は絶対に認めねぇーーーーーー!!」









(なまえ、どうしたの)
(信女さん……私……もう真選組にいられないかもしれないです……)
(……なら見廻組に来ればいい)
(ええ……!?)








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