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▼ 二宮の呼び出し

話がある、と相も変わらず人の話を聞かない二宮さんに二宮隊の隊室に呼び出された。辻には怯えられるし、とりまるのファンだともっぱらの噂であるひゃみちゃんがいるし、何よりわたしの天敵犬飼がいる二宮隊の隊室は出来れば近寄りたくないスポットなのだが、二宮さんは本当に人の話を聞いてくれないのでわたしの気持ちを汲んでくれることはなかった。しかし生身で武装せずに二宮隊の隊室に乗り込むなんて命知らずな真似はできない。敵地に向かう前にその辺を歩いていた出水を捕えて道ずれにすることにした。

「ちょっとなまえさん、おれ用事あるんだけど」

「わたしより大事な用事なんてないでしょ」

「なまえさんの優先度なんて夏休みの絵日記より下だけど」

「おいそれ散々後回しにして最終日に慌ててやるやつだろ」

今日もピンクのカーディガンを身につけている出水の腕を掴んでぐいぐいと引っ張る。言っとくけどそのカーディガン似合ってないからな。いつもわたしが拒否するのも無視して連れ回すんだから今回くらいついてきてくれてもいいだろう。

「二宮さん、みょうじでーす」

隊室の前で声をかけて、入れ、といういつもの無機質な二宮さんの声に従って未だに渋る出水を引きずって二宮隊の隊室に入ると、中には二宮さんと犬飼しかいなかった。せっかくいないなら犬飼がよかったんだけど。二宮さんはわたしが連れてきた出水を一瞥して、犬飼を見た。やはり違うだろう。何かを否定する二宮さん。わたしも出水も何の話かわからずに首を傾げているが、犬飼だけは全てわかっているようでニヤニヤとしまりのない顔をしていた。とってもぶん殴りたい。犬飼にガンつけているわたしの顔をしばらく見つめた後で、二宮さんが重い口を開いた。

「……烏丸と付き合っているというのは本当か」

えっ。思わず声が出てしまった。先日の一件からボーダーにかなり広まってしまい、太刀川さんや諏訪さんといった面倒な人たちに絡まれたり、小南になんで言わなかったの!!とめちゃくちゃ怒られたりしたのだが、まさか二宮さんにまでそんなことを言われるとは。ちなみに迅さんは当然のように視えていたらしく、訳知り顔でわたしの肩をぽんぽんと叩いてきた。その時とりまるの肩をレイジさんが同じように叩いてるのを見たけれど、玉狛では肩ぽんが流行っているのかもしれない。まあ、そんなことは置いておいて。噂を聞いたところでくだらない、と吐き捨てそうな友達いない代表の二宮さんが。人の恋愛事情聞こうとする二宮さんはちょっとおもしろすぎるから誰か加古さんを呼んでくれ。犬飼は相変わらずめちゃめちゃ笑ってるし、出水はわたしと同じように、ちょっと目を見開いて二宮さんを見ている。

「ほ、本当ですけど…」

「遊ばれてるんじゃないのか」

「どういう意味ですか二宮さん」

なんなんだどいつもこいつも。そんなにわたしととりまるが付き合ってたらおかしいですかぁー!おかしいですよねー!わかってるけれど!わたしだって未だにとりまるがわたしを好きだということが信じられず、嫌だなぁ、怖いなぁ、と淳二を脳内に召喚することも少なくない。とはいえ、まさか二宮さんにまでそんな酷いこと言われると思っていなかった。これでも二宮さんとはうまくやっていたと思っていたのだがとんだ思い違いだったらしい。

「ごめんねなまえちゃーん。とりまるくんがなまえちゃんにゾッコンって言っても二宮さん信じてくれなくてさぁ」

「おまえわざとそういう言い方してんだろ!」

付き合ってるらしいですよ、と言うのと、ゾッコンらしいですよ、ではなんていうか信憑性が変わって来ると思う。とりまると私の顔面偏差値の差を考えてほしい。間違ってはないと思うんだけどなぁ、とのたまう犬飼の足を踏もうとするが、避けられてしまった。くそ。醜い争いを繰り広げるわたしと犬飼を見かねたのか、出水が頭をかきながら一歩踏み出した。

