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▼ 風柱と幼馴染みの再会(鬼滅)

Twitterで呟いてたネタから1話を書き起こしてみたやつです。

不死川家のご近所に住んでた女の子が初恋の人不死川実弥と再会したらなんか傷だらけだし厳ちィことになってた話。




幼いころの初恋というものは、何年経っても忘れられないものだ。初恋の相手と言うのは一生特別で、他の人と夫婦になって子供を産んでも、自分の中でずっと色鮮やかに輝き続けるのだろう。忘れられないひとがいて、いくらお見合いをしたところでわたしの中でそのひとを超えるひとが現れない。おかげで気づけば20歳を過ぎていて、わたしも行き遅れと呼ばれるようになってしまった。ここまで育ててくれた両親に対して、とんだ親不孝だと思う。下の妹はとっくに嫁入りして子が数人いるというのに。裕福ではない実家にいるのはさすがに気が咎め、17を過ぎた頃、わたしは出稼ぎに出ることにした。初恋の思い出がたくさんある故郷を離れたかっただけかもしれない。叔父と叔母が食事処を営んでいるのだが、年をとり、子宝にも恵まれなかったために人手が欲しいと言っているのをいいことに住み込みで働かせてもらっている。人と接するのは嫌いではないので、常連のお客さんとも色々なお話をして、毎日楽しく暮らすことができていた。それでもやはり昔のことを思い出しては胸がきゅう、と締め付けられる。あの人は、今もどこかで元気にしているのだろうか。陽が落ち始め、夕ご飯時となる少し前、ガララ、と音を立てて店の扉が開かれる。いらっしゃいませ、と笑顔を添えて扉の方に顔を向けて、固まる。まず目を引くのは、顔や大きく開かれた胸元で主張している傷跡だった。

「なまえちゃん、奥入ってな」

わたしによくしてくれている叔母さんが、とん、とわたしの肩を叩いて小声でそう言った。あからさまに堅気ではない様子から心配してくれているのだとわかる。確かに何かあった時、わたしではなくベテランの叔母さんが対応したほうが安心だろう、と厨房の叔父さんのところに向かおうとして、何かが引っかかってもう一度今しがた来店したお客さんの顔を見た。

「………実弥くん?」

ぽろり、とわたしの口から零れ落ちた名前は、ずっと忘れられずにいる、わたしの初恋の人の名前だった。珍しい髪色にぎょろりと大きい特徴的な目。最後に見た時は傷なんてなかったし、あんなにがっしりしていなかったから自信があるわけでもないけれど。

「………誰だ、テメェ」

席に案内しようとする叔母さんを通り越してわたしに近づいてきた彼は、わたしの顔をじっと見つめて、そのまま興味なさそうに目を逸らした。はらはらした様子の叔母さんが案内しようとした席にドカリ、と座る。わかりにくいけれど、名前で反応したあたり、彼は実弥くんで間違いないのだろう。わたしの知っている実弥くんは優しくて家族想いの男の子だった。少しぶっきらぼうなところもあるけれど、そういうところも含めてわたしは実弥くんが大好きだったのだ。実弥くんだ、と思ったら、今彼がどんな風貌をしていようが、関係なかった。聞きたいことも、話したいことも、たくさんある。

「実弥くん、実弥くんだよね…?無事だったんだね。あの時、いきなりみんないなくなっちゃって、わたし…!」

「俺はテメェなんて知らねェ」

わたしに全く視線を寄こさず、突き放した実弥くんに、ひゅ、と喉が詰まる。なんで。どうして。そんな言葉ばかりが頭の中をぐるぐる回っていた。それでもなおも食い下がろうとするわたしを叔母さんが止めて、先ほどとはちがい、強い口調でわたしに奥に入るように指示する。納得いかなかったけれど、ぽつりぽつりといる他のお客さんもざわめきだしていたし、お世話になっている叔母さんたちに迷惑をかけるわけにもいかない。ぐ、と唇を噛んで踵を返した。実弥くんは、わたしの実家のご近所さんだった。ろくでもない、と実弥くんに言われているお父さんからたくさんの子どもたちを身を呈して庇い、育てていたお母さんと、そんなお母さんが大好きな子どもたち。生活は大変だっただろうけれど、それはわたしの家だってそうだったし、不死川家は絆が固い普通のお家だったのだ。だけどある日、5歳下の弟の玄弥くんを残してお母さんと幼い弟妹たちが惨殺され、長男である実弥くんは姿を消した。わたしがそれを知ったのは事件があった夜の翌日の昼のことだった。酷く取り乱して泣いていた玄弥くんと一緒に息絶えた子どもたちを埋葬しながら、実弥くんのことを訊ねたが、玄弥くんは何も言わず、わたしにわかったのは、ただ実弥くんがいなくなってしまったということだけ。わたしの初恋は、本人に伝えることなくそこで終わってしまったのだ。

「なまえちゃん、大丈夫かい?」

しばらく厨房で叔父さんの手伝いをしていると、叔母さんがひょい、と顔を出した。ありありと心配が浮かんでいる表情にひどく申し訳ない気持ちになる。よくしてくれている人たちに、報いることができていない。だけどわたしはそれでも、実弥くんと話がしたかった。実弥くんの身に何があったのか知りたかった。

「ごめんなさい。あとでどんなお叱りも受けます。だから、わたしに時間をください」

深々と頭を下げると、叔母さんはやはり心配そうにしながらも、渋々といった様子で頷いた。もう一度深く頭を下げてお礼を言い、お店の前掛けを外して勝手口から店の外に出た。お店の前で待っていたら、実弥くんは絶対にここを通る。そこを捉まえれば、少しくらい何か聞けるかもしれない。扉が開く音にぱっと顔を上げる。実弥くん、と名前を呼ぶと、実弥くんは心底不快そうに顔を歪めた。

「ごめんね。どうしても、話がしたくて」

「アァ?俺はテメェを知らねェって言ってんだろォ」

「なまえだよ。前、近所に住んでたなまえ」

「記憶にねェしどうでもいいわ」

「……小さい頃からよく遊んでたじゃない!実弥くん家のおばさんが忙しい時はご飯作りに行ってあげてたし弟妹のお世話も手伝ってた!」

背を向けて立ち去ろうとする実弥くんの、"殺"と物騒な言葉が書かれた羽織を掴んで引き止める。どうしてこんなにも知らんぷりするのかわからないけれど、わたしだってこのままじゃ引き下がれない。離せ、と低い声で言われて大きな瞳が鋭くわたしを睨んだ。びく、と肩が跳ねる。そもそも、男の人に威圧されることなんてないし、お店のお客さんたちはみんな気のいい人ばかりなのだ。怖気づいた様子のわたしをハッ、と鼻で笑って羽織を掴んだ手を振り払った実弥くんが、わたしを置いて歩き出す。だけど途中で一度歩みを止めて、動けずにいるわたしをちらりと見た。

「……陽が落ちた後は家を出るな」

それだけ言い残して、今度は止まることなく陽が沈みかけてうす暗くなった町に消える。心配、してくれたのだろうか。わたしのこと、拒絶したくせに。昔のような優しさの片鱗が見えてしまったら、わたしだって諦められないじゃない。いよいよ陽が沈みきってしまうので、実弥くんに言われたとおり、慌ててお店に入った。また、会えるだろうか。生きていることがわかったのだから、きっとまた会えるだろう。次に会った時こそ、たくさん話をしたい。わたしの好きな実弥くんは、きっとまだ彼の中にいるのだから。




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