▼ 太刀川との関係を勘違いされる
大学で友達とごはんを食べ終わって談笑していると、私の後ろから伸びてきた腕を首に回される。誰だと思い後ろを見ると太刀川であった。
「よう」
「げ!!あんたなんでいるの!!」
「おいおいそんなこというなよ〜、レポートがやばいからな。昨日連絡しただろ」
「あ、」
そうだった。いつでもレポートを溜め込んで、単位もぎりぎりのこの男は、本部長か風間さんに監視されなければレポートの提出が出来ない。しかし二人とも忙しいので、今日は私が直々に監視を依頼されたのであった。私だって大して成績は良くないが、レポートは提出しているので、この二人の頼みなら仕方ないと渋々引き受けたのであった。
「よしいくぞ」
「ちょ!まってまって!引きずらないで!」
さすがに今回の提出が遅れるとランク戦禁止令が言い渡されているので、私の準備も待たず、太刀川は鞄を持って私を半分引きずって歩き出す。驚いている友達にごめんね!と伝えて自分で歩く体制を整えようとするが、身長差20センチでは止まってもらわなければ無理である。すれ違う人たちには変な目で見られるし、とにかく最悪としか言い様がない。既に依頼を引き受けたことを後悔している。
「太刀川!ボーダーじゃないんだから!ちょっと待ってってば!」
はっはっはといつものように笑いながらキャンパス内を進むこいつに、いくら尊敬する本部長とだいすきな風間さんの依頼でも殺意が芽生えた。結局半日みっちりレポートを手伝って、そこから自分の防衛任務をこなし、疲労困憊で本部の廊下を歩いていると二宮に会った。同い年だけど特に仲良しでもない私たちは、通常ならすれ違い様に会話などないのだが、今日は珍しく声をかけられた。
「ミョウジ」
「二宮じゃん、おはよう」
「おまえは太刀川と付き合っているのか?」
「はい?」
まってまってどういうこと?もう一回言ってもらっていいかな?それとも昨日からの激務でとうとう私の耳がおかしくなったのかな?私が風間さんのことすきなの知ってるよね!?と言おうとしてやめた。こいつはそういうことにはめちゃくちゃ疎いやつだった。わざわざ自分から大声で言うこともないだろうと思って口を閉じる。とにかく冷静になれ私。
「えーっと、なんでそんな話になってるの?」
「昨日大学のやつに聞かれてな」
昨日のあれか。ボーダーでなら私が太刀川に引きずられていてもみんなまたか、位にしか思わない。しかし大学は別である。むしろなんで二宮に聞いた。加古ちゃんか堤か来馬にでも聞いてくれればそんな話にはなっていないだろうに、なんでピンポイントで二宮なんだ。噂を流したやつも二宮に聞いたやつも真っ二つにしてやりたい。
「おぅどうした〜」
「太刀川!!」
タイミングよく現れた太刀川に私は掴みかかった。
「ちょっと!!昨日あんたが大学で私のこと引きずってたせいで、面白おかしく私たちが付き合ってるって噂が流れてるらしいんだけど!?しかもほんとかどうか二宮に聞いた馬鹿がいるんだけど!?」
「へぇ」
「へぇじゃない!!」
にやにやしている太刀川に本気で殺意が芽生える。
「とにかく二宮、それ嘘」
「ばれちまったら仕方ねぇなぁ」
「はぁ!?そんな訳ないでしょうが!!」
「そ、そうか」
こいつ…!!完全に面白がってやがる…!!この人でなし!!とりあえず太刀川は死刑だ。二宮も知らなかった!みたいな顔すんな!!
「待って二宮!嘘!嘘だから!」
いくら高校から同じクラスで割りと話す仲だとしても付き合ってるはひどいだろう。私にだって選ぶ権利はある。
「太刀川!早く!嘘だって言って!」
胸ぐらを掴んで揺するが、笑っているだけで否定してくれない太刀川と、無表情の二宮。ここは地獄か。誰か助けてくれ、と思っていると二宮の陰からみょうじが現れた。
「あれ〜、何してるんですか?」
「みょうじ!!」
話を聞いていたであろうみょうじはきっと私の味方である。隊室でも恋煩いをしている私をいつもうざそうに見ているのだ。知らない筈はない。
「ねぇ!私と太刀川って付き合ってないよね!?」
「そうだね〜」
「ほら!ね!違うでしょ!?」
「そうか」
とりあえず誤解は解けたと思っていいのだろうか。二宮にもちょっと苛っとしたので、みょうじを巻き込むことになるが、ねぇ、二人こそ付き合ってるの?と悪ふざけで聞いてみた。
「何!?」
「あーあ、二宮さん、ばれちゃいましたねぇ」
「なにを言っている」
みょうじもにやにやしながら話に乗ってくれた。
「え〜、なんでばれたのかな〜」
きゃっきゃっと心底楽しそうに二宮に絡むみょうじと、うざそうにため息をつきながらもかわいがっているみょうじのお遊びに付き合ってやっている二宮。え、なにこれ。私何見せられてるの。自分から振った話とはいえ、二宮のみょうじの溺愛ぶりを間近で見せられた私は、太刀川を置いてふらふらとその場を後にしたのだった。