「二宮さん、おれもまだ信じられないんですけど本当の話です」

だからみんなして一言余計なんだよな。なぜわたしはとりまると付き合っただけでここまで貶められなければならないの。ここぞとばかりに。日頃わたしはそんなに周囲からヘイトを集めているのだろうか。段々と表情筋が死んでくるのを感じる。しかしわたしの気持ちなどまるで届いていなそうな二宮さんは、思案するようにわたしと出水を交互に見た。

「みょうじは出水と付き合ってたんじゃなかったのか」

いつもはそこそこ重い口からとんでもない核弾頭が飛んできた。先程犬飼に確認してたのはそれか。わたしが出水と付き合っているという世紀の勘違いをしている二宮さんが犬飼からわたしととりまるが付き合っていることを聞き、事実を確かめようとしていたところ、わたしが出水を引き連れてきたから二宮さんの頭でエラーが発生してしまったのだろう。でもわたしと出水が付き合っていると勘違いしている時点でその頭ポンコツだから修理した方が良いよ。

「おれそんな趣味悪くないっす」

「出水はわたしに何か恨みでもあるの?」

「おれはなまえちゃんでも妥協できるよ?」

「呼んでないから引っこんでろハゲ」

妥協ってなんだよ偉そうに。心底腹の立つ男だなコイツ。いつも腹立つ出水でも犬飼の前では可愛く見えてくる。わたしはどんなに妥協しても犬飼とだけは付き合わないけどな。本当になんなんだこいつら。揃いも揃ってわたしを馬鹿にしたいのかそうか。もうわたし帰る。だけどその前に二宮さんの誤解だけは解いておかなければ。

「わたし、顔がいい男が好きなので、出水は圧倒的選外です」

「おいさっきの仕返しかよ」

「出水くんは現実を知るべきだよ。ほら、いつだったか私服を見られてストーカーにも見放されてたじゃん?」

「なんで私服のせいなんだよ!!」

まだ自分のセンスが悪い意味で人並み外れていることに気づいていないらしい。憤慨している出水がトリオン体に換装し表に出ろ、と二宮隊の隊室の出入り口を指差した。そうやってすぐ怒るのもモテない原因だからやめたほうがいいよ。当然のようにシカトした。ぎゃーぎゃーやかましい。

「みょうじ、出かける準備をしてこい。飯に行くぞ」

頭の中の整理が終わったのか、颯爽とジャケットを羽織った二宮さんがわたしと出水に割って入った。出水と犬飼にも声をかけているがそのふたりは腹立つから呼ばなくていいよ二宮さん。秀次も呼ぶか、とか言っているあたり実はわざとなんじゃないのかと疑っているのだが、二宮さんのことだから天然だろう。クールな顔して天然とかどこに需要あるんだよ。二次元ならいいけど実際接するとイラッとしてしまう。この気持ちは加古さんに話すと大笑いしながらも理解を示してくれるので、近々加古隊に遊びに行きたいと思う。

「ていうかご飯はいいんですけど、やたらと唐突ですね、二宮さん」

「……相手が誰であれ、めでたいことには変わりないからな」

とりまると付き合ってから、ボーダーでまともにお祝いしてくれる人はほとんどいなかったから、一瞬ぽかんとしてしまった。未だに半信半疑なやつらやとりまるが騙されてると思っているらしいやつらとは違って大人な二宮さんが連れて行ってくれたのは、もう予想はしていたがいつもの焼肉だった。鍋がいいというわたしの声は一生二宮さんに届くことはないのだろう。


※ネタ募集より「SideA主で、二宮さんに烏丸との交際を報告したらどんな反応をするか」


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