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▼ 3馬鹿と昔の話

「いずみん先輩ってさぁ、なまえちゃん先輩のことめっちゃ好きだよね」

「おれもっと可愛い女の子が好きだけど」

「おいコラ」

はじまりは、隊室に向かう途中に3バカに捕まった時の、そんな緑川の何気ない一言だった。出水に好きって言われても鳥肌が立つし正直勘弁願うところだが、この反応は年頃の女の子に対するものではない。さすが非モテ男子。

「でもさー、何かとなまえちゃん先輩に絡みたがるじゃん。この間も二宮さんと3人でご飯行ったんでしょ」

「また焼肉な……」

本当にもう、二宮さんは。焼肉が好きなのはわかったよ。わかったからさぁ。もう少し女子高生の喜ぶ店をチョイスしてくれよ。そう思って、いやだめだ、と思い直す。先日のカフェの悲劇を思い出せ。とりまるがあの日店にいなければわたしのメンタルは死んでいた。ただ、確かに出水とご飯に行く機会は多いけど、二宮さんとのご飯に関しては他に行く人がいないというか。二宮隊とは女性が苦手な辻とクソ野郎犬飼のせいで行けないし、二宮さんと三輪と3人とかは本当に御免被る。一番当たり障りがないのが二宮さんと出水と3人。それはここ数年で出た結論だ。もちろん東さんがいる時は除く。東さんはもはや神だから。

「まあ出水はよくわたしの行く先々に現れるから実はストーカーなんじゃないかとは疑ってる」

「おいそれおれに対して失礼すぎるから絶対他のところで言うなよ」

「玉狛で喋ったわ」

「かわいそうだろ!おれが!!」

「そんだけ言われるわたしがかわいそうだとは思わないの?」

テンポよく進む軽口に、ほらやっぱり仲良い、と零す緑川と、笑う米屋。

「まあなんだかんだ出水は付き合い長いしね」

「まあ、なまえさんがB級上がってすぐくらいだもんな」

「まだ小さくてかわいかった出水くん……」

「初対面で人見知りしてめっちゃ静かだったなまえさんどこ消えたんだよ……」

お互いに出会った頃に想いを馳せる。出水が入隊した当初、同期である二宮さんに連れられてC級隊員の中で噂になっている射手を見にC級ランク戦ブースに顔を出したのが初対面だった。当時中学2年生だった出水は、今のようなふてぶてしさは表立っておらず、年相応だったという印象だ。そしてわたしはわたしで、初対面に対する人見知りがMAXだった時代と言うか、同期だった二宮さんにすら猫をかぶっていたと言うか、平たく言えばヲタ隠しをしていた。だからきっとあの頃会った人には初対面大人しい子に見えていたのだろう。

「え?なまえちゃん先輩が人見知り?」

「なまえさんが静かとかそれ別人だろ」

「か弱い女の子だから」

全員にスルーされた。おまえらのそういうところ大嫌いだ。当時中学生だったわたしがヲタ活に使う資金稼ぎのため、そしてなんか少年漫画みたいでかっこいいじゃん!とノリと勢いでボーダーに入隊し、あまりの女子の少なさと知らない人に囲まれた恐怖で縮こまっていたことを知らないやつらからしたら、想像もできないのであろうが。だからこそナマエさんを巻き込んだのだ。B級になったら部隊を組まなければならない。よく知らない人に四六時中囲まれるのは無理。B級に上がってすぐに、ナマエさんをボーダーに入れて、一刻も早く正隊員になって、と無茶振りした。まあ太刀川さんや迅さん、二宮さん等、人の都合も考えない人たちが多かったせいでナマエさんが正式入隊する前にボーダーである程度のコミュニティを築けていたわけだけど。

「人見知りのなまえちゃん先輩見たかったなぁ」

「緑川は初対面からバリバリ喧嘩売って来たじゃん」

「もーそれ忘れてよ!」

「一生忘れない」

宣言してやると、納得いかない様子の緑川にまとわりつかれる。やめろ。じゃあ人見知りのなまえちゃん先輩について詳しく、と返ってきて、緑川は一体何が知りたいのだろうか、とつい真顔になってしまった。ため息を吐いて、しょうがないから話しだした。わたしの黒歴史を。

