▼ 木虎の地雷を踏む
かちゃかちゃとゲームをする音が鳴り響く隊室。わたしとさぁちゃんとナマエさんと遊びに来た柚宇ちゃんの4人で某大乱闘ゲームをやっていた。リンク推せるよリンク。そう言いながらわたしが操作しているのは黄色い悪魔だけれど。いや柚宇ちゃん強すぎるな?わたしもさぁちゃんもそれなりにこのゲームやってるけど柚宇ちゃんだけ明らかにレベルが違う。これで何敗目だろうか。全員柚宇ちゃんにボコボコにされ続けたので、そろそろ一回休憩しようか、と言って携帯を見ると、とりまるからLINEが届いていた。20分ほど前に
【ラウンジに来てください】
と書かれたそれに、もう大分経ってるわぁ〜と遠い目をしてしまう。何か用事があるのなら頼むから事前に連絡してほしい。防衛任務じゃないのはさすがに確認 してるのだろうが、わたしにだって予定があるというのに。
「なんか呼び出されたからラウンジ行ってくる」
「まさか告白〜?」
「ラウンジで……?」
年頃の女の子が集まっている為、色恋の話への関心がすさまじい。さぁちゃんなんて三次元に興味ないくせに。この中でまともに恋愛してるのなんてナマエさんくらいだろう。そしてボーダー内でわたしにそういう意味で好意を抱いている野郎なんてまずいないこともわかっているはずなのに。なんだかんだ関わることが多い同年代はオペレーターたちに向ける優しさの半分もわたしには見せずめんどくさい絡み方してくるので当然論外である。ただし村上鋼を除く。わいわいと相手が誰だか話し合ってるのを置いて重い腰を上げると、未だにコントローラーを握った ままの柚宇ちゃんがゲームの続きは〜?と聞いてくる。友達の恋バナ(ではないけれど)よりもゲームを優先させるあたりブレない柚宇ちゃん。そんなところが好きです。3人でもできないことはないけれどきっと柚宇ちゃんが4人プレイがしたのだろう。とりまるをこれ以上待たせるのはしのびないものの、柚宇ちゃんにひたすら甘いわたしが暫し悩んでいると、隊室の扉が開いた。
「あれ、なまえ先輩どこかに行くんですか?」
珍しい、と付け加えてそう言ったのはどこかに出かけていたりっちゃんだった。
「おかえりりっちゃん」
「風間隊がこれから防衛任務らしく歌歩ちゃんを連れていかれてしまいました…」
珍しくしゅんとしているりっちゃんを、わたしが座っていた場所に座らせ、コントローラーを握らせた。操作キャラクターはもちろん黄色い悪魔である。これで面子はそろった。何が何だかわかっていないりっちゃんに親指をグッと立て、いってきまーすと言い残して隊室をあとにする。きっとりっちゃんも柚宇ちゃんにボコボコにされることだろう。
「とりまる〜」
ラウンジについてすぐとりまるの姿を探すと、案外早くとりまるの後ろ姿を見つける。誰かと話しているようだ。邪魔するのはよくないかもしれないが、呼び出しをくらったということはわたしに用事があるのだろう、と判断して声をかけた。
「なまえ先輩、遅いっすよ」
「あのね、いきなりあんなLINEされても普通に気づかないから。事前連絡をしっかりしなさい。ホウレンソウだよホウレンソウ」
半目でとりまるに近づいてとりまると話していた相手を見る と、びっくりするくらい冷やかな目でわたしを見る木虎がいた。そこでわたしが木虎がせっかくとりまるとふたりで話していたのを邪魔してしまったことに気がついた。
「き、木虎…。こんなところにいるなんて珍しいね。今日は広報の仕事ないの?」
「ないからここにいるって少し考えればわかることだと思いますが。それにここはラウンジです。誰がいたっていいでしょう?」
アクセル全開だった。前から木虎に嫌われてるのでは?と感じることは多々あったけれどこんなに滅多打ちにされたことはない。原因は間違いなく恋する乙女のとりまるとの時間を邪魔したことなのだけれど、だからと言ってここで退散してとりまるが見逃してくれるとは思えない。
