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▼ とりまるの惚気

本部をふら〜っとひとりで歩いていると、ぼんち揚げを手にした不審者に遭遇した。以前ポケットに突っこんだまま放置していた二宮さんに押し付けられた防犯ブザーを、親しげにこちらに向けて手を上げている人の目の前で鳴らそうとすると、視えていたのか、すごい勢いで奪われてしまった。二宮さん、防犯ブザーって未来が視える不審者には意味ないよ。

「こんなところで何やってるんですか迅さん」

「まずなんで真っ先に防犯ブザー鳴らそうとしたのか教えてくれない?」

「不審者に遭ったら鳴らせと二宮さんに言いつけられてるんで」

「おれは不審者じゃないけどね?」

そんな軽口を叩いた後に今日は何をしにわざわざ本部までやってきたんか訊ねるが、はぐらかされてしまった。まあ言うほど迅さんの行動には興味ないのでへぇ、と適当に流して隊室に戻ろうとすると、すかさず腕を掴まれる。今こそ防犯ブザーの出番だが肝心の防犯ブザーは迅さんに奪われたままだった。

「……なんですか」

「これからちょーっとおもしろいことがあるんだけど、一緒に来ない?」

「嫌な予感しかしないので嫌なんですけど」

「みょうじちゃんにとってもいいことだよ」

二宮さん、なんで防犯ブザーを2個持たせてくれなかったの。にこにこと笑った迅さんに押し切られて連れて行かれた先はラウンジの入口で、入り口付近の席にとりまると出水と米屋の姿があった。あれ、とりまる今日本部に来るって言ってたっけ。いいことっていうのはきっとこのことだろうとやつらに声をかけるために一歩踏み出そうとすると、再び迅さんに止められ、気づかれないように姿を隠すよう促される。ねえこの人何がしたいの。ふざけて不審者だと言っていたつもりだったけれど、あながち間違いでもないのかもしれない。この人と関わることが多い玉狛第二のかわいい後輩たちが心配になってしまう。しー、と顔の前で指を立てる迅さんをどついて少し距離をとったが、一応言われた通りやつらの様子をこっそり伺うと、何やら様子がおかしい。通常運転の無表情なとりまるに、必死に何かを訴えている出水と米屋。

「だから、考え直せって!」

「学校イチかわいい吹奏楽部の子に告られたんだろ!?」

「……はぁ」

「なまえさんなんかよりよっぽどレベル高いじゃん!」

オイコラ。今の会話だけで何をしているのかわかってしまった。出水と米屋のやつ、わたしととりまるが付き合い始めたって知った時も大概失礼な反応してたけど、わたしがいないところでも、わざわざ!当人がいないところでそういうこというのは陰口って言うんだからな。トリガー片手に乗り込もうとするが、それも視えていたらしい迅さんにトリガーを奪われる。わたしの所有物が次々に奪われて行くので、迅さんを倒す方が先かもしれない。とりまるが告られたことに関しては、特に言うことはない。もともとモテる男だってわかっていたし。学校イチかわいい女の子に乗り換えられる心配も、あまりしていなかった。余裕があるわけではないけれど、とりまるが誠実なのはよく知っているから。

「大体、なんでなまえさんなんだよ…。あの人滅茶苦茶やってるだけだし、紗彩さんとか那須とかと比べたら顔も普通じゃん」

「京介ならもっと上を目指せるだろ」

「まあ、顔に関しては否定しないですけど」

みょうじちゃん落ち着いて。そう言ってわたしを宥める迅さんがいなかったら、トリガーを取り上げられていなかったら、ラウンジまるごと吹き飛ばすところだった。そんなことないですよ、くらい言え。たとえお世辞だろうとそういう気づかい大事!大体ボーダーの女の子が顔面偏差値高いだけでわたしは並くらいなんだからな。出水と米屋のわたしの悪口大会はヒートアップしていくばかりで、あの時あんなことしてた、こんなこと言ってた、とまるでわたしが変人かのように話し続ける。この少しの時間だけでわたしの心のデスノートには5ページくらいに渡って出水と米屋の名前が書き殴られている。

「むしろ京介、おまえなまえさんのどこが好きなんだよ」

「なんで出水先輩たちにそんなこと言わなきゃいけないんですか」

「いいから言えよ!先輩命令!」

随分と横暴でプライバシーを侵害してくる先輩命令だな。おまえらがモテないのはそれが理由だから早く気付いた方がいいよ。

「正直、変な人だなと思うことはよくあります」

「変な要素しかないもんな」

とりまるも含めてあいつらとはじっくりお話をしなければならないらしい。なんだ、変って。わたしはちょっと自分の欲望に忠実なところはあるけれど、常識はわきまえているつもりだ。少なくともわたしのストーカー予備軍の出水や米屋のところの隊長よりもよっぽど。ここにいてもけなされるだけなのでは。もう心が折れそうなので隊室に戻ろうとするが、迅さんがここからだよ、とわたしをまた引き止める。迅さんにどんな未来が視えてるのかは知らないが、なんでわざわざ悪口大会を聞いていなければならないのか。小声で迅さんと揉めているうちに、とりまるたちの方も話が進んでいたらしく、好きだって気付いたのがいつだったのかはっきりとは覚えてないんですけど、とまさかのとりまるが馴れ初め?を語り始めていた。待っていつ好きになったとか、わたしも聞いてない。

