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▼ 神田と本部所属の科学班(Dグレ)


両親が教団の科学班で、教団で生まれ落ちる。その後両親がセカンドの実験に参加することになりアジア支部へ。年齢が近いユウとアルマと仲良くなる。
その後アルマに両親が殺され、ユウもいなくなり、教団以外に行くところもないのでAKUMAをつくらないように中央に監視される。
ティエドール元帥の弟子として戻ってきた神田と再会してコムイの下につき、両親からの教えや両親が遺した資料をもとに本部の科学班になる。
科学班なので原作は方舟編まではほぼスキップ。アルマカルマ編では記憶の補完で呼ばれる。

神田を書くならセカンドか科学班!と思っていてちょっと考えてみた結果、セカンドはイノセンスの設定も前の設定も考えるのが大変だなぁ、と思って科学班になりました。




▼さわりだけ


「こーら!神田!また医務室行ってないって聞いたけどー?」

「……うるせえのが来やがった」

「んー?なんてー?任務終わりにわたしの顔が見れて嬉しいってー?」

「言ってねえよてめえが医務室行け」

またやってるよ、と周りから声が聞こえる。よくやるよな、とか、放っておけばいいのに、とか。お世辞にも態度がいいとは言えないこの男が敵を作りまくるせいで居心地が悪いのなんの。すぐにキツいことを言う自覚があっても直す気はない神田のフォローは、昔からわたしの役割だった。だからコムイ室長もリーバー班長も、神田が帰還したという報せを受けると、作業の途中でもわたしを送りだしてくれる。死ぬわけにはいかない、と言う癖に治るから、と自分の怪我に頓着しない神田の身体の負担を、少しでも減らすために。わたしを無視して室長のところに報告書を提出しに行こうとする神田のコートを掴む。

「神田まで、いなくなったらやだ」

「………」

わたしの両親は、ふたりとも黒の教団の科学班だった。教団の中で結婚した両親の間に生まれたわたしは、ずっと教団の中で育ってきた。両親が亡くなってからも、ずっと。きっと神田は、わたしの両親が死んだことに対して責任を感じている。それをわかっていてこういう風にするのは、卑怯なことなのだろう。わたしの予想通り、めんどくさそうに溜め息を吐いてから、行くぞ、と神田が医務室の方に歩き出す。科学班のみんなだって、今のわたしには大切な家族だ。でも、両親と一緒にアジア支部にいた頃に出会った神田たちは、やっぱりわたしにとって、誰よりも特別な存在だった。そして何よりも。両親が死んで、親しい人たちを亡くして、半狂乱になったわたしを、AKUMAをうむことになるかもしれない、と監視付で教団に閉じ込めた中央から助けてくれた、神田は。お前がAKUMAになったら俺が斬ってやる。たくさん傷ついたくせに。大事な親友を自分の手で殺さなくちゃいけなくて、一度は逃げたのにまた教団に戻ってきて戦い続けて、心も身体も、どんどん疲弊していっているくせに。そう言ってわたしを連れ出してコムイ室長に渡した神田は、どこまで重いものを抱え続けるつもりだろうか。教団で生まれたわたしは、教団以外に行く場所がない。だから、少しでも神田の役に立てるように、両親から教わったことや両親が遺した知識を活かして科学班になった。教団のことを憎んでいる神田が、帰って来た時に少しでも、本当に少しでも、心と身体を休められたら、いいのに。

「そういえばね、医務室嫌いの神田のために飲むだけで元気溌剌になる薬を作ったんだけどね」

「死んでも飲まねぇから今すぐ破棄しろ」

「リーバー班長に人が飲むものじゃないって処分されちゃったんだよねぇ」

「……人が飲めるモンを作れよ」

どんなやばい薬を作ったのか、と完全にドン引いた目でわたしを見る神田だが、わたしの作ったものなんてコムイ室長の作ったものに比べたらまだまだだ。この間なんか飲んだ人がゾンビになって周りの人に噛みついて感染を広げていく薬品を作ってリーバー班長に没収されていた。ちゃんと安全な薬を作ったら飲んでくれる?と隣を歩いている神田を見上げると、思い切り嫌な顔をされた。

「そんな顔するんだったら最初から素直に、自分で医務室に行ってくださーい」

まったく失礼な。ぷんすか、とおふざけ半分で怒りを表現しながら少し早歩きで神田よりも前に出ると、後ろから小さくぼそり、と呟く声が耳に届く。

「……どうせ、お前が無理やり引っ張っていくだろうが」

その声は、いつも他の人に向ける冷たいものではなくて。昔のように、素直じゃない神田の、呆れたような声だった。本気で神田が嫌がったら、わたしなんかじゃ医務室になんて連れて行けない。それでも一緒に来てくれるのは、わかりづらい神田の精一杯の優しさなのだ。ふふ、と笑って、くるり、神田の方を振り返った。

「ユウくんは素直じゃないですねぇ」

「下の名前で呼ぶな」

「神田はいい加減わたしの名前呼んでよ」

わたしの名前はお前じゃないよ。そう言っても、神田は目を伏せるだけだった。幼いころには簡単に呼べた名前が、どうして今は呼べなくなってしまったのか。ユウ!なまえ!とわたしたちの名前を屈託のない笑顔で呼ぶあの子の顔が脳裏を過る。それと同時に、血をたくさん流して倒れるお父さんとお母さんの姿が、何年経っても忘れられない光景が、瞼の裏にまざまざと映し出された。ぐ、と見えないように力を込めた拳。爪が手のひらに食い込むのを感じる。

「なまえ」

突然呼ばれたわたしの名前と、バシン、と頭に感じる衝撃。この男、女の子の頭を叩きやがった。眉間に皺を寄せてわたしを見る神田を睨みあげれば、鼻で笑われる。

「お前もひとにあれこれ言う前にその不細工な面なんとかしろ」

普段の7割増しで酷い面してるぞ、なんて。そりゃああなたが帰って来るまでぶっ続けで仕事に追われて、今三徹目ですけど。もともと神田のお綺麗な顔に敵うような顔面の造りはしてないけど。あんまりな言い方に足を踏んでやろうと一歩踏み出すが、呆気なくかわされる。わたしの横を通り過ぎて早く行くぞ、とすたすた歩いていく神田を小走りで追いかけて、いつも変わらないポニーテールを引っ掴んでぐい、と引っ張った。喧嘩しながら医務室にいくと、ここで騒がない!と婦長からお叱りを受けてしまったけど、神田が叱られて気まずそうにする人なんてそういないから、わたしも胸がすっとする思いだった。気づけば、あの子の影も、両親の最期の姿もわたしの頭から消えている。本当に、不器用でめんどくさくて素直じゃない男だ。ねえ神田。わたしを斬ってくれるというのなら、わたしより先に死んだらだめなんだからね。あなたが教団にも、この世界にも、憎しみしか抱けないというのならば、わたしがここで、あなたを繋ぎとめる楔となるから。





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