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▼ 弟子入り事変3

ボーダーでできなくなった分、学校で!そう思って授業中にこっそりゲームをやっていたら、先生に見つかった。太刀川さんや米屋、柚宇ちゃんのように悲惨な成績を取っているわけではないので軽いお説教と罰掃除で済んだものの、ボーダーは問題児がそこそこいるためか、ちゃんとやってくれと切実そうにお願いされてしまったので、これからはもうちょっと真面目に授業を受けようと思う。そうだよね、太刀川さんとか迅さんとか、うちの学年だと柚宇ちゃんに当真にカゲ。先生って大変な仕事だよな。既にきらりちゃんを待たせてしまっているので、急いで本部に行かなければ。今日は柚宇ちゃんが昼間防衛任務だったから仕方なく当真に頼んだけど、大丈夫だろうか。荷物を置くために隊室によることもなく、急ぎ足でたどり着いた本部のラウンジには、珍しい面子が集合していた。防衛任務が終わったらしい出水と、米屋と緑川、荒船に伝言を頼んだ当真。ここまではいつも通りであるものの、そこにプラスしてあまり本部に来ることがない(と言ってもちょくちょく顔を見る気がするが)とりまるに、なぜかさぁちゃんがいた。そしてみんな何やら異様な雰囲気を放っている。何があったというのか。

「なまえちゃんやっほ〜」

「やっほ〜さぁちゃん。なにやってるの?」

「なんにも〜」

心なしかとりまる以外の野郎どもの顔色がよくない。いつも通りのさぁちゃんに首を傾げていると、わたしの弟子であるきらりちゃんが泣きはらした顔で近寄ってきた。えっ。なに!?なにがあったの!?状況がまったく飲み込めないんだけど!

「……あ、あの、なまえ先輩」

「うん!?どうしたのきらりちゃん!誰かに何かされたの!?」

「わ、わたし、その、いままで、すみませんでした、」

「え?なにが?え?」

「今日でボーダーを辞めるので、い、今までありがとうございました」

ちょっと待ってくれよ。急展開にまったくついていけない。ここ最近の悩みの種だったきらりちゃんが突然ボーダーを辞めると言い出すし、めっちゃ泣いてるし、それなのに周りは何も言わない。わたしはなにかちがう世界線にでも迷い込んでしまったのだろうか。まさか時間遡行軍に歴史を改変でもされたのでは。こんなに女の子が泣いてれば誰かしら慰めたり庇ったりするだろ普通。きらりちゃんはぽろぽろと零れおちる涙を荒船が使っているのを見たことがあるハンカチで拭って、わたしに深く頭を下げると、走り去ってしまった。なにひとつ理解ができないわたしは、その場の人たちの顔を見て、どういうこと?と尋ねるが、さぁちゃんはいつものにこにこ笑顔だし、とりまるはいつもの無表情だし、他のやつらは視線を逸らすし、誰も教えてはくれなかった。最近のわたしの努力は一体なんだったのだろうか。好きなアニメもゲームも我慢していたのに。先日だってさぁちゃんの誘いを断って……。

「ねえ、さぁちゃん」

「うん?」

「さぁちゃん、なにかした?」

かわいい笑顔で黙殺された。いや怖い怖い怖い。野郎どもの顔色が悪いのはこれか。なにしたの!と言ってきらりちゃんを追いかけようとすると、荒船に腕を掴まれる。

「ちょっと離してよ!」

「……あー、いや、」

この間は、悪かったな。帽子を深くかぶり直し、表情の見えない荒船がそう呟いた。この間っていつの話だよ…。おまえらわたしに謝るべきなことたくさんありすぎるだろ。ていうかきらりちゃん推定荒船のハンカチ持っていっちゃったけどいいのだろうか。まあおまえも大変だったよな、とわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でた当真も意味分からないし、本当に何があったんだ。なんだかんだと引きとめられ、これからきらりちゃんを追っても無駄だと判断して、とりあえず学校から急いできたのも今のやり取りもすごく疲れたので椅子に座る。人生とは苦労の連続である。

