▼ 神田誕生日(Dグレ)
神田ユウとエクソシストの女の子 byあやか
6月6日。今日は神田の誕生日だ。本人は誕生日なんて微塵も興味がないけれど、教団のみんなは誰かの誕生日には食堂に集まって宴会を開く。今日も早速、食堂では大人たちが飲み始めて、飲めないメンバーはジェリーのごはんに舌鼓を打っていた。先程も言った様に、神田は誕生日などどうでもいいので先日から任務に出掛けているけど、コムイの計らいで夕方に帰って来たら私に連絡がくる手筈になっている。私は今日はお休みをもらっていて、神田には内緒でちょっと前からケーキの練習をしたり、誕生日の準備をしていた。勿論1人で。本当はみんなと一緒に盛大に祝ってあげたいけど、神田は絶対に嫌がるからその案は早々になしになった。私はまぁ付き合いも長いし、なんだかんだ毎年誕生日は祝ってるし、今年も本気で拒否はされないだろう。ジェリーのお手伝いをしながら、厨房の端っこで神田用に1人分の小さなケーキを作る。きっと食べてはくれないから、私が1人で食べることになると思うけど、どんな反応をするのか考えながら作るのは楽しかった。
「なまえ!どう?出来た?」
「ううん、あとは飾り付けだけなんだけど、シンプルな方がいいよねぇ」
そうねぇと言いながら、他のみんなの食事で忙しいのに一緒に考えてくれるジェリーはとても頼りになるし、意見を聞いてみることにした。因みに今のケーキの状態は、生クリームでコーティングされて、上には私が頑張って書いた、happybirthday神田!と書かれたチョコレートのプレートがちょこんと乗っているだけだ。
「蕎麦を乗せるとか…?」
「待って!流石にそれは不味いって!!」
慌てる私に冗談よ、なまえは本当に神田が好きなのね、なんて言ってからかってくるジェリーを真っ赤な顔で睨みながらだから違うって!と否定すると、微笑みながら結局なまえが作ったものならなんでもいいと思うわ、なんて言われてしまった。そんなことないと思うけど、シンプルな方がやっぱりいいと思いイチゴを少し乗せるだけにして冷蔵庫に仕舞わせてもらった。コムイからの連絡は、まだない。私もお腹が空いてきたし、少し料理を食べながら神田の分も取り分けておこうと思って厨房を出た。
「なまえ!」
「お帰りリナリー!帰ってたんだね」
「さっき帰ってきたの!神田はまだ?」
「そうみたい。コムイのとこに報告に行ったら教えてくれるって言ってたんだけどね」
私の返事に、今日位休みにしてみんなに祝ってもらえば良かったのに…と呟くリナリーに苦笑いをする。勿論リナリーも神田の性格を分かりきっているので、そのまま直ぐ違う話題を振ってくれるのは流石だ。
「何かプレゼントとか用意したの?」
「えーと、特には?」
「なまえってそういうとこあるわよね…」
「ははは…」
神田の部屋は殺風景で物も少なく、形に残る物をプレゼントするのは気が引けて、毎年プレゼントなんて渡していない。それこそちょっとお高い蕎麦とか消え物ばかりだ。今年は蕎麦はやめて、私が嫌がらせのように食べるであろうケーキにしたけど。そんな話をしていると、私のゴーレムに神田くんが帰ってきたよ、とコムイから連絡があった。ちょっとは食堂に顔出しなさいよね!って伝えてね!というリナリーと別れて、真っ直ぐ部屋に戻ったであろう神田の部屋に、料理とケーキの乗ったトレイを持って向かう。部屋をノックして、神田、私と言うと鍵が開く音がして、少しドアが開いた。
「happybirthday神田〜!」
そう言って部屋に入った私を冷たい目で見て、神田は何も言わなかった。
「…なんか言いなよ」
「祝ってくれなんて頼んでない」
「またそういうこと言う〜。毎年祝ってるんだからありがとうとか言えば良いのに」
私の言葉にチッ、といつものように舌打ちをした神田に、はいこれジェリーのごはん、とトレイを差し出した。
「いらねぇ」
「今蕎麦は?って思ったでしょ」
私の質問が図星だったのか、彼はすっと目を反らすどころかめっちゃ睨んできた。背後に鬼が見えそうだ。
「せっかくお腹空いてると思って持ってきたのに、食べないんなら私が食べちゃうけど」
「好きにしろ」
結局私も食堂ではリナリーとのお喋りに夢中になっていて、料理を取り分けただけで何も食べていなかったので、お言葉に甘えて持ってきたチキンを食べる。うん流石ジェリー、美味しい。そのあともこれ美味しいよ?と声を掛けながら勧めるけどその度にいらねぇと突っぱねられて、頭に来たのではい、あーんとサラダを差し出してみたら完全に、無視された。ちょっとふざけ過ぎたか。
「神田、ケーキは?…私が作ったんだけど」
「甘いもんは嫌いだ」
知ってましたよ。知ってましたとも。それでも一口くらい食べてくれてもいいじゃないか。あっそ。自分でも子供じみていると思ったけど、その一言にちょっとムッとして、ケーキを頬張った。自分でも思った以上の出来だった。ほんと、練習した甲斐があったわ。食べてはもらえなかったけど。しーんとした部屋に私がケーキを食べる音だけが響く。暫くすると1人分の小さなケーキはあっという間に残り一口になっていた。そのタイミングで、今までベッドに腰掛けていた神田が立ち上がり、こちらに向かってくる。
「え、なに。ちょっと、怖いんだけど」
無表情で私を見下ろす神田に声を掛けると無言で、持っていたフォークを私の手ごと掴み、最後の一口を自分の口に入れた。驚いてぷるぷる震えながら言葉が出ない私に、神田はチッ、あめぇ、と言ってのけたのだった。
「実は食堂にジェリーのお蕎麦があります!!ほら、みんなのとこに顔出しにいこ!!」
鏡なんて見てないけど、顔が熱いから、私はきっと真っ赤になっているだろう。照れ隠しに神田の手を掴んで部屋から出ると、後ろから笑われたような気がして振り向く。いつもの仏頂面だったけど、少しだけ優しい顔をしている気がした。