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▼ 寒い冬の夜

陽が落ちるのが早くなり、17時頃にはもう星が綺麗に見えるような季節。陽が落ちる時間なんて関係ないほどに夜遅く終わったバイトにふぅ、と息を吐きながらバイト先のコンビニを出ると、迅くんが、よっ、と手を上げてコンビニの外で待っていた。わたしに連絡をしないところは付き合う前と何も変わっていなくて、慌てて駆け寄ってわたしが首に巻いていたマフラーを迅くんに巻きつける。

「もう!来るなら連絡してって前から言ってるのに!」

「そんなに待ってないって」

マフラーは自分で巻きな、と笑う迅くんをいいから!と押し切った。頑ななわたしに苦笑して、わたしのマフラーに顔を埋めた迅くんににおいを嗅ぐのはやめてね、と伝えると、どうしよっかな、とからかうような声が降ってくる。今度からはバイトのシフトを迅くんに送りつけた方がいいのかもしれない。そうしたら迅くんが寒い中わたしを待っていることもないし。

「そんなに心配しなくても、本当にそんなに待ってないよ」

ほら、と繋がれた手は確かに温かくて、真冬に長時間外で待っていたようには思えない。もしかして、わたしの終わりの時間を知っていたのだろうか。そんな考えが頭を過るが、すぐに頭を振って否定した。そんなの、わたしが言っていないんだから知っているわけがない。

「今日はどうしたの?またラーメン?」

「会いたくなったからって言ったら、どうする?」

「………冗談でそういうこと言うのは、やめてほしい」

試すような迅くんの言葉に赤くなってしまった顔を隠したいけれど、残念なことに唯一顔を隠せそうな装備であるマフラーは迅くんに押しつけてしまっていた。迅くんがそういうことを言うのは珍しい気がするが、何かあったのだろうか。わたしが聞いたところで、教えてはくれないだろうけど。

「怒った?」

「……怒ってない」

「冬はさ、人肌が恋しくなるよね」

「なぁに?それ」

冷たい風と刺すような空気が、心まで冷たくするような気がする。どこか遠くを見ている迅くんを横から見上げて、繋がれた手にぎゅー、と力を入れた。わたしを不思議そうに見る迅くんに、人肌恋しいんでしょ?と問いかける。

「えー。人肌恋しいとおれの手の骨砕かれそうになるの?」

「そんなに握力ないですぅ!」

遠くを見ていた迅くんの目がわたしを見下ろしたことにほっとする。どこにもいかないで。わたしとずっと、一緒にいて。そんな想いが心の隅にあった。

「迅くんのことはわたしがあたためてあげるから大丈夫だよ」

「………下手な湯たんぽよりあったかそうだなぁ」

わたしが巻きつけたマフラーに再び顔を埋めた迅くんは、少しでもあたたかさを感じてくれているだろうか。迅くんが寒いと言うのなら、わたしが持っているもので、わたしの手であたためてあげる。こうしてぬくもりを分け合えるのだから、わたしは冬だって悪くはないと思える。それに、と繋いでいない方の手で夜空を指差した。

「冬の夜は星が綺麗に見えるから、ちょっと得した気分にならない?」

見上げた夜空には他の星座よりもその存在を主張するオリオン座が輝いていた。他にも、カシオペヤ座とか、北斗七星とか、夏には見えなかったり、見つけにくかったりする星座を見つけて少し嬉しくなる。寒さは厳しいけれど、楽しみ方なんていくらでもあるのだ。

「そんなに星好きだったっけ?」

それなりに長い付き合いだけど、初めて知ったとばかりに驚いたようにわたしを見る迅くんに、ふふん、と得意げに笑って見せる。いつもなんでもお見通し、みたいな様子だけど、迅くんだってまだわたしの全てを知っているわけじゃない。

「女の子は綺麗なものだったら大体好きだと思っていいよ」

「言いすぎじゃない?」

はは、と笑った迅くんが、じゃあ今度プラネタリウムでも行こっか、と笑うから、それまでにもっと星座の勉強しておかなければ、と思いながら、迅くん寝ないでね、と茶化した。プラネタリウムはシートがふかふかで暗くて静かだから、興味がないときっと寝てしまうとわかっている。だからちょっとした意地悪のつもりだった。でも、やっぱり迅くんの方がわたしよりも一枚上手なのだ。

「おれが寝ないようにちゃんと星の勉強してきてね」

好きだと言ったくせにわたしの知識が一般常識並みだということは、迅くんにはお見通しだったらしい。見返してやるぞ、と意気込むわたしを笑う迅くんは、もう寒くはなさそうだった。

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