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「いいか野郎ども、明日は決戦の日だ」

バン、とラウンジのテーブルを叩いてそう宣言するが、わたしの周りに集まっている人たちは何も反応を示さずにそれぞれ携帯をいじったりおしゃべりに花を咲かせている。すぐさまトリガーを取り出して換装し、メテオラを出すと、バカやめろ!と諏訪さんと出水に取り押さえられた。

「みなさん話聞いてます?ねえ。わたしの話聞こえてますかぁー?」

よく聞こえるように穴増やしてもいいんですよーと羽交い絞めにされながらもふわふわ浮いているトリオンキューブを人数分に分割するとすぐさま全員が話を聞く態勢になった。最初からそうしておけよ。

「一週間後はナマエさんの誕生日です。今日はその打ち合わせだったと思ったんですけど違います?ねえ」

「ちがわねーからとりあえず換装を解け。真面目にやるから」

わたしの後ろに待機しているさぁちゃんとりっちゃん、加古さんの厳しい視線に耐えかねて、わたしが招集した野郎どもが冷や汗を流している。ふん、と鼻を鳴らして換装を解いた。そう、これはすぐ近くにせまったナマエさんの誕生日を祝うため、わたしたち女子勢が普段からナマエさんと関わりの多い野郎どもをラウンジに集めて、お祝いの算段をつけようという会なのである。張本人のナマエさんは大学の講義で不在。堤さんと来馬さんが一緒に講義を受けているのでうまく時間稼ぎをしてくれるはずだ。万が一早く来ることがあっても隊室に入ったらしばらく出れない罠をさぁちゃんが仕掛けていたからこの会がバレることはないだろう。

「とりあえず会場はラウンジでいいかな、と思うんだけど」

「あんまり派手にやると私的利用で怒られるんじゃね?」

「そこは忍田さんに相談する。太刀川さんも来てね」

「おれが一緒だと逆に怒られるんだろ」

自覚があるならもっと素行を良くしてほしいところなのだが、その話を始めると長くなるのであえてスルーした。料理担当はレイジさんと加古さんにお願いして、と言うと諏訪さんから止められて腕を引かれて小声でぼそぼそと加古はだめだろ、と言われる。

「じゃあ諏訪さん断れるの?ノリノリで私も腕を振るうわねって言ってる加古さんにご遠慮いただくように説得できるの?わたしには無理だよ」

「祝いの席でミョウジが死んだらどうすんだよ」

「そこはほら、堤さんに頑張ってもらおう」

「お前は鬼か」

顔を寄せ合ってひそひそ話すわたしたちに、加古さんが何か言いたいことでもあるのかしら?と笑顔で声をかけてくる。

「まさかまさか。加古さんに言いたいことなんてあるわけないじゃないですか。諏訪さんはどうかわからないですけど。諏訪さんは、ねえ?」

「みょうじてめえあとで覚えとけよ」

もちろん秒で忘れるけども。会場、料理をおさえたとなれば、あとは会場の装飾とプレゼント、そして当日にナマエさんを誘導する係が必要である。誘導に関しては、誕生日を忘れたふりした出水たち3馬鹿と太刀川さんがナマエさんをランク戦ブースに引っ張り込んで逃がさず、時間を見計らって連れてくるという段取りを考えてはいる。問題は熱くなった太刀川さんが時間を忘れてランク戦に勤しむのではないかということだ。そのあたりは3馬鹿にしっかりしてもらうしかない。装飾は女子勢でなんとかしよう。いざとなったらレイジさんに分身してもらえばなんとかなるだろう。レイジさんが分身できるかどうかは別として。目下一番の問題はプレゼントである。

「風間さんをプレゼントするのが一番喜ぶのは目に見えてるんだよ…」

「無茶言うなよ。風間さんをどうやって言いくるめんだ」

「助けて諏訪えもん」

太刀川さんの珍しくもっともな疑問に諏訪さんに助けを求めると、ぶは、と噴き出す音がして、3馬鹿が爆笑していた。加古さんも上機嫌にかわいいじゃない諏訪えもん、なんて笑っている。とりあえずのところ、パーティーに風間さんを呼ぶにとどめて別のプレゼントを用意することにして、そのプレゼント係はうちの隊が務めることになった。ていうかプレゼントくらいみんな用意して来いよ、と言ったのだが、太刀川さんからのブーイングを受けてなくなった。太刀川さん本当にそういうところだよ。諏訪さんとか堤さんとか来馬さんはきっと個人で用意してくるのだろう。もちろん加古さんも。3馬鹿はしないだろうけど。さて、ナマエさんは何を渡したら喜ぶか。さぁちゃんに目配せをすると伝わったようでにこにこと頷かれ、続いてりっちゃんを見れば、みかみかに電話をかけていた。これで本命のプレゼントの準備に抜かりはない。続いてカモフラージュ用のプレゼントだ。あの人ヲタクではあるけど175だからな。そういうものを上げても長く大事にはしてもらえない。うーん、と頭を悩ませて、以前ナマエさんがSNSで騒いでいた恋するリップの存在を思い出した。かわいくない!?とそれを見せられた時には恋するリップという名称に大爆笑したものだが、本人が欲しいと言うのならば買ってあげよう。こうして、ナマエさんの誕生日パーティーの準備は着々と整っていくのだった。


