WT | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 嵐山准の追っかけ

※単行本未登場の人が出てきます。



基本的に本部でも学校でも自分から動きたくない性質のわたしは教室で柚宇ちゃんと今ちゃんとうだうだしていることが多いのだが、今日は珍しく、1年生の教室へと訪れていた。目的地は1-B。とりまると奥寺ととっきーがいる教室である。それにしても、どうして他の学年の階というのはこんなにも居心地が悪いのだろうか。2年前までわたしが使っていたはずなのに、その面影を感じることはできない。出水とか米屋とか佐鳥とか、なんで平然とした顔でうちの教室まで来れるのだろう。あいつらのメンタルは鋼なのでは。B組の教室の前について、中に目的の人物がいるのを確認して、さてどうするか、と頭を悩ませる。ずかすかと教室に入っていく度胸も、大声で呼ぶ度胸もない。LINEでもすれば気づいてくれるだろうか。

「なにしてるんですか?」

「うわ!」

うんうん悩んでいたせいで注意力が散漫になっており、近づいてくる気配に気付けなかった。唐突に近くに現れたとりまるに悲鳴を上げると、意に介した様子もなく、なまえ先輩が1年の教室に来るの珍しいですね、と表情筋がぴくりとも動かないまま言ってのける。

「俺に何か用事ですか?」

「え?いや、ちがうちがう。とっきー呼んで」

「………はぁ」

「なんで嫌な顔すんの。とっきーと喧嘩でもした?」

「してませんけど」

僅かに眉間にしわを寄せたとりまるが軽くため息を吐いてとっきーを呼んだ。奥寺とこちらを見て何か話していたとっきーが奥寺を連れてわたしたちのところにやって来る。

「こんにちは、なまえさん。どうしたんですか?」

とりまると違って嫌な顔なんてひとつもしない安心と信頼のとっきーがわたしに問いかける。どきどきと緊張からか、逸る心を押さえつけて、嵐山隊は今日非番だって聞いたんだけど、と切り出すと、とっきーは思い当たったように、ああ、と頷いた。さすが話が早い。だから佐鳥ではなく、とっきーのところに来たのだ。

「……嵐山さん、今日何してるか知ってる?」

「迅さんたちとご飯行くって言ってましたよ」

「またか!!!」

ガッテム!と崩れ落ちるわたしに後輩たちの視線が突き刺さる。特にとりまるの視線が痛い。今日、7月29日はボーダーが生んだスーパースター、嵐山准の誕生日なのだ。優しい嵐山さんは隊員の誕生日は非番になるようにいつも調整しているというのは結構有名な話である。というか、ちょっと前の佐鳥の誕生日に佐鳥が吹聴していた。だから嵐山さんの誕生日である今日も、嵐山隊は非番であると知っていたのだ。嵐山さんが大好きな妹と弟と過ごすと言うのであれば諦めるしかないとは思っていたけれど、あわよくばちょっとくらい御尊顔を拝見してお祝いの言葉を伝えられればと思っていたのに。こっそりプレゼントも用意したのに。いつも立ちはだかる迅悠一の壁。わたしの1歳上にあたる19歳組はとにかく仲が良く、何かと不健康な迅さんを嵐山さんが連れ回したり、みんなで旅行に行ったりしているらしい。玉狛に遊びに行った時に迅さんが玉狛用に買ってきたお土産を分けてもらい初めて知った事実に、うらやましい!!と叫んだのはいつのことだっただろうか。でも冷静に考えて、迅さんと嵐山さんとイコさんと弓場ちゃんという面子の中に入った柿崎さんの心労は日頃の防衛任務の比ではなかっただろう。わたしはできれば楽しそうにはしゃぐ嵐山さんを遠くから見ていたい。めんどくさそうだから仲間には入りたくない。

