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▼ 連絡頻度に悩む

風間さんとお付き合いを始めてから3ヶ月が経った。付き合う前からわかっていたことだけれど、風間さんは忙しい。同じ本部所属だからといって、私みたいに個人ランク戦ブースによく来る訳でもないし、わざわざ用がないのに隊室にお邪魔するのも気が引ける。しかも私の天敵菊地原がいる。みかみかはかわいいし、歌川はすごいいい子なんだけど、絶対菊地原に嫌われている、という自信が私にはある。心当たりは完全に風間さんとの関係が先輩後輩から恋人という関係に進展したことだと思う。名前だけだけど。むしろ私の好意がだだ漏れだった頃から敵対心を抱かれていたのは確かなので、これに関してはもう致し方ない。そんなこんなで、ようやくOKをもらったのが夢だったのではないかというレベルで風間さんと会っていないし、連絡も取っていない。私から連絡しようにも、付き合ってる人たちってどんなLINEするの?いつもみたいに大したことない内容のLINEとか送ってもいいものなの?ていうか私風間さんに連絡してたのって、レジュメ見せてもらうとか、飲み会のお誘いとかそんなレベルだ。お付き合いしたてでこんな性格の私には、とりあえず彼女らしい女の子っぽいLINEなんてハードルが高すぎてギブアップである。付き合って3ヶ月って一番楽しい時だよねって友達が言っていたのは、絶対に嘘だと思ってしまう位に付き合う前と何も変わっていない気がした。



「…ということなんだけど加古ちゃん、どう思う?」

「どうって言われてもねぇ…」

やめてめんどくさいって顔で見ないで!!私だってこんなにうじうじするとは思わなかったんだよ!!思わず椅子から立ち上がって注目を浴びてしまい、恥ずかしさに大人しく座り直す。大学の学食でお茶をしながら、私の話を聞いてくれる加古ちゃんは、あまり知られていない私たちのお付き合いを知る一人だ。お付き合いの件は同じ隊のみょうじとさぁちゃん、りっちゃんと同い年の加古ちゃん、風間隊と風間さんと仲のいい諏訪さんとレイジさんにしか知られていない。他のメンバーになんてバレようものなら風間さんにも迷惑が掛かるに違いない。加古ちゃんは特に、色々話聞いてもらったしOKをもらった時も、とっても喜んでくれた美人で自慢の友達である。別に付き合っていることをみんなに隠しているわけではないけれど、私たちの態度とかが今までと何も変わっていないし、お互いに誰彼構わず言いふらすようなタイプでもない。私の中ではこれで満足していたのだ。

「直接会えなくてさみしいですって言っちゃえばいいじゃない」

「それが言えれば苦労はしないんです…只でさえ、お付き合いしてる事実が夢かもしれないのに」

「ナマエって、そんなにめんどくさい感じだったかしら」

「ね、私もそう思う」

大きなため息をついて机に突っ伏そうとした時だった。視界の端っこで風間さんを見つけた。これは話しかけるチャンスなのではないかと思い立ち上がる。

「加古ちゃん私やっぱり話しかけてくる!」

久しぶりに見る風間さんにときめきつつそちらに向かうけど、すぐに回れ右でテーブルに戻る。風間さんは、小柄でかわいい女の人と談笑していた。風間さんがモテるのはもちろん知っていたし、浮気とかするような人じゃないのもわかってる。ただ私が自分に自信がないだけなのだ。

「…ナマエ、大丈夫?」

「うん、平気。とりあえず本部行って個人ランク戦でもしようかな」

遠い目をして話す私にそう、と一言呟いて、これから講義だけど何かあったらすぐ連絡して来るのよ!と加古ちゃんは学食を後にしたので、私も真っ直ぐ本部に向かうことにした。




本部のランク戦ブースに着くと、たくさんの人たちの中から生け贄を発見した。心の中は嫉妬と劣等感でぐちゃぐちゃだけど、顔には出さず二人に声を掛ける。

「米屋〜、緑川〜、暇そうじゃん。個人ランク戦しよ」

私の一言にいいねー!と盛り上がってくれる、こういうところだけはかわいい後輩たちだ。いつもなら勝率は半々というところだけど、今日は負けない気がする。というか負ける気がしない。それぞれと5本ずつ勝負して割りとボコボコにしたところで二人にギブアップされてブースを出た。

「一体どうしたんだよミョウジさん!!」

「何が?」

「いつもみたいに分かりやすくないっつーか、とにかく静か!静か過ぎて気持ち悪い!」

「失礼だなおい」

「そのくせ隙なくて、俺がよくやるフェイントにも引っ掛かんないし!!」

「嬉しいなぁ、次回もこんな感じでやろう」

「やだよ!」

「そっか残念」

確かに今日は、忘れたいことがあったから、とにかくランク戦に集中した。元々の癖とかも知っているからだろうけど。悪いことばかりではなかったな、と思い二人にお礼を言って、そろそろ帰ることにした。玄関に向かって歩きながら、これからのプランを考える。とりあえず家に帰って、みょうじからすすめられて昨日持って帰ってきた漫画を一気に読んで、あとは寝れるだけ寝て、明日を迎えることにしよう。気分転換だ。私が勝手にうじうじしてるだけなので、風間さんのことは忘れて漫画に没頭しようではないか。そうと決まれば善は急げだ。しかし目的の玄関を抜けたところでタイミングがいいのか悪いのか、声をかけられる。

「よぉ、米屋と緑川のこと、ボコボコにしてたじゃねぇか。なんかあったのか?」

「げ、なんで知ってるの諏訪さん」

「げ、とは失礼なやつだな!たまたま見てたんだよ。珍しい荒れ方してんなと思ってよ」

「別に、荒れてませんけどね」

「お前あれだろ、今日風間がかわいい子と話してたから妬いてんだろ!」

「…そんなんだからモテないんですよ、諏訪さんは。せっかく気分切り替えたとこだったのに!」

思ったより腹が立って声を荒げると、流石にまずいと思ったのか近くのベンチに座らせられて、隣の自販機で買った炭酸ジュースを渡されて諏訪さんも隣に座る。よく考えたら周りに誰もいなくてよかったと思う。ふざけた後輩や太刀川に声を荒げることはあっても諏訪さんにこんな風に真面目なトーンで言うことなんてなかった。

「悪かった、そんなに気にしてると思わなかったからよ」

「いや、私もなんか八つ当たりしてすいません」

もらったジュースを飲みながら話すと情けなくなって落ち込んできた。ここまできたら楽になりたくて、ぽつぽつといつも相談してたみたいに、今日のことを話す。相槌を打ちながら聞いてくれていた諏訪さんが、私が話し終わるタイミングで口を開いた。

「ミョウジお前そういうのって、直接風間に言ってんのか?」

「まさか!言えるわけないじゃないですか…」

「俺が言うのもなんだけど、直接言わなきゃ気づかねぇぞあいつ。つーか風間がどうでもいいやつと付き合えるようなやつかよ。もっと自信持てばいいじゃねぇ」

「…諏訪さん、さっきのことは許しましょう。ありがとうございます!」

ちょうど立ち上がって、飲み終わった缶をごみ箱に捨てる。なんで上からだよ、と言いつつも最後は頑張れと言ってくれる諏訪さんは、やっぱりいい相談相手だ。あんなに落ち込んでいた気分は随分晴れて本部の入り口に向かう。

「ミョウジ」

しばらく歩くと、とても久しぶりに会いたかった人の声がした。

「風間さん、お疲れ様です。この時間に会うなんて奇遇ですね」

「今帰りか?」

「はい、今までランク戦してて」

「なら送っていく」

「え、でも風間さん忙しいんじゃ?」

「いいからいくぞ」

いつもの私なら手放しで喜ぶのに今日の大学での件もあるし、いくら先程諏訪さんと話して吹っ切れた気がしたとはいえ、なんだか気まずくて会話もほとんどない。むしろいつも私がほぼ一方的に話しているのだが。

「何故連絡してこない?」

「え?」

「付き合ってからの方が、連絡してこなくなったし、本部で見かけても寄ってこなくなった」

そういえばそうだ。大人な風間さんが拗ねるなんてことはないだろうが、多少気にしてはくれたのだろうか。しかもちゃんと付き合ってるって言ってくれた。

「すみません、なんかちょっと緊張しちゃって。忙しそうでもちょっとなら連絡してもいいですか?」

「余計なことは気にせず、連絡くらいしてこい。それから何かあれば、諏訪じゃなく直接俺に言えばいい」

「…っ!!ありがとうございます!次からそうします!」

まさかまさか、あの風間さんからこんな言葉が聞けるとは。きっと本人はただ疑問に思っただけなのかもしれない。それでも私には予想しなかった言葉で、ちょっと嬉しかったのだ。きっと諏訪さんのおかげな気がする。煙草でも買わなくては。

「…今度どこか出掛けるか」

「いいんですか!?たのしみです!!」

いろんなことが頭をぐるぐるしている私に、こちらもまさかのデートのお誘い。流石にさみしいです、とは言えなかったけど、思ってもみなかった展開にもう満足で、さっきまでのもやもやはだいぶなくなったのだった。


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