▼ 荒船に隊の仲を心配される
よくランク戦ブースに入り浸っている私は、今日も暇そうな人間を探している。ここにくれば誰かしら相手してくれるし、私は太刀川のように用事がある人間を無理矢理引き留めてランク戦挑んだりしない。みょうじが会うたびにランク戦挑んでくるとかどこぞの短パン小僧かよ、と言っていたがその通りである。ていうか太刀川が短パンとか本気で放送事故じゃない?やばくない?ウケる〜、とか下らないことを考えていると前方に荒船村上カゲを発見して声をかけた。
「ミョウジさん」
「こないだ太刀川さんとすごい鬼ごっこしたらしいですね」
え、その話?そんなに広まってる?
「いやあれは酷かった。最後には捕まって監禁されて永遠にランク戦させられて、出てきたら夜中だった。身も心もぼろぼろだしポイントはごっそり持ってかれるし酷い目にあった」
「むしろ何してそんなに怒らせたんだよ」
「出水と二人で太刀川のストックの餅全部食べた」
くだらねー!!という3人の目に耐えられず必死に弁解する。
「だってあいついつも私たちがレポート手伝ってるのにお礼に初めて寄越したのが缶ジュース一本とかやばくない!?」
私の言葉に全員がちょっと遠い目をした。ほんと太刀川そういうところだぞ。だから人望ないんだよ。
「しかもさ、怒ってるならよかったの。最初怒ってると思って逃げたのに、あいつ満面の笑みで追いかけてくんの。おいおいなんだよ楽しそうだな〜位の勢いで。やばいよほんと。確実に変態だよ、カゲとか気を付けなよ…」
「なんでおれなんだよ!」
「太刀川カゲとランク戦したがってたから…ほんと捕まらないように逃げるんだよ…」
私の一言でカゲが身震いした。そりゃそうだ。
「つーかミョウジさんてみょうじと仲悪いのか?」
「なんて?」
「はっ!んな訳ねーだろ」
ちょっと言われた意味がよくわからなかった。カゲが横で笑っている。確かにみょうじは女の子には優しいから私への当たりがきついのは周りから見てれば不思議なことなのだろう。でもそれはほぼ関わらない人たちからの評価で、荒船とか普通に私ともみょうじともある程度仲良しの人に言われるとは思ってもみなかった。
「みょうじって女子には基本優しいだろ。でもミョウジさんにはかなりきついし」
「みょうじは口は悪いけど悪いやつじゃないぞ」
みょうじは基本的には隊室に籠ってるけど、ランク戦ブースに来るのは機嫌が悪い時が多い。ほぼ犬飼のせいなんだけど。村上が一生懸命みょうじはいいやつだと荒船に伝えている。それを見て村上はいい子だなぁ、確かに荒船もちょっとみょうじとぶつかること多いしなぁと他人事のように考えていたけどさすがに誤解を解かなくては。
「私とみょうじの実家ご近所さんでさ。小学生の頃に私が田舎から引っ越してきてから家族ぐるみで仲いいの。だからみょうじなりに私に気を許してるんだろうなっては思ってるんだけど。当たりがきついのはもう慣れたよ」
それでも疑いの目を向ける荒船にカゲがぼそっと呟いた。
「大体仲悪いなら同じ隊に入れる訳ねーだろうが」
その一言で荒船がはっとしたように私を見る。カゲ、おまえもいいやつだよほんと。周りに誤解されやすいのがお姉さん悲しい。
「そうそう。まず私がボーダーに入ったのもみょうじに誘われたからだしね」
私もそう続けると、荒船はそうかとやっと納得したようだった。なんだなんだ。ちょっと隊の仲がぎすぎすしてるのかとか心配してくれたのか。荒船もいい子だね〜と言いながら背伸びして頭を撫でようとするとやめろと言われて避けられた。何故だ。きゃっきゃっしていると私の後ろから、楽しそうだなぁ。おれとも遊んでくれよ、と声がした。ロボットのようにぎぎぎと効果音がしそうな勢いで後ろを向くと、そこには先ほどまで話題に上っていた太刀川がいた。
「逃げろ!!」
私の一言でカゲと荒船が逃げ出した。カゲはものすごいスピードだった。今までに見たことないくらい。
「なんだよ酷いじゃねーか」
「おまえのような変態はかわいい後輩には近寄らせない」
「じゃあミョウジが相手してくれんのか?」
ぐぬぬ、と言いながらかわいい後輩たちのためには仕方ない。私が生け贄になろう。ポイントもこうなったら仕方ない。いいよ、と答えてランク戦ブースに太刀川と進む。
「おれも一緒にいいですか」
後ろから思ってもみなかった村上の声がした。おまえ逃げてなかったのかよ。なんて!なんていい子なんだ!太刀川も嬉しそうに村上に話しかけている。村上がかわいくてしんどい。そう思いながら、背伸びして頭をちょっと撫でると私の身長に合わせて少し屈んでくれる。ほんとかわいくてつらい。そんなことを思いながらランク戦ブースに向かったのだった。そのあと思った通りに太刀川にやられてポイントを持っていかれ、後日村上の頭を撫でたことがどこからバレたかわからないがみょうじに知られてしばらく冷たい目で見られ、荒船にまた仲が悪いのか心配されるのは別のお話である。