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▼ 玉狛と二宮隊と焼肉

「あー!なまえちゃんだー!」

「おいやめろ来るな土に還れ」

手をわきわきさせながら迫る小南と栞ちゃんと怯える辻、辻をガードするひゃみちゃん。すでに十分カオスになっているというのに、犬飼が小南たちの真似をしてわたしに迫ってくる。大人しく三雲くんと話してろよ。三雲くんを盾にして犬飼から距離をとった。この場で最強の盾は二宮さんなのだが、二宮さんを盾にして万が一にでも近くに座らされたりしたらまた二宮さんの焼肉奉行が始まってしまう。今日は玉狛のかわいいこたちと楽しく焼肉を食べにきたのだからなるべく近寄りたくない。

「小南ちゃんおれとも遊んでよー」

三雲くんを盾にし続けるわたしに飽きたのか、犬飼がへらへらしながら今度は小南にちょっかいをかける。

「えー。犬飼先輩には初々しさが足りない」

「わかる。人徳もない」

「なまえちゃんそんなにおれと焼肉食べたいの?」

「は?引っこんでろよ」

わたしの小南にちょっかいかけてんじゃねーぞ、と中指を立てると、下品ですよ、とひゃみちゃんに注意されてしまった。しまった。ここには千佳ちゃんがいたのだった。慌てて中指をしまい、千佳ちゃんを振り返るが、見ていなかったようで、首を傾げている。こんなかわいい後輩を犬飼なんかの毒牙にかけるわけにはいかない。以前のランク戦で千佳ちゃんを追いかけ回してたの知ってるんだからな。千佳ちゃんを犬飼からできるだけ遠くに座らせて、わたしは栞ちゃんの隣に座る。栞ちゃんの正面に千佳ちゃん、反対隣に小南、小南の正面に三雲くんという席順である。何食べる?とわいわい話す中でもやしナムル、と言うと栞ちゃんの向こう側の小南からあんたあたしを馬鹿にしてんの、と睨まれてしまう。べつに小南のお財布事情の話じゃなくて、ただわたしがもやしナムルが好きなんだよ。二宮さんたちと行くと肉ばかりお皿に乗せられてなかなか食べられないからたまにはもやしを食べさせてくれ。小南にカイノミを頼ませようとするクソ野郎犬飼の奥で二宮隊分のドリンクを注文する二宮さんはいつものようにジンジャエールを頼んでいた。

「東さんが好きなのなんだっけ?」

「ギアラ(第4胃)」

「さすが東さんって感じのセレクトだよね」

東さんだってまだ若いんだからカルビとかロースとかタンとかさ、なんかいろいろあるじゃん。どうしてギアラなの。いや美味しいんですけどね。さっきのことを根に持っているらしい小南にもやしナムルよりマシじゃない、と言われてしまって黙りこむと、千佳ちゃんがわたしも好きです、もやしナムル!と慰めてくれる。いいこ。頭を撫でてあげたい。次々に注文したお肉が運ばれてきて、各々焼き始める。なんか自分で焼くのすごい久しぶりだ。いつもトングは置いてお皿に肉が乗せられるまで待機の姿勢だったから楽しくなって千佳ちゃんの分もお肉を焼いてあげる。もちろん、無理に食べさせたいわけではないので食べられる?と毎回お伺いを立てて。二宮さんわかる?これが気づかいだよ。これからはわたしにもそうしてね。ちらりと二宮さんに視線を向けると、まったくこちらを見ずにジンジャエールに口をつけていた。ねえそういうとこ。

「この肉あたしが育ててるから。ウェルダンまでいくから」

「ウェルダンはステーキでは……?」

「思う存分焼かせてあげれば満足するかそっとしておいてあげて」

「なによ、美味しくてもあげないからね」

「わたしはどちらかというとレアが好き」

レアもステーキでは、と冷や汗をかく三雲くんを余所に、トング片手に小南と張り合う。でもお腹壊したら大変だから千佳ちゃんにはよく焼いて渡している。何をあげてもおいしそうに食べてくれるから見ているだけでわたしはハッピーです。

