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▼ とりまるとイルミネーションデート

クリスマス時期と言えば、浮かれたカップルがやれイルミネーションだの、限定ケーキだのと街に繰り出すものだとは認識していた。しかし、それが自分の身に降りかかってみると、こんなにも困惑してしまうものだとは思っていなかった。基本的にコミケやイベントを除いて、混んでいるところに自分から向かおうとは思わないし、だったら家で過ごした方がよくない?と思ってしまうタイプだとは自覚している。それでもあえて寒空の中に繰り出したのは、はじめてのデートでわたしのオタク趣味に付き合ってくれようとしてしまうくらいわたしのことを考えて行動してくれるとりまるに誘われたからに他ならない。任務終わりの夕方、あたたかいコートとマフラーをがっつり身につけ、膨れ上がった格好で待ち合わせ場所に赴いたわたしを見たとりまるは、そんなに寒いんですか、と少し呆れた顔をしていた。何か文句でもあんのか。

「で?どこいくの?」

「イルミネーションを見に行こうかと思ってます」

「たくさんの電球かぁ」

「なんでわざわざそういう言い方するんですか」

「だって絶対混んでるよ…寒い中人に揉まれるんだよ冬コミでもないのに」

「人に揉まれたらあったかくなりますね」

この野郎わたしの扱いになれてきやがった。ぶーぶー文句言うわたしの手を引いて目的地へと誘導していく。いちいちお伺い立ててきた頃のとりまるはどこいったんだ。どうやらとりまるが行こうとしているところは三門市ではないらしく、駅から電車に乗って移動していく。三門市じゃないの?と尋ねると、どうせ行くならイルミネーションで有名なところ行きましょう、と表情を変えずにそう言った。有名なところとかますます人がすごいのではないだろうか。しかしわたしにだってある程度空気を読むことはできる。今はおとなしくとりまるに着いて行った方がいいだろう。三門市だとボーダー隊員に会ってからかわれたり気まずい思いすることもあるかもしれないし。

「なまえ先輩、寒くないですか?」

「わたしのこの格好見てそれ聞く?」

「一応、女性は身体を冷やさない方がいいって言いますし」

「それならこんな寒いなか外出るべきじゃないよね。電飾より健康の方が大事だよね」

「なまえ先輩は適度に外に出た方が健康にいいと思いますよ」

「ああ言えばこういうなおまえは」

テンポよく続く会話のなかでも一切譲る気がないことが読み取れる。見慣れない街並みを歩きながら、とりまるが、あ、と一軒のお店を指差した。ケーキ屋さんだろうか。お店のなかにカフェスペースもあるように見受けられる。

「あそこのケーキ美味いらしいんで帰りに買って帰ってもいいですか」

「むしろわたしが食べたい。今」

玉狛支部へのお土産に考えていたようで、わたしの希望は受け流され、店の前を通りすぎてしまった。くそぅ。玉狛へのお土産にちょっと多めに買ってわたしも食べていってやるからな。

「ねえとりまる、おなかすいた」

「イルミネーションの近くで屋台出てるそうですよ」

「それも魅力的だけどさぁ……」

正直今お腹が空いているので、今何かを食べたいのだ。タイミングよく見つけたコンビニにとりまるを引っ張って入って、肉まんを一個購入する。そしてそのまま外に出ると、少しの間も我慢できないのか
、と言いたそうなとりまるに肉まんを半分に割って差し出した。

「一個食べたらお腹いっぱいになっちゃうし、半分こ。わたしのおごりだよ」

「…………紙ついてる方がいいです」

「やだよ。わたしの手が汚れるじゃん」

紙のついてない半分の肉まんを手にとって、とりまるが行きますよ、とまた歩き出した。わたしが両手で肉まんを持っているせいで今度は手を繋いでいない。冬は日が落ちるのが早いため、辺りはもう暗くなっていた。とりまるがスマホで地図を確認しながら、そこ曲がったところです、と指差したところを曲がると、キラキラと光るイルミネーションが目に入る。一番奥には大きなクリスマスツリーが立っていて、周りにカップルらしき人たちが集まっていた。色が移り変わっていき、どんどん様相を変える街並みに、感嘆の声が漏れる。