「はじめて会った時、なんとなく気になって、どんな人なのか知りたいって思いました。それからよく話すようになって、めちゃくちゃやってるようでちゃんと周りを見てたり、好きなことに没頭してるところが可愛くて、中3の頃には好きだったと思います」

まあその頃は完全になまえ先輩の中で対象外でしたけど、ととりまるは続けるが、わたしはもうそれどころではない。誰かに言われなくても顔が赤くなってるのがわかる。さすがにそんな前からだとは思ってなかったし、確かにとりまるが言うとおり、前から顔面のいいとりまるを贔屓していたけれど、恋愛対象として意識したのは少なくともとりまるが高校生に上がってからだ。それどころかわたしとしては高望みするべきではないと思っていたので、とりまるに対してドキドキすることがあっても、恋愛感情ではないと否定してきた。それからも好きなところ…好物をおいしそうに食べているところがかわいいとか、出不精なくせに呼ばれるとちゃんと手土産持って玉狛を訪ねるところが好きとか、止まることなくとりまるの口から出てくるわたしの好きなところ。もうやめてくれ。わたしのライフはもうゼロよ!!にやにやしてる迅さんに顔を見られたくなくてしゃがみこんで腕で自分の顔を隠した。しかしとりまるのバトルフフェイズはまだ終了していなかった。ずっと俺のターンはネタなので現実で再現するのはやめてください。

「あと結構不慣れですぐ照れるところもかわいいですよ」

「もうわかった…おまえがなまえさん好きなのはよくわかった……」

「あーもーやってらんねー。何が悲しくて京介の惚気聞かなきゃなんないんだよ」

「聞きたがったのそっちじゃないですか」

本当に勘弁してくれ。こっちこそ何が悲しくて彼氏がわたしがよく話す後輩たちにわたしの惚気をしてるところを家政婦は見たしなければならないのだろうか。僅かに顔を上げて迅さんを睨む。何がいいことだよ。迅さんの嘘つき。迅さんは苦笑して、場所移そうか、とわたしを立たせた。この辱めはこれで終わりのようだ。ボーダーを歩きながら、なぜこのような暴挙に至ったのか、迅さんが話し始める。

「京介を疑ってるわけじゃないだろうけど、みょうじちゃんって実はあんまり自信なさそうだからさ」

「何を言ってるんですかわたしほど自信に満ち溢れた人間はいないですよ」

「それならとっくに京介の気持ちに気づいてたと思うけどね」

迅さんとレイジさん、そしてとっきーがすぐに気づくくらいには結構あからさまだったらしい。他の女の子と扱いがちがうとか、わたしのことをよく目で追っているとか。みんなとりまるがわたしを好きだなんて想像すらしていなかったので気付かなかっただけだと言われても、そんなの当たり前じゃないか。わたしはどう頑張ってもクソヲタだし。同年代も後輩も、みんなうざい絡み方しかしてこない。むしろ遭遇率的にはとりまるよりも出水がわたしのことを好きだと言われた方が信じてしまうくらいだ。その後に腹抱えて笑うだろうけど。

「京介なら、これから10分後にはみょうじちゃんとこの隊室にくるよ」

おれの副作用がそう言ってる。お決まりのセリフを自信満々に言った迅さんに、お礼は言いませんからね!と真っすぐ指を差して、先程奪われたトリガーと防犯ブザーを奪い返してから隊室に向かって走り出す。本当は防犯ブザーを鳴らして迅さんに投げつけてやろうかと思ったけれど、今はそんなことしてる場合じゃない。だって、とりまるに会いたい。恥ずかしいし、何ペラペラしゃべってんの、とか、思うところはたくさんあるけれど、それ以上に、会いたくて会いたくて仕方なかった。機動が低すぎるわたしがいくら走ったところでそんなに早く辿りつくわけでもないけれど、少なくともとりまるが訪ねてくる前には息を整えて、素知らぬ顔で待っていないと。どんな顔で迎えたらいいだろうか。でもあいつ、人の顔がどうとか変人とか言ってたし、やっぱり一発くらいは殴りたい。話したいことも、たくさんある。まずは、とりまるの長い片想いの期間のことについて聞いてやろうか。想像だけで頬が弛んで、心なしか足が軽い(かと言って機動は上がらない)。そんなことを考えていたら、きっと余程にやにやしているように見えたのだろう。すれ違った風間さんに引きとめられて、廊下は走るな、後輩たちが怖がるからその顔をやめろ、と注意を受けるはめになってしまった。おかげで隊室についた頃にはとっくにとりまるも到着していて、うちの隊のメンバーとゲームをしていた。思わず真顔になったのは言うまでもない。



※ネタ募集より「烏丸が夢主を好きになったきっかけ・出水や米屋に考え直すよう説得されて惚気を返す」


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