▼ ホークスと元カノ(MHA)
雄英で働いてるホークスの元カノがホークスとつかず離れずの関係を保つ話
ヒーローとしての自分を何より優先するホークスと、もっとホークス自身のことを大切にしてほしい女の子が考えの違いから別れるものの、お互い未練たらたらで、何かにつけて連絡とっちゃったりする。
またそういう話です。いつもおんなじような話ばっかりですね(自虐)。
ただホークスを幸せにしたいって気持ちから手をつけたんですが最近の本誌を読んだ結果ホークスの幸せとは何かを見失ってしまったので途中で止まってしまいました。
わたしのなかでホークスの幸せが見つかったら続きを書くかもしれません。
いい思い出、と片付けるには、あまりにも濃く、わたしの中に刻まれた時間だったと思う。それでも、あの人はわたしを選ぶことはできなかったし、わたしだってわたしを選んでくれない人の傍に居続けることはできなかった。逃げるように母校であった雄英高校にやってきて、もう1年ほどの時間が経過していた。ヒーローを志す少年少女たちに、万全の体制の教師陣。さらに今年からは、あのナンバー1ヒーロー、オールマイトが教師としてやってきたことで、良くも悪くもあわただしくなっているように思う。忙しくしていればきっと、あの人を思い出すこともなくなる。だからわたしは一生懸命仕事をしたし、1年A組がヴィランに襲撃されてからつい先日の体育祭まで、後始末と準備に追われて余計なことを考えている暇なんてまったくなかった。だから、気が抜けていたのだろう。
「轟くんと常闇くん指名したいんですけどー」
「……1年生の職場体験に関する指名につきましてはメールにて承っております」
「えっ、電話じゃだめなんですか?」
いいじゃないですか、この電話で受け付けてくださいよ、とずけずけと悪びれもなく言ってくる相手に、そのまま受話器を置きたい気持ちを必死に抑え、規則ですので、とあくまで事務的に返答する。
「俺となまえさんの仲じゃないですか」
「ただの他人です」
引き下がる様子もなく、果てには聞いてもいないのに近況報告をし始めたので、ついわたしの語気も荒くなってしまう。
「いい加減にしてください、ホークス!」
速すぎる男、ウイングヒーローホークス。雄英にくるまでのわたしの上司であり、1年前まで付き合っていた男だった。電話越しでもへらへらしているのがわかるような軽薄な声で、そんな怒んないでよ、と言うホークスに、これ以上おちょくられてたまるか、と職場体験の指名の書類をデスクから取り出した。メール以外でもFAXや郵送で対応できるように申込書が別途用意されているので、要件だけ聞いてわたしが記入してしまおうという作戦である。
「わたしの方で書類に記入いたしますのでこれからお聞きする事項についてご教示いただけますか」
「そんな早く電話切ろうとしなくてもよくないですか?」
「わたしは仕事中なんです!」
「じゃあ、プライベート用の携帯に電話したら出てくれます?」
うっ、と言葉に詰まってしまう。わたしの携帯は、しっかりとホークスの番号を着信拒否に設定していた。元カノと連絡を取ろうとする男って、どういう意図があるのだろうか。少なくとも、ヨリを戻そうと軽く言えるような別れ方はしていなかったとわたしは記憶している。
「……何が目的なんですか」
「人を常に何か企んでるみたい言うのはやめません?」
「あながち間違ってはないでしょう」
どれだけ冷たい言葉を返しても、電話の向こうのホークスの声から喜色が消えることはない。本当に、何がしたいのだろうか、この人は。わたしが福岡にいた時によく行ったお店が改装した、とか、新しい焼鳥屋さんがうまいとか、また下らない世間話へとシフトしていく会話に、段々と自分が流されていくのがわかる。きっとあと数分話せば、昔みたいに軽口を叩いたり、普通に会話をし始める自分が容易に想像できたのに、それは他でもない、ホークス自身の声によって遮られる。
「おっと。名残惜しいけど行かなきゃみたいです」
ぴく、とわたしの肩が跳ねた。きっと向こうで何か事件があって、それを解決しに行くのだろう。ヒーローであるホークスに、わたしに使う時間はない。ずん、と胸に感じる重みに気づかないふりをして、要点だけをまとめて手短に伝える。
「職場体験の指名についてはこちらで処理いたしますので、生徒たちの返答を待ってから追ってご連絡いたします」
「よろしくお願いします」
やっと、電話を切れる。ホークスの声を聞いていると、わたしの心が無理矢理一年前に引き戻されるような気がして、落ち着かない。受話器を耳から離そうとした時だった。なまえさん、とわたしの名前をホークスが呼んだような気がして、まだなにか、と口に出す前に、耳元で安心したように笑う声が響いた。
「元気そうでよかった」
ツー、ツー、と終話を知らせる音がしても、しばらく受話器を置くことができない。ぐ、と受話器を握る手に力を込めてから、大きく息を吐いた。………だから、わたしはあなたの、そういうところが嫌いなんだ。