「三雲くんすごいね……女子と4対1でごはんとか……」

「そういえばそうですね」

辻が三雲くんに尊敬のまなざしを送っている。多分犬飼も女子と4対1でごはんくらいできるだろうし隠岐に至っては10人の女の話を聞き分けられるわけだから10対1でも大丈夫だと思うんだ。年下の男の子よりもまず身近な人間を見習った方がいいんじゃないだろうか。辻が犬飼や隠岐みたいになるのはちょっとアレだけど会話が成立するようになるのは非常に助かる。しかし三雲くんはお母さんがとても若くて美人なので、きっとその為であろうと結論付けられる。大規模侵攻のあとに三雲くんの病室で挨拶したけど、確かにすごい圧だった。育った環境というのはやはり大きなものなのだろう。

「あっ!この子はまたごはんばっかり食べて!」

「お米おいしいです」

「千佳ちゃんお肉!今お肉焼いてるから!」

「お肉ももっと食べて!お肉も!」

なんでもおいしそうに食べてくれるのはいいんだけどお米ばっかり食べる千佳ちゃんに3人がかりで肉を乗せていく。はっ。これでは二宮さんと変わらないのでは。非常に残念なことにいつもの二宮さんの気持ちがわかってしまった。いつもありがとうございます。仏頂面でなおもジンジャエールを飲み続ける二宮さん以外が隊の垣根を越えて盛り上がっていると、話題はまた辻の女嫌いに戻っていく。今のところ辻がまともに話せる女の子はひゃみちゃんと鳩ちゃんだけだと言う犬飼が、なまえちゃんはまだダメ?と尋ねる。

「みょうじ先輩は…最初からずっと怖いので」

「わかるー」

「9割9分犬飼のせいでしょそれ!」

完全に答えがわかってて聞きやがった。性格が悪いにもほどがある。辻との初対面時、いつものように腹立つことばっかりしてくる犬飼にかなり苛立っていたのだ。わたしが並べ立てる罵詈雑言に辻の顔色がどんどん悪くなっていくのをみて大笑いしていた犬飼を思い出すだけで今でもぶん殴りたくなる。わたしの機嫌が悪くなっているのを感じたのか、辻が必死にわたしを見ないように鳩ちゃんの話を始める。いなくなってしまった鳩ちゃん。どうしていなくなったのかは公表されていないし、首を突っ込む気もなかった。元々同じクラスだったし結構話をしていたのだが、いなくなってしまう直前は、声をかけても顔色を悪くして逃げてしまうだけだった。当真に、ついに鳩原いじめたのかよって言われたのは今でも根に持っている。二宮隊の面々がぺらぺらと鳩ちゃんについて話しだすのを肉ともやしナムルを食べながら聞き流しているが、三雲くんと千佳ちゃんには他人事ではなかったらしい。無断で近界に行ってしまったというのもわたしは初めて聞くことだった。あんた知ってたの、と栞ちゃん越しに小南に小突かれて、首を横に振って否定する。

「面倒事には首を突っ込まないが信条だから」

「その割に玉狛には肩入れするよねぇ。面倒事ばっかりじゃない?」

「優先順位ってものがあるでしょ」

少なくとも、自分の信条を曲げてもいいくらいにわたしにとってかわいい後輩たちであるということだ。出水たちや犬飼にはそこまでの好感度がないので、死んでも信条を曲げないけれど。どんなにめんどくさがりでも、一生懸命頑張っている子たちは応援したくなるのが人間というものである。全然会ったこともないのに高校野球見てると応援したくなっちゃう的なあれだ。三雲くんがどんどん面倒事を抱え込んでいくから、手を貸してあげたくなってしまう。犬飼にはない人徳というやつだ。そして話題は当然、次のランク戦に移っていく。こちらもなるべく首を突っ込まないようにするが、性格の悪い犬飼に次々に手札を暴かれていく小南に頭を抱えてしまった。そりゃね、小南にはそういうの向いてないけどね。三雲くんたちがかわいそうだから嫌とか言ってないで小南と席かわっておけばよかった。二宮さんたちは当然ヒュースが近界民だと知っているからいいものの、これでもし本当に小南のうっかりでバレてしまったら笑えない。素直なのは悪いことじゃないけど犬飼みたいなやつに利用されてしまうからね。

「ちょっと犬飼、小南引っ掛けるのはもうやめてくれる?擦れちゃったらどうするの」

「いやー、小