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▼ 加古炒飯からは逃げられない

「なんだか疲れてるんじゃない?」

1限目が終わって欠伸をかみ殺していると、隣の加古ちゃんに声をかけられた。

「実は今日提出のレポート夜見返してたら、直したいところ見つけてさ。寝るのちょっと遅くなっちゃったんだよねぇ」

「…ナマエって抜けてるっていうか、詰めが甘いと思うわ」

「う…返す言葉もございません」

同い年の加古ちゃんは、美人で頭が良くて自慢の友達だ。炒飯の件さえなければ非の打ち所がないと思っている。でも想像してみてほしい。ただでさえ美人なのに、毎回キラキラした目で、今回は自信作なの!!なんて言われたら、一体誰が断れるというのか。但し二宮と太刀川みたいな人間は除く。普通の人なら無理だと思ってる。私には絶対断れないし、きっとこれから先もそうだ。そんなことを考えながら次の講義に移動していると、講堂で来馬と堤にあった。

「二人ともおはよう〜」

「加古ちゃん、ミョウジちゃんおはよう」

「来馬、はいこれ。この間のノートありがとう。」

「どういたしまして」

「堤も資料ありがとね。お陰でレポートも無事終わりました!」

「いいよいいよ。お疲れ様」

二人のノートは綺麗だし、資料も的確で分かりやすくて、とても助かっている。ほんと頭上がらないんだよな。

「あ、二宮おはよう」

「…朝からうるせぇな」

「二宮くんってばこの歳になって挨拶も出来ないのかしら」

そして二宮。挨拶しただけなのにうるせぇってひどいな。こういうところもあって、二宮とはちょっと合わない気がしている。というか会話が全然続かない。昔はどうにか頑張って会話しようとしていたけど、最近では諦めた。挨拶の件も朝機嫌が悪いのはいつものことだし、私が文句を言う前に、にやにやしながら加古ちゃんが突っ掛かってくれたので、ちょっとスッとした。この講義は珍しく同い年組全員が取っていて、防衛任務がなければこうやってみんな揃うこともごく稀にある。…いや、一人いなかったわ。

「ミョウジ、太刀川はどうした」

「…私に聞かないでよ。知るわけないけど、どうせ本部でごろごろしてんじゃないの?」

さっき人にうるせぇって言った癖に質問はするのかよ、という抗議は本人に言うとめんどくさいので頑張って飲み込んだが、太刀川の居場所なんて聞かないでくれ。どうせ家か本部でごろごろしてるか個人ランク戦してるかじゃないの。まったくあいつは…と苛々しだす二宮に苦笑いしていると、教授が入ってきて2限目が始まった。


講義が終わってみんなで食堂に移動して、雑談しながらごはんを食べる。今日の予定は私と堤は夜の防衛任務、来馬は夕方からの防衛任務で、二宮は夕方まで講義、加古ちゃんは休み、太刀川は知らない。私はこれで今日の講義は終わりだし、本部に行って個人ランク戦でもしようかなぁと思っていた。そんなことを話していると、思い付いたように加古ちゃんが言った。

「そうだ、夜の防衛任務前に元気が出るようにナマエと堤くんに炒飯作ってあげるわ!」

元気が出るようにというか、それは死刑宣告ではなかろうか。隊室に胃薬あったっけ…目に見えてうきうきしながら、本部に行く前に買い物しなくちゃ!という加古ちゃんから目を反らし、ちらりと堤を盗み見ると、堤が楽しみだね、と言いつつ遠くを見ている気がした。そのまま時間が来たのでみんなと別れて、一足先に本部に向かうことにした。




個人ランク戦ブースで暇そうな3馬鹿に声を掛けて、ちょっとだけ付き合ってもらった。今日は私の勝ち越しだ。じゃあそろそろ、と言いつつその場を離れようとすると、なんだよミョウジさん、もう終わりかよ、勝ち逃げかよ、と文句を言われた。

「これから加古ちゃんとこで堤と炒飯ご馳走になるの」

私の一言にうわぁ、と言ってくる3馬鹿の頭を1人ずつ叩いてやりたい。

「加古さんの炒飯ってやばいんじゃないっけ」

「出水、お前も食べるか」

いや無理しぬって!!と騒ぐ出水と食べてきたらいいじゃんという米屋と緑川にじゃあね、と告げてランク戦ブースを後にした。とりあえず堤に連絡しようとしていると、ちょうど廊下で鉢合わせた。

「ナイスタイミングだね堤」

「ミョウジちゃんもね。今日の炒飯は一体どんな味なんだろう。楽しみだね」

しんだ目をしているような堤だけど、楽しみと言える辺り流石である。結婚するなら堤みたいな旦那さんがいい。そんな話をしながら加古隊の隊室に着くと、ナマエ!堤くん!待ってたのよ!と満面の笑みで加古ちゃんがお出迎えしてくれた。もうすぐ出来るから座ってまってて、というお言葉に甘えて席に着いていると、何故か甘いにおいがしてきた。おかしいな、炒飯ってごはんだよね?しょっぱいものだよね?お待たせ!!という声と共に、私たちの目の前に赤い炒飯が現れた。

「今日はね、ラズベリーとストロベリーソースを入れてみたの。隠し味にコーヒーゼリーも入ってるわ!」

うふふ、召し上がれと女神のような微笑みを浮かべる加古ちゃんが悪魔に見えた。震える手でいただきまーす、と一口食べるととにかく衝撃的な味が口に広がった。堤は涙目で美味しいね、と加古ちゃんに言っている。あぁ私たち、生き残れるのだろうか。堤に肩を貸しながら、諏訪隊に送り届ける未来が、迅じゃないけど見えた気がした。



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