「はー!綺麗なもんだねえ…!」

「なまえ先輩にもこういうのを綺麗だと思える心があってよかったです」

「イケメンとかわいい子を愛でる心なら誰よりも持ってるからね」

「そういう話じゃないんで」

もぐもぐと先ほどの肉まんを食べながら、少し離れた位置でイルミネーションを眺めていると、わたしが食べ終わるのを待って再びとりまるが行きますよ、とわたしの手を引いて人混みに向かって歩きだした。え、あのカップルの集まりのなかにいくの?え?正直遠くから眺めるだけで満足だったのだが、とりまるは違うらしい。遠くからではよくわからなかったのだが、クリスマスツリーの下にはハート型のイルミネーションが用意されていて、カップルが写真を撮れるようになっている。なるほど、これのせいで周りはカップルだらけなのか、と納得していると、とりまるがスマホでインカメを起動させ、ハートとツリーとわたしたちふたりが映り込むように調整しながらカメラ見てください、と無表情でわたしに指示し始めた。

「ちょっと待て。わたしを撮るならSNOWを通してくれ」

「それ顔が別人になるやつでしょ」

「とりまるみたいなイケメンとちがってな!こっちは静止画が見苦しくならないように必死なんだよ!」

「俺はそのままのなまえ先輩の顔が好きですけどね」

ぽかん、と予想外の言葉に間抜けに口を開けていると、シャッターを切られた音がして心なしか上機嫌なとりまるがスマホをポケットにしまっている。まさか今の間抜け面を撮ったのか。

「とりまるくんスマホ貸して」

「嫌です」

「もうちょっとマシな写真なら許すから!」

「いつもかわいいから大丈夫ですよ」

「それで誤魔化されるような女だと思ったら大間違いだからな!!」

とてもカップルとは思えないような剣幕でのやり取りは、突然流れ出したBGMによって打ち切られることになった。決められた時間に音楽に合わせてイルミネーションが点灯するのがここのイルミネーションの売りであると近くのカップルの女の子が話しているのが耳に入り、一旦休戦ということでとりまるとふたりで並んでイルミネーションを眺める。なるほど、売りというだけあって様々な色に移り変わる電飾は想像していたよりもすっと綺麗に見える。ふと思い立ってちらり、と隣に立つとりまるを横目で見た。キラキラと輝くイルミネーションに照らされたとりまるは、いつものレイジさん仕込みの無表情のはずなのに、どこか柔らかいように見える。思ったより綺麗ですね、とわたしを見たとりまるを直視できなくて、思わず両手で顔を覆ってしまった。

「おまえの方が綺麗だよ……!!」

「…………なまえ先輩は本当にそういうとこありますよね」

せっかく褒めたのに仏頂面に磨きをかけたとりまると、イルミネーションを見終わったあとに周りに出ている屋台で買い食いをして、来る途中で通りかかったケーキ屋さんに寄ってお土産を購入してから帰りの電車に乗る。いくらボーダーがあるとはいえ、近界民を誘導している三門市に向かう人、というのはもともとあまり多くはないため、電車は人がまばらだった。なまえ先輩が持ってると落としそうなんで、と失礼極まりないことを言ったとりまるがケーキを持ち、さらにわたしが背中を預けられるように電車の隅に押しやり、その前にとりまるが立っている。人が多いわけでもないんだからこんなに近くなくていいと思うんだけど、と思いつつも、それを言葉にすることはしない。ガタンゴトン、と揺れる電車の音に掻き消されそうな声で、とりまるの名前を呼んだ。

「…………4年に一回くらいは、こういうのも悪くないと思う」

「オリンピックですか」

「毎年は……さすがに………メンタルのダメージが………」

「なんでボーダーの人の多さは大丈夫でこういう人混みが駄目なのかわからないんですけど」

本日何度目かの呆れたような視線に電車のなかで見下ろされて、すいっと目を逸らした。わたしはそういう圧力には屈しない。

「でも、なんだかんだ言っても俺と一緒なら来てくれるんですよね?」

圧力には屈しない。ただしイケメンは除く。そんな言葉が頭を過る。わたしは確固たる自分を持っている方だと思っているのだが、恋心というのは厄介なもので、自分を曲げてでも相手を喜ばせたくなるものなのだろう。とりまるは本当にわたしが嫌がることはしないとわかっているのも大きいけれど、これからも何かといろんな場所に連れ出されるであろう未来が、迅さんでなくても視えてしまって、わたしは大きなため息を吐き出したのだった。


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