「多分連絡すれば少しくらい時間は作ってくれると思いますよ。なまえさん嵐山さんの連絡先知ってますよね?」

「知ってるけど完全にアイコンと名前眺める用だから連絡したことない」

「眺める暇あったら連絡したらいいじゃないですか」

「緊張してできないんだよ!!とりまるは乙女心わかってないな!!」

いくら親しくしていただいていてもわたしの気持ちとしては嵐山さんは会いに行けるアイドルだ。ファンとして距離感はしっかり保たねばならない。一線を越えてしまったらすぐにやらかしとかオリキとか言われてしまうのだから。もちろん、嵐山さんはアイドルじゃないってことは知ってるけども。しょうがないかぁ、と肩を落とす。こうなったなら個人的に嵐山准聖誕祭をやるしかない。わたしの秘蔵の嵐山さんのコレクションで祭壇を作っていいケーキを買ってこよう。ぶつぶつと独り言が漏れ出たわたしに対して、奥寺が全力で引いた顔をしている。おいそれでも東隊か。東さんなら、どうせなら本人も交えて別日に祝った方が良いんじゃないか、とあの人徳溢れる笑顔で諭してくれるところだぞ。まあもう無理なものは仕方ない。しばらく迅さんとイコさんに対する当たりはきつくなるだろうが、それは甘んじて受けてもらおう。時間とらせてごめん、と3人に謝って踵を返したところで、お困りですかぁ〜?とわたしの死角から声をかけられて、今度は悲鳴とともに裏拳が飛んでいく。がつん、と音がした後に聞こえる呻き声。わたしの裏拳が当たったであろう顔を押さえているのは、先ほどわたしの中でとっきーと天秤にかけて圧倒的な差でとっきーに敗北した佐鳥だった。

「なまえ先輩、痛いんですけど…」

「わたしの背後に立つな

」「なまえ先輩はいつからゴルゴ13になったの!!」

ぶーぶー文句をたれている佐鳥をガン無視する。女の子の後ろに立つのは危ないことだとよく覚えておいてほしい。不審者だと思われるから。佐鳥も全く聞いていないわたしに諦めたのか、キメ顔らしき顔を作って、きらーん、とわたしに向かってウインクをして見せた。

「こんなこともあろうかと、嵐山さんたちが行くお店はしっかりこの佐鳥がおさえてますよ」

「さ、佐鳥…有能かよ……」

 * * *

佐鳥の案内で放課後にやってきたのは、ちょっとお洒落な洋食屋さんだった。えっ。19歳組でここにいんの?似合うの嵐山さんと柿崎さんだけじゃない?大丈夫?放送事故にならない?と思ったのだが、佐鳥いわくお店を決めたのは弓場ちゃんらしい。弓場ちゃん……。佐鳥ととっきーだけでよかったのに、何故かとりまるも着いてきているし、他校であるのにわざわざ昨日お誕生日様だった小南まで集合している。暇なのかな。

「あんたあたしの誕生日には顔見せなかったくせに准の誕生日にはストーカーするってどういうことよ!」

「ストーカーってやめて!追っかけって言って!」

大体昨日は防衛任務が入っていたから、小南とは後日改めてお祝いしようね、と約束していたはずだ。やはり当日じゃなきゃだめなのだろうか。じゃあついでに今日ケーキ食べようね、となんとか宥めすかそうとするが、それとこれとは話が別らしい。嵐山さんのついでは嫌だから、とやっぱり後日改めてお祝いすることを要求された。お店にはまだ嵐山さんたちはいなくて、店員さんに頼みこんで弓場ちゃんがしっかり予約している席の隣に通してもらい、それぞれメニューを見る。

「小南、本当にケーキいいの?」

「いいって言ったでしょ!その代わり今度高いやつ奢らせてやるから覚悟してなさいよ」

「キルフェボンのタルト買って玉狛行くね」

「えっ本当!?」

きらきらと目を輝かせた小南につい出来心でうそ、と言いたくなったが、さすがに昨日お誕生日だったことを考慮して我慢することにした。キルフェボンのタルトってホールでいくらだったっけな。とりあえず飲み物だけ頼んで適当に喋っていると、お店の入口から明らかに騒がしい声が聞こえてくる。店員のお姉さんに大きな声でカワイイ!と言っているのは完全にイコさんだった。先頭で店内に入ってきた弓場ちゃんは、予約席の隣に陣取っているわたしたちを見て動きを止めた。

「……オイ、てめえらなんでここにいやがる」

厳つい顔で凄まれて、つい佐鳥を指差した。実質佐鳥の手引きみたいなところあるし間違いではないだろう。ええ!と悲鳴を上げる佐鳥は置いておいて、弓場ちゃんの後には、この展開が視えていたのか、苦笑する迅さんとわたしたちがいることに嬉しそうに顔を輝かせた本日の主役の嵐山さんが続いてやってきた。嵐山さん、今日は一段と輝いて見える。そして店員さんからイコさんを引きはがしてきたらしい柿崎さんも驚いたように目を見開いた後、迅さんと同じように苦笑した。