 * * *


ナマエさんの誕生日当日、準備はとっくに終わり、あとは手はず通りに太刀川さんと3馬鹿がナマエさんを連れてくるだけだというのに、待てども待てども来やしない。出水におい、とだけLINEすると、太刀川さんが乗っちゃって、とすぐに返信がくる。だからおまえらつけたんだろうがしっかりしろよ!!仕方ない。出番だ諏訪えもん!君に決めた!と心の中で叫んで諏訪さんにランク戦ブースまで迎えにいってもらうことになった。パーティーに来てもらうことに成功した風間さんが一番適任だとはわかっているけれど、そこはサプライズだと思って欲しい。ラウンジにはレイジさんの作ったおいしそうな料理と加古さんが作った劇物が並んでいて、準備のいいわたしは堤さん用の胃薬もしっかり用意している。すぐに諏訪さんから今からつれてく、と堤さん宛にLINEが来たのでラウンジに入ってきたらすぐ鳴らすようにみんな飛び散らないクラッカーを片手に待機してもらうが、早速別役がうっかり鳴らしてしまって、来馬さんのを渡してもらっていた。少し緊張しながらその時を待ち、人影がラウンジに入ってきた瞬間、一斉にクラッカーの紐を引いた。

「ハッピーバースデー!」

パンパンパン、といろいろなところから音がして、飛び散らないようにクラッカーについたままの紙が舞う。これはラウンジを使用する際になるべく汚さないことという条件を出されたためだ。パイ投げも案にあったのだが、同様の理由で却下されている。紙が申し訳程度に飛び出したクラッカーが落ち着いてナマエさんの反応を見てやろうとうきうきしながら入り口を見ると、

「やっべ。ミスったわ」

そこに立っていたのは太刀川さんだった。

「太刀川てめー先行くなって言っただろーが!」

「諏訪さんなんでそんな怒ってるんですか……?」

続いて入ってきた諏訪さんとナマエさん。出水と米屋が状況を理解したようであちゃーという顔をしている。ナマエさんがかたまっているみんなと飾り付けられたラウンジを、何が何だかわからないと言ったように見回した。そして最初に動き出したのは、加古さんだった。

「太刀川くんに言いたいことは本当にたくさんあるけれど、まずはお誕生日おめでとう、ナマエ」

はいこれプレゼント、と ラッピングされたものを差し出した加古さんに続いて、それぞれ動き出す。わたしも目の前に加古さんの炒飯が置かれたお誕生日席にナマエさんを通し、さぁちゃんとりっちゃんと一緒にプレゼントを渡す。リップはともかく、他のプレゼントはさぁちゃんがランク戦等の映像から抜き出した風間さんの特製ブロマイド(無許可)と、みかみかの協力で手にいれた風間さんの生写真(無許可)なので、くれぐれも中身はひとりで見るように念を押した。まだ頭が追い付いていないようだが、少しずつ状況を理解したらしいナマエさんが、ちょっと涙目になっていく。

「誕生日なのに誰からも連絡来ないからみんなから忘れられてると思ってた〜〜〜!!」

「おれは忘れてたぞ」

「太刀川さんは本当に黙って欲しいしあとで話あるからね」

「諏訪さん、太刀川くんからトリガー没収しておいてくれる?」

わたしと加古さんの冷たい視線にも負けず、太刀川さんは呑気に笑っている。誰か至急忍田さんを呼んでくれ。みんなから代わる代わるおめでとうを言われ、プレゼントを渡されたナマエさんは、風間さんからコップに牛乳を注がれて喜んでいた。加古さんの炒飯と牛乳の組み合わせに挑むとは流石である。ちなみにみんなからのプレゼントは、普段使いできるようなかわいらしい文房具とかハンカチとか、やはりそういうものが多いようだ。その中で満を持して諏訪さんが四次元ポケットから取り出した21歳組からだというプレゼントを喜色満面でナマエさんが開ける。21歳組ってことは風間さんも含まれるもんね。よかったね。

「……………なんですかこれ」

「ミョウジに一番必要なものだろ?」

中から出てきてのは豊胸パッドだった。絶対に諏訪さんのセンスだ。風間さんもレイジさんも雷蔵さんもこういうことはしない。太刀川さんや3馬鹿が大ウケの中、死んだ顔をしたナマエさんがやけになって目の前のやばい色した炒飯を口に掻き込む。段々と青い顔になっていくナマエさんに風間さんが注いだ牛乳を手渡すとそれを勢いよく流し込み、また顔色を悪くしている。どうして加古ちゃんを止めてくれなかったの………。加古さんに聞こえないように呟かれた恨み言は、そっと手渡したナマエさん用の胃薬で黙殺した。波乱はたくさんあったけれど、お祝いしたい気持ちだけは伝わっただろう。きっと。20歳の人たちもほとんど集めたし……と考えて、ハッとした。わたし、二宮さん呼ぶの忘れてた。


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