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▼ 騙されて合コンに行く話

ボーダーも大学もなくて丸1日何もない日は久しぶりだった。数日前に大学の友達に誘われて、美味しいイタリアンのお店に行くことになっていた。ネットで調べておしゃれで料理が美味しいお店とのことで、髪の毛もきちんとセットして、いつもより綺麗めのワンピースをきてお店に入るとナマエ!と友達に声をかけられたが、席を見ると完全に合コンである。回れ右をして帰ろうとすると、友達に肩を捕まれてもうノート見せてあげないよ、人数合わせでいいからお願い!と言われ渋々了承した。ボーダーの人間が誰も取っていない講義のノートを見せてもらえないとなると、かなり痛手である。いくら人数合わせの為とはいえ、こんなところボーダーの誰かに見られたらどうするんだ。完全に笑い者にされるし、諏訪さんにはまたそんな子に育てた覚えはないと、お母さんの様なことを言われかねない。周りは明らかにノリノリだし、こんなやる気のない人間に声をかける人なんていないだろうと踏んで、隅っこでちびちびお酒を飲みながら料理を摘まむ。確かに料理は絶品であったので、ちょっと苛々が落ち着いて、あることを思い出す。うちの隊長からおまえはちょろいから気をつけろ、と散々言われ続けていたが、勿論私には風間さんというすきな人がいる訳で合コンなんて来たことはなかった。声をかけられるかもなんて自意識過剰な気がするけれど、念のためだ念のため。LINEの画面を開いてささっと一文打ち込む。お手洗いに行ってそろそろ帰ろう、私が席を立った時点でだいぶ全員出来上がっていたので、友達に一言かければ大丈夫だろう、そう思いお手洗いから出ると、合コンにいた男の人3人に声をかけられた。

「ナマエちゃんだっけ?ボーダーなんでしょ?」

「はぁ」

「まじかー!やばくね!?」

何がやばいのかこちらにはさっぱりである。3人は勝手に盛り上がって色々と聞いてくるが、私は決して広報担当ではないし話せることなど、かなり限られている。めんどくさいことになる前にスマホを取り出し先程入力していたLINEを送信した。上手く誤魔化して曖昧に質問に返事をするが、会話をやめてくれる気配はない。それどころか加古ちゃんやさぁちゃんや蓮ちゃんの連絡先まで聞かれ始めた。むしろ狙いははじめからこれだったのだろう。そういうのは本人たちに聞いてください。と突っぱねるが、なら合コンしようよ!としつこく詰め寄られる。ていうかこれから加古ちゃんたち呼んで俺らと抜けない?とまで言い始め腕を取られそうになる。やめてください。というが酔っぱらいにはなんの効果もない。さすがに頭にきてこいつらの手を捻り上げてやろうかとも思うが、そんなことをして問題になれば確実にみょうじに怒られるし、B級降格なんてことになればさぁちゃんがめっちゃ怖い。苛々が募ってどうしてくれようかと思っていると、私のスマホが鳴った。ちょっとすみません、と電話に出るとおぅどうした?と声がした。また後でかけ直しますと伝えて、よくわかっていない相手を無視して電話を一度切る。割りと大人しく待っていた男たちに召集がかかりましたので、と一言告げてその場を後にした。合コンを大いに楽しんでいる友達にも召集がかかったから帰るね、と伝えればありがとねーと言われて私はようやくこのくそつまらない合コンから脱出することが出来たのだった。


レストランから出て、先程の電話をかけてもらった諏訪さんに折り返しをすることににした。

「もしもし」

「おっまえ脅かすんじゃねーよ!!」

先程打ったLINEには、暇なら今すぐ電話くださいと書いてあった。今日はみょうじは予定があっていないし、防衛任務もなくて暇そうな諏訪さんにお願いしたのだった。

「いやぁすいません。ちょっと友達に騙されまして」

「は!?なんだよそれ!」

「ごはん食べにいくつもりだったんですよ…待ち合わせ場所着いたら合コンでした」

私の一言に電話の向こうが騒がしくなり笑い声が聞こえる。

「めんどくさい人たちに絡まれたんですけど、諏訪さんの電話でやっと抜けてこれました」

ひとしきり笑い終わったであろう諏訪さんが、それなら今うちで風間とレイジと飲んでるから来るか?と誘ってくれた。笑われたのは癪だが確かに飲み足りないし合コンより風間さんのいる飲み会の方が断然魅力的である。今から行きます、と伝えて電話を切った。諏訪さんの家は何回もお邪魔しているし1人でも問題なく行ける。手ぶらで行くのも気が引けるし、飲んでるならビールを買ってから行こうと思い、諏訪さん家の近くのコンビニに寄ってカゴにビールとおつまみを入れていく。