* * *

「有望な射手が入ったらしい。見に行くぞ」

「えっ」

返事も聞かずにぐいぐいとわたしを引っ張っていく二宮さん。トリオン体になっても機動が低すぎるわたしでは攻撃手にはなれない。狙撃手と言うのも性に合わなかったので選んだ射手というポジション。華々しい攻撃手と東さんが作った狙撃手というポジションが人気のボーダーでは最も人口が少ないポジションだった。加えて、銃手というポジションまでできて、みんなそっちに移動していった。射手、楽しいと思うんだけどな。そんな中で同期入隊をした2歳上の二宮さんと加古さんは、貴重な射手仲間ということで基本人見知りであまり人にガツガツ絡みにいかないわたしをよく気にかけてくれていた。入隊当初からボーダーの中でも古株の小南が何かと話しにきてくれていたのでぼっちというわけではないのだが、小南は小南で超強いし、迅さんや太刀川さんといったトップを争う人たちと親しかったため、ずっと一緒というわけでもなかった。そうして連れてこられたC級ランク戦ブースで、一目で二宮さんが見に来た相手がわかった。わたしと同年代であろうその男の子は、わたしよりも大きいトリオンキューブを出して楽しそうにランク戦をしている。うわぁ。これは絶対才能マンだ。ランク戦はもちろん彼の勝利で終わり、ブースから出てきた彼に二宮さんが近づいていく。もちろん、わたしを連れて。近くで見ると、ますます幼く感じた。きっとこれから成長するのであろうあどけなさを残した少年の前に、目つきも態度も悪い高校生ニノミヤマサタカは遠慮なしに立ちふさがった。ひえ、威圧感がすごい。同期だったからよかったものの、わたしこれやられてたらボーダー入隊を考え直すレベル。

「なんすか?」

しかし彼は物怖じすることなく正面から二宮さんに問いかけた。さては心臓に毛が生えてるタイプだな。

「俺は二宮。B級の射手だ」

「へえ。同じポジションっすね。おれは出水公平。中2です」

年下だった。そっちは?と聞かれて、二宮さんの陰から仕方なく顔を出して、自己紹介をする。わたしのことなんて気にしなくていいよ。二宮さんに連れてこられただけなんだから。

「見どころのある射手が入ったと聞いた」

「それ、おれのことですか?」

「他にいないだろう」

そうですねすごい才能だと思います。だからわたしはここから離れたい。ねえ二宮さんめっちゃ目立ってる。目立ってるからさぁ!こそこそとその場から離れようと足を一歩引くと、即座に二宮さんがこちらを向いた。なんでわかるんだよ怖いよ。出水くんは面白そうに口角を上げたかと思うと、挑発するように二宮さんを見た。

「おれとランク戦、しません?」

めっちゃ好戦的かよ。びっくりするわ。正隊員になってから言え、と即答で断った二宮さんに、ちぇーと唇を尖らせたかと思えばなまえさんだっけ?そっちでもいいよ、と指名されてしまったため、二宮さんに助けを求めるが、素知らぬ顔をされるだけだった。連れてきたなら責任くらいとってくれ。いや、ちょっと、なんてもごもご言っても当然聞いてくれるはずもなく。無理やりランク戦ブースに連れ込まれた。

* * *

「いやおまえ昔からかわいくなかったわ」

「えーそんなことないだろ」

「あるある。くそ生意気だった。わたしのSAN値が削られまくった」

「それおれのせい?」

「おまえと二宮さんのせい」

初対面の話をすると、当時言えなかった怒りが沸々とわきあがってくる。どんだけ生意気だよ。米屋と緑川もうわー、という顔をしてわたしたちを見ていた。

「で、ランク戦はどっちが勝ったんだよ」

「わたしがバイパーでゴリ押ししてボコボコにした」

「訓練生に対して遠慮なさすぎだよな」

まあトリオン量で負けていてもさすがに訓練生に負けるはずもなく。胸の内をぶつけるように遠慮なくボコったら何故か懐かれ、やたらと絡まれるようになったわけだけど。しかもちょっとずつわたしのボロが出て今やこの有様である。本当に解せない。なまえさんはもうちょい大人しくしてた方がモテるよ、と言う出水を、今さら猫かぶったところでおまえらが台無しにするだろうが、と睨みつける。

「おれやっぱり今のなまえちゃん先輩がいいなあ…」

何を考えていたのか、今まで黙っていた緑川が不意に口を開いた。なんだこいつ。かわいいな。不覚にもきゅんときたので、出水と米屋は無視して緑川にだけジュースを買ってあげることにした。いやわたしもさすがにもうヲタ隠しも猫かぶりもできると思ってないししなくていいように今の隊を作ったわけなので今さら態度を改めるつもりは毛頭ないよ。ジュースを渡して緑川のふわふわの髪を撫でると、ぱしゃり、と音がする。

「なまえさん今度はショタコンに目覚める」

「ヲタの上にショタコンはきついよな〜」

「だからお前ら嫌いなんだよ」

わたしと緑川に携帯のカメラを向けている出水と米屋に向かってわたしが自分で買ったサイダーをかけてやった。そのまま携帯も壊れればいいのに。


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