「どうしたんだ、みんな揃って」

にこにこした嵐山さんがわたしたちの顔をぐるーっと見回してそう聞いてくる。わたしと小南ととりまるととっきーとついでに佐鳥。確かに異色の面子だ。

「なまえがどうしても准の誕生日を祝いたいって言うからみんなで来たのよ。あたしの誕生日は後に回したくせに」

「小南ちゃん根にもつね…」

「そうか…ありがとう!みょうじは本当に仲間思いだな!」

純度100%の嵐山スマイルを正面からくらってすでにわたしは失明寸前だ。これだけで来てよかったと思うけど、わたしは嵐山さんに幸せを貰いに来たわけではなく、嵐山さんを祝いにきたのだ。目的を果たさなければ。鞄をごそごそと漁って、目的の物を取り出す。お誕生日おめでとうございます、と綺麗にラッピングされたプレゼントを差しだした。中身はおいしい焼き菓子だ。御家族と一緒に召しあがっていただければ幸いである。当然手作り等ではないし、後には残らないけれどそこそこ日持ちするものを選んだ。ファンとしての気づかいは完ぺきのつもりだ。嵐山さんも嬉しそうにありがとう、と言ってくれたので、もうわたしに悔いはない。用事が済んだから飲み物飲み終わったら帰るか、と高校生組で目配せをする。ファンは引き際も肝心なのだ。

「そうだ、せっかくだからみょうじたちも一緒に食べていかないか」

ぴくり、と弓場ちゃんが顔を顰めた。嫌われてはいないはずだから嫌ではないと思うけれど弓場ちゃんに凄まれるの普通にちょっと怖いしちょっと笑いそうになるからやめてほしい。

「迅の奢りやで」

「ちょっとちょっと生駒っち〜!」

「ゴチになりま〜す!」

「一番高いもの頼みましょ」

「迅さん、俺これ食いたいっす」

嵐山さんの申し出に、あまり邪魔するのも申し訳ないから、と遠慮しようとしたものの、そのイコさんの言葉でわたしと小南ととりまるが本格的に腰を据えた。弓場ちゃんの顔に似合わないほどおいしそうなお店だから本音ではちょっと気になっていたのだ。空気が読める男のとっきーもここぞとばかりに御馳走になります、とメニューを開いている。柿崎さんがちゃんと家に連絡入れとけよ、と良識のある大人みたいなことを言う。それぞれ返事をしながらわたしか小南の隣に座ろうとするイコさんを弓場ちゃんが奥に押しやっているのを眺める。その様子を半目で見る迅さんがわたしの隣に座ったので、嫌ならなんで回避しなかったんですか、と嵐山さんに聞こえないように小声で尋ねる。さっきのお店に入って来た時の反応といい、視えていたことは間違いないはずだ。

「おれが回避したら、みょうじちゃんのおれへの当たりがますますきつくなるからね」

「エーソンナコトナイデスヨォー」

「すがすがしいほどの棒読み」

それに、と続けた迅さんは、楽しそうにみんなと話す嵐山さんを見た。

「みんないた方が嵐山が喜ぶからね」

「迅さんわたしに負けず劣らず嵐山さんのこと大好きじゃないですか」

こそこそと話しているのが気になったのか、迅さんとは反対隣に座っているとりまるが勢いよくわたしと迅さんの間にメニューを差しいれた。鼻先掠ったんですがそれは。華麗に避けた迅さんはやたらとにやにやしているので立ち上がろうとすると、嵐山さんの隣に座っている柿崎さんがまぁまぁ、とデザートメニューを優しく差し出してくれたので柿崎さんに免じて今回は許してやろうと思う。

「わたしこの席嫌なので誰かかわってください」

「みょうじと迅と京介は仲がいいな!」

「嵐山さんそうじゃない、話聞いて」

にこにこ御機嫌の嵐山さんは話を聞いてくれないし、隣のとりまるの圧力がすごいし柿崎さんしか助け舟を出してくれないしでこれだからボーダーは、と舌打ちをしてしまった。舌うちで済んだのは嵐山さんととりまるの顔がいいからである。


[ back to top ]