「なまえ先輩」

「なんで本部にいるの、とりまる」

「小南先輩と陽太郎が遊びに来ない!って怒ってるので」

「またぁ!?」

月に数回は遊びに行ってるはずなのにちょっと間が空くとすぐに催促されるから玉狛は大変だ。だから三輪に玉狛の仲間か!とか言って絡まれるんだよ。小南も陽太郎もわたしが玉狛所属だと思っているんじゃないだろうか。いや、玉狛大好きなんだけど。とりまるにおまえそれだけのために来たの?ひまなの?と聞くと白けた視線が返ってくる。なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ。とりまるの男前パワーにも負けずに見つめ返すと、先にとりまるが視線を逸らす。勝った。いつも騒がしい3バカも今日ばかりは大人しくしていて、なまえちゃん、約束のアニメ〜とさぁちゃんに腕を引かれるまま立ちあがっても止める人はいなかった。久しぶりに隊室でのんびりアニメを見ると、やはりここが天国なのかもしれないという気持ちになってくる。久しぶりだから反動で思う存分だらだらしてしまった。

「とりまるくんねぇ」

「うん?」

「学校で見かけたなまえちゃんが元気なかったからわざわざ話しにきたんだって」

ちょっと待ってさぁちゃん。どうして今言うの。もう大分だらだらしちゃったよ?さすがにもうとりまる帰ってるよ?時計を確認してため息を吐いた。だからあんな微妙な顔をしていたのか。心配して様子見に来てひまなの?とか聞かれたらそりゃああいう顔するわ。じとーっとした目で見るが、にこにこ笑顔で誤魔化そうとしているさぁちゃんには何を言っても無駄だと判断してスマホを取り出し、電話をかける。少しのコール音のあと、なんですか、ととりまるの声が聞こえてきた。後ろからは小南と陽太郎のぎゃーぎゃー言う声が聞こえているのでやはり玉狛に帰ってしまっているらしい。

「……今日、ごめんね」

「なにがですか」

「心配してきてくれたんでしょ」

紗彩さんか、とちょっと恥ずかしそうなとりまるの声。まあその通りさぁちゃんなわけだけど。

「べつに、なまえ先輩が元気ならいいです」

「うん、とりまるのおかげで元気出た」

ゴトン、とすごい音が鳴ったかと思うと、珍しく慌てた様子のとりまるがすみません、と謝って来た。ついできをつけろとりまる、おとしたらけいたいがこわれるぞ、という陽太郎の声が聞こえて状況を理解する。画面割れてないだろうか。電話の向こうが騒がしくなってきたので、最後にありがとね、と伝えて電話を切ろうとすると、

「なまえ先輩も、お疲れ様でした」

それだけ言い残してとりまるの方から切断された。お疲れ様でした、かぁ。たしかに、きらりちゃんを弟子にしてからすごい疲れていた気がする。やはり弟子をとるなんてわたしには向いてないんだろうなあ。

* * *

後日、記憶の封印措置がとられたらしいきらりちゃんと三門市内ですれ違ったが、当然わたしのことは覚えていないため、こちらを見ることはなかった。そしてラウンジでの一件は水面下で話が広がっていたらしく、なんと那須ちゃんがその話をしにうちの隊室にやってきた。きらりちゃんと同じ学校の那須ちゃんは、那須ちゃんのときは断ったのにわたしがきらりちゃんを弟子にしたことに不満そうにしていたが、その後のきらりちゃんの様子について話してくれた。

「元気そうですよ、月島さん」

「そっかそっか。それはよかった」

「わたしはよくないですけどね」

「え?那須ちゃん怒ってるの?」

「当たり前です。せっかくなまえさんの弟子にしてもらえたのに……ゆるせない」

あの時わたしは全然わかっていなかったのだが、やっぱりあのラウンジで、さぁちゃんがきらりちゃんに激おこで、日ごろの訓練の様子をみんなの前で晒したらしい。いやいや訓練室のログなんてどこにあるんだよ。うちのオペレーター優秀すぎて怖いな。だから荒船も当真もあの態度だったわけね、と納得する。那須ちゃんいわく、きらりちゃんのことは小南にまで伝わって小南が学校でカチコミに行こうとしていたらしい。ただ肝心のきらりちゃん本人に記憶がないので見送られたらしいけど。お嬢様学校の女子高生がカチコミって。みんなやさしいねえ。ココアを飲みながらのんびりと呟くと、なまえさんがわたしたちにやさしくしてくれるからですよ、と那須ちゃんがとってもきれいにほほ笑んだ。やっぱり女の子はいいなあ。ココアの甘さが胸に染み渡った。




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