▼ 風間隊とDVD鑑賞会
この間エッグベネディクトを食べに行った時にみょうじが取り付けてくれた約束により、今日は我が隊室でゲストに風間さんをお迎えして猫の恩返しの鑑賞会である。お菓子と牛乳のストックを確認しているときに私柚宇ちゃんのとこ行ってくる、というみょうじにお願いだから!お願いだからここにいて!!と懇願したのは先程の話だ。せっかくのチャンスなんだから頑張れよ、といいつつ渋々了承してくれて、そのあとすぐ来た風間さんとこたつに入ってムタさんについて談笑中である。自分の隊室でふわふわのクッションに囲まれながらお菓子を頬張る風間さんが見れるなんて…しあわせ、と思いながら私はみょうじの紅茶と風間さんと自分の分の牛乳をもってこたつに戻る。
「ありがとう〜」
「すまないな」
「いいえ」
「ミョウジも牛乳なのか」
「あ、はい。割りと飲んでます」
「いい心がけだ。しかし牛乳を飲まなければならないのはみょうじの方じゃないのか」
まさかのご指摘である。言っておくが私は決して身長のために牛乳を飲んでいるのではない。私の隊も含めて仲のいい女の子たちは胸の大きい子が多いので私のがだいぶさみしく見えるのだ。平均はあるが、藁にもすがる思いで牛乳を飲んでいる。むしろ何が悲しくて既にすきな人より3センチ高い身長を伸ばさなくてはならないのか。とばっちりで身長のことを指摘されたみょうじだけが殺伐とした視線を風間さんに送っているが当の本人は気づく筈もなく、お菓子を頬張っていた。みょうじをどうどうとなだめ、ディスクを再生する。しばらく三人でおとなしく猫の恩返しを見ていると、さぁちゃんがきた。
「あれ〜、鑑賞会今日だったんだっけ?」
「おはようさぁちゃん」
「邪魔している」
「どうぞ〜。私も見よっかな」
そう言ってみょうじの横に入ってきたさぁちゃん。
「あ、このあとムタさんがゼリーに落っこちちゃうんだよね〜」
「小鳥遊、ネタバレは良くないぞ」
「え、風間さん見たことないんですか?」
「いやある」
なんだそれ。見たことあるならネタバレじゃないんじゃ?そう思ったが、とりあえずネタバレNG派なんだなと思い、視線をテレビに戻す。すると今度はりっちゃんとみかみかが隊室に入ってきた。
「あれ、珍しいお客さんですね。風間さんお疲れ様です」
「ほんとですね。お疲れ様です」
「あぁ、邪魔している。三上も猫の恩返しを見にきたのか」
「いえ、そういうつもりでは…」
「りっちゃんとみかみかも一緒に見よ」
私が誘うと二人ともこちらに来たので、私はこたつから出てソファに座る。私がソファに座りますよ!と言ってくれるみかみかに、いいからりっちゃんと二人でお座り、と言うとお礼を言われて二人は並んでこたつに入った。そのままみんなでテレビを見ているとすみません、と歌川がやって来た。
「珍しいね歌川、どうしたの?」
「菊地原から風間さんも三上先輩もここにいるから連れて帰ってこいと言われまして…」
菊地原め。こないだみょうじとさぁちゃんに乙女ゲー見せられてから私たちの前には姿を見せていないが、二人がここにいるのがそんなに嫌なのか。
「いいよいいよ、歌川も猫の恩返し見よ」
「そうだぞ座れ」
風間さんにそう言われれば、おとなしく歌川も風間さんの横に入った。そうこうしていれば物語は佳境である。やっぱり何回見ても面白いよなぁと思っていると、ちょっと、という声に全員が振り向いた。
「みんなこんなところで何やってるの。早く隊室戻りましょうよ」
まさかの菊地原であった。わざわざお迎えにはこないと思っていたが、1人にされたのが余程おもしろくなかったらしい。猫の恩返し面白いよ、菊地原も一緒に見ない?と一応誘ってみるが、冷たい目でこちらを見て何も言わない。どんだけ私のこと嫌いなのこの子。さすがに傷つくぞ。
「そうだぞ。菊地原も来い」
今度は風間さんが菊地原を誘うと、風間さんが言うなら…と嫌そうな顔をしつつもこちらに向かってきた。まじで風間さんのことだいすきだな。こたつの前まできた菊地原は、歌川にちょっと邪魔なんだけど、と声を掛けた。確かに正方形のこたつで風間さんと歌川、みょうじとさぁちゃん、りっちゃんとみかみかが入っているので残っているのは完全にテレビの見えない場所か私の隣しかない。菊地原の頭には私と仲良くソファに座る、なんて選択肢はないだろうし、無言の圧力で歌川を睨んでいる。
「歌川、私の隣で申し訳ないんだけど、ソファにおいで」
かわいそうになった私が声を掛けると、嫌なんてことは!と焦りつつもこたつから出てすみません、と私の隣に座ってくれる歌川は本当にいい子だ。菊地原とは比べ物にならない。元凶の菊地原は歌川を退かして風間さんの隣を手に入れて、かなり満足気なのがちょっと気に食わないけど、何か言えば確実に噛み付かれるので大人しく黙っておく。そのままエンディングまでみんなで見終わって、風間さんを先頭に邪魔したな、お邪魔しました、と帰っていくのを見送る。すると珍しいことに、菊地原が私のところにやってきた。
「菊地原?みんな帰るみたいだよ?」
「…してよ」
「…ごめん、聞こえなかったんだけど…」
「…だからこのDVD貸してって言ってんの」
「!?菊地原がデレた…!?」
まさかの菊地原の申し出に驚きを隠せず叫ぶと、にやにやしたみょうじやさぁちゃんに絡まれ始め、心底嫌そうな顔で帰ろうとしたので、デッキからDVDを出してそっと持たせてあげた。後々歌川から、菊地原が猫の恩返しを気に入って隊室でよく見てますよ、と教えてもらい、なんだかわいいとこあるんじゃないか、と思ったのであった。