「ミョウジか…?」

聞き覚えのある声に振り向くと風間さんが立っていた。そういやボーダーではしないような格好をしていたことに気づく。

「あれ買い出しですか?何買います?私一緒に買いますよ」

「いや、それもあるがそろそろミョウジが来るだろうからと、諏訪に迎えを頼まれた」

なるほど。でも諏訪さん過保護か。私は立派な成人女性だぞ。貸してみろ、と言って私の持っていたカゴを風間さんはさらりと持ってくれた。重いから助かったと思うと同時に、これは私に都合のいい夢だろうかと頬を引っ張ってみるが何も起きなかった。ありがとうございます、と言ってへらりと笑うと、何か買うのかと聞かれる。大体の物はもうカゴに入っていたので、二人でレジに向かってお会計をした。お財布を出そうとしていると、風間さんがまとめて支払いを済ませてくれた。コンビニから出て諏訪さんの家に二人並んで歩く。先程のお会計の分のお金を渡そうとすると、どうせ俺たちがほとんど飲むだろうと言われて受け取ってもらえなかった。やばいときめいた。ただ格好については何も言われなかった。最初の反応で、褒めてもらえるかななんて期待したけど、さすがに調子に乗ったようだ。少し残念だけど仕方ない。

「合コンはどうだったんだ」

「騙されたんで行くつもりなんて元々なかったんですよ。でも講義のノート見せてもらえないと困るし、仕方なくです。帰ろうとしたら男の人たちに絡まれて、加古ちゃんたちの連絡先聞かれるしで最悪でした。むしろ最初から狙いはみんなの連絡先だったんでしょうねぇ。勿論教えてませんからね!でもごはんは美味しかったです」

「そうか」

風間さんがそんなこと聞くなんて珍しい、ちょっと酔ってるのかなと思いながら二人並んで歩く。それ以上会話が続くことはなったけど、この人の隣の沈黙は嫌いじゃない。そんなことを考えていると諏訪さんの家はすぐだった。

「お邪魔しまーす!」

「おぅミョウジ!風間も一緒だな。しかしお前珍しい格好してんなぁ。馬子にも衣装ってやつか」

「失礼ですね!おしゃれなイタリアンって言われてたんで、いつもより気合い入れたのに、合コンだったなんて最悪ですよ…」

からかってくる諏訪さんにげっそりとした表情で告げると、おまえ俺に感謝しろよ、とぼそりと言われた。そうだった。諏訪さんのおかげで風間さんが迎えにきてくれたんだった。ありがとうございます、と小さい声で返して部屋に向かった。奥のキッチンからはレイジさんが顔を覗かせて、おつまみの追加を作っているようだ。その後みんなで乾杯をして、合コンの様子を聞かれたり、いつものように雑談をしたりすると、あっという間に時間は過ぎていった。風間さんがお手洗いに立ったタイミングで、少し外の空気でも吸おうと思い、諏訪さんが煙草を吸っているベランダに出る。

「お前寒くねーのか」

「ちょっと外の空気吸おうと思って。お酒飲んでたんで、そんなに寒くないですよ」

「でもそういう格好してるとなんか変な感じすんな」

「そうですか?でも確かにボーダーでも大学でもなかなかワンピースとか着ないですもん。今日は特別です、諏訪さんのおかげで風間さんにも会えたけど特に何にも言われなかったしなぁ…」

「まぁ風間だしなぁ」

「そうなんですよねぇ。期待するだけ無駄ですよね」

どうせ私の片思いだし、と小さな声で呟いた独り言にまぁなぁ、と返してくる諏訪さん。自分では色々頑張っているつもりだけど、風間さんとの距離が縮まっている気は全然しない。期待しててくださいなんて、宣戦布告の様な告白をした自分を呪いたい気分だった。そのまま会話が途切れて、煙草を吸う諏訪さんと、ぼーっとベランダから外を見る私。しばらくそうしていると、窓が空いて風間さんから呼ばれる。

「ミョウジ、冷えるからそろそろ中に戻ってこい」

「えぇ、大丈夫ですよ。もう少し涼んだら戻ります〜」

アルコールでちょっとだけふわふわした頭で、もう少し感傷に浸りたい気分だった私は、大人しく部屋に戻ることを断った。

「トリオン体じゃないんだぞ、早く戻れ」

そうか、とでも言われると思っていたのに思っていたような返答は来なくて、戻ってくるように催促された。意外だ。仕方なく、はぁいと気の抜けた返事をして戻ろうとすると、諏訪さんが顔を覆って笑っていた。

「一体なんなんです?」

「いや、別になんでもねーよ」

腑に落ちないけど、これ以上窓を開けて待ってくれている風間さんに申し訳なくてそそくさと部屋に戻ろうとしたタイミングで、案外そうでもないかもな、という呟きが聞こえた気がして振り向くけど、 諏訪さんは外を向いて煙草を吸っていたのでそれ以上聞くことはしなかった。


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