「大体ホウレンソウって言いますけどみょうじ先輩にも出 来てないですよね?周りの模範となるべきA級隊員がいつも問題ばかり起こして。恥ずかしくないんですか?それに私たちはいつどんな呼び出しがあるかわからないんです。通信機器の管理はしっかりして下さい」
いつもはどんなにツンツンされてもからかってもっと怒らせるくらいの対応をしているが今日の木虎は本当に鬼気迫っていてぐうの音も出なかった。なぜわたしは中学生にこんなコンテンパンに説教されてるんだ?みるみる内に萎んでいくわたしを見かねたのか、とりまるが庇うようにわたしの前に立った。いやおまえそれ逆効果な。木虎がショックを受けて涙目で余計にわたしを睨んできてるから。
「木虎わかった、わたしが悪かった。ごめん」
「どうせ何が悪かったのかわかっていないんでしょう?」
「話は後で聞くから…とりあえずとりまるの要件聞かせて」
柚宇ちゃんたちと居心地のいい隊室で楽しくゲームをしていたわたしをわざわざ呼び出してこんな目に遭わせているのだから当然、ちゃんとした用事があるんだよな?いくら顔がいいからって今のわたしのメンタルでは許せることと許せないことがあるからな。木虎もハッとして、顔を赤らめながらすみません、烏丸先輩!ととりまるに謝罪している。わたしにもその反応をくれ。
「いや、木虎は真面目だからなまえ先輩とは相性がよくないのかもしれないが、なまえ先輩は尊敬できる部分もそれなりにあるから、あんまり邪険にしないでやってくれ」
「それなり?」
「は、はい!」
「ねえとりまる、それなり?それなりなの?」
ふたりともまったく私の話を聞 いてくれる様子はない。なんてこった。木虎に嫌われてるのはともかく、とりまるのことは後輩として結構かわいがっていたつもりなんだけど。顔がいいし。完全に気分を害したわたしが不貞腐れる。出水が後輩のくせに京介はかわいくねー!って叫んでた気持ちが今ならわかる。とりまるの顔がいいからってひがむなよって笑ってごめん出水。
「で、なまえ先輩、要件なんですけど」
「……なんですか」
「これ、昨日バイト先でもらったんです。前になまえ先輩が行きたいって言ってたところですよね」
そう言ったとりまるが差し出したのは先日玉狛で小南とテレビを見ていた時に嵐山隊が食べていてとても美味しそうだったいちごパフェのお店の割引券だった。思わずぱっと顔を明るくしてとりまるを見ると、先程ま で不貞腐れていたからか、わたしの態度の変わりように少し笑っている。
「この間ずっと行きたいって連呼してたんで、よかったら俺と一緒に行きませんか」
「え、わたしそんなにひどかった?後輩に憐れまれるほど?」
「憐れんではいないですけど」
行きたい。隊室にみんなを残してきてしまっているけれど、この間見たテレビではめちゃめちゃ美味しそうだった。でもちょっとお値段がかわくないなぁ〜なんて思っていたから、割引券があるならぜひとも行きたいところだ。
「とりまるはやっぱりいい後輩だね…。さっきまでこいつかわいくねーな!とか思ってて本当ごめん」
「そんなこと思ってたんですか」
完全にわたしの脳内はいちごパフェに傾いている。よく考えたらとりまるとふたりで食べに行くのでは ?と頭を過ぎるけど、とりまるがわたしを相手にすることなんてまずないから、先日のわたしは余程いちごパフェが食べたいように見えたのだろう。とりまるの厚意が先輩はうれしいので今日は全部わたしが奢ってあげよう。
「そういえば木虎はこの間ここのパフェ食べてたな。どうだった?」
とりまるがそう木虎に聞いているのを見て、わたしの背中に冷や汗が伝った。やばい。完全に地雷を踏みぬきまくった自覚がある。案の定ぷるぷると震えた木虎は今日一番のうらみのこもった視線をわたしに向け、叫んだ。
「全ッッッ然美味しくありませんでした!!!」