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▼ 太刀川にとどめをさされる

「オサノいる!?」

「はいはーい?」

「小南からもらった飴、私にもちょうだい!!」

「ちょっ、そんなに血相変えて、どしたのナマエさん?」

ちょうど諏訪隊の隊室にはオサノしか居らず、我ながらナイスタイミングだと自分を褒めたい。事の発端はうちの隊室で、みょうじから小南が胸の大きくなる飴を買ったけど、結局効果はなくて全部オサノにあげた、という話を聞いたことだった。なんてタイムリーなんだ。その日はたまたま加古ちゃんから講義のノートを借りるため、1人で本部のラウンジで待っていると、後ろの席が騒がしくなった。声からして出水とか米屋とかその辺だろう。高校生は元気だなぁなんて呑気にスマホを操作していると、どうやら胸の話になったらしい。

「やっぱり柚宇さんだろ。かわいいし巨乳だし」

「いや、紗彩さんだろ。めっちゃかわいいじゃん巨乳だし」

まぁこの二人に関しては顔がずば抜けてかわいいし、胸に関しても私も同意〜、とか思っていた。でも紗彩さん怒るとめっちゃ怖くね?と言っているのはきっと当真だろう。一回さぁちゃんのこと怒らせて、うちの隊室出禁だし。

「でも胸だけならなまえさんもよくね?」

突如聞こえた隊長の名前に、やっぱりみんな思ってたのねと頷く。その後に聞こえた胸だけだけどな!!という一言と爆笑は、何かあったら本人にしっかりと報告する必要がありそうだ。ていうかここラウンジだぞ。そろそろ誰か話題変えてくれないかな、という私の願いは届かず、男子高校生たちの巨乳談義はまだ終わらない。あろうことか他の女子隊員の胸の大きさにまで話が広がっていく。ようやく同じ高校生の女の子たちは大体まだまだ発展途上、と話がまとまりそうになった時、太刀川さん!と出水が近くにいたであろう太刀川を呼んだ。なんかもう嫌な予感しかしない。今までの話の経緯を説明して、大学生ってどうなんです?と米屋が聞いた。加古ちゃんとか蓮ちゃんとか、美人でスタイルのいい女の子たちを太刀川が上げていく。頼むからこのまま私のことは忘れて話を終えてくれ。そんな願いは呆気なく消え失せた。

「まぁ一番貧相なのはミョウジだよな!」

はっはっはっ、と笑う太刀川と後輩たちに殺意が芽生える。お前貧相って言葉知ってたのかというツッコミよりも怒りで身体が震えた。許さない、許してなるものか。太刀川はこの間もレポートを手伝わされたことを本部長に、出水米屋当真はさっきの胸だけ発言をみょうじに報告してやる、と心に決めていると、加古ちゃんがノートを渡しに来てくれた。

「そんなに怖い顔してどうしたのナマエ?」

心配してくれる加古ちゃんにひきつった笑顔でなんでもないの、ノートありがとうと告げて、そのままオサノの元に来たのだった。




「ということで飴ちょうだい」

「なるほどねぇ。ナマエさんだってスタイルいいと思うけどね?あ、でもちょっと痩せすぎかも。ちゃんと食べた方がいいよ。食べた方が胸も大きくなるかもしれないし」

流石にひどい顔をしているし、実際に最近レポートの締め切りが近かったり、夜勤が多かったりでちゃんと食べてなくて、体重が落ちたのも事実。もちろん身体には気をつけているので、体調が悪い訳ではないけれど。疲れているのもあって、いつもならさらっと流せることがこんなに気になるのかもしれない。ただ結果的に年下の女の子に気を遣わせた上に優しい言葉をかけてもらっているのが辛い。

「ありがとうオサノ、ちゃんと食べるね。ただちゃんと食べれば胸が大きくなるかもって話、高校生の時に試したんだけどね、体重は増えるのに胸はちっとも大きくならなかったんだよね…」

そう言って遠い目をした私を見て、とにかく!あんまり気にしない方がいいよ、と袋にたくさん飴を詰めてくれた。オサノにお礼を言って、帰りながら早速1本食べてみるけど味は至って普通だった。本当に効果があるかわからないけど、藁にもすがるとは正にこのことである。そのまま諏訪隊の隊室を出て自分の隊室に向かう。治まらない怒りを必死に我慢するけど、言われたことは図星なので反論も出来ない。だんだん怒りよりも悲しさが勝ってきて、肩を落としながら本部の廊下を歩いていると、曲がり角で誰かにぶつかりそうになった。

「っ!すみません!ちゃんと前見てなくて…!」

「いやいやぶつかってないし…」

頭を下げて前を向くと、相手が迅だったことに気づいた。

「なんだ迅か…ぶつかってごめん」

もう一度謝ってその場から立ち去ろうとすると呼び止められる。

「ミョウジさん元気ないね?」

「いや、さっきラウンジで聞いた話に反論出来なくてショック受けてただけ。迅には視えてただろうけど」

あぁ、なるほどと頷く素振りからして副作用で視えてたのは確実だろう。

「太刀川さんは言うまでもなくデリカシーないし、そんなに気にすることないと思うけどね。ていうかミョウジさん、もっと食べた方がいいと思うよ」

また後輩に気を遣わせてしまった。情けないなぁと思いつつ、ありがとう、大丈夫だから気にしないでと伝えて立ち去ろうとすると、迅の影から風間さんが現れた。やばい全然気づいてなかった。いつもなら風間さんに会えたら嬉しくて、すぐに気づくのに。

「風間さん、お疲れ様です。じゃあ私はこれで」

とりあえず挨拶だけして、そそくさと隊室に戻ろうとすると、突然腕を掴まれた。

「えっと、風間さん?何か?」

「迅の言う通りだ。しっかり食べてしっかり寝ろ。体調管理は基本だぞ」

「う、すみません…」

まさかこんなところでお叱りを受けるとは。とりあえずゆっくり休みます、と言うけど風間さんはまだ腕を離してはくれない。

「…まだ何か?」

「今は確かに痩せすぎだが、俺は別にミョウジはそのままでいいと思うがな」

何を言われたかよくわからなくて、ぽかんとする私の腕を離し、迅行くぞ、ミョウジはしっかり休め、と私に再度念押しして風間さんは迅を連れて行ってしまった。ハッとして迅を見ると、にやりと笑いながら口パクでよかったね、と言われたような気がした。徐々に熱くなってくる顔を隠すように、その場にへたりこみ膝に顔を埋める。一体どういう意味だったんだ。いや、きっと深い意味はない。なんとなく慰めてくれただけだろう。でも風間さんって気の利く慰め方なんてする人だっけ?頭の中でさっきの一言がぐるぐる回ってどうしようもなくなる。とりあえずこんなところでしゃがみこんでいるのを誰かに見られたら心配されてしまう。ふぅ、とため息をついて立ち上がろうとすると、ミョウジくん!どうしたんだ?と声を掛けられた。

「忍田本部長、お疲れ様です。えっと、何がです?」

「いや、顔が赤いしこんなところでうずくまっているから、具合が悪いのかと思ったんだが…」

「すみません!なんでもないです!ただこの間も太刀川にみっちりレポートを手伝わされて疲れてただけで…」

本部長に要らぬ心配を掛けてしまったが、こんなところで会えたのはとてもラッキーだった。神様は私の味方だ。ちょっと元気になった私は太刀川のことをさらりと報告する。手で顔を覆って大きなため息をついた本部長は、よく言い聞かせておくよ、すまなかったね、と優しい顔で私にそう言った後、怖い顔で歩いて行った。太刀川ざまあみろ。こってり絞られればいい。そう思いながら、いつの間にか着いていた隊室のドアを開けるといつも通り、思い思いに寛いでいる隊員たちが目に入った。スマホでオンラインゲームをしているみょうじに声を掛ける。

「ねぇみょうじ、出水と米屋と当真がラウンジで、すごいおっきい声で自分の好みと胸の話してたんだけどさ。みょうじは胸だけだって。胸だけ。」

「おい何で2回言った」

「私は聞いたありのままを話しただけです」

ふーんそうか、と抑揚のない声で話すなまえはまあまあ怖い。そのままちょっと出かけてくる、と隊室を出るみょうじに着いていく。とりあえず出水米屋当真もこれに懲りて反省すればいいと思う。そして実際にみょうじがどの様に手を下したかは、また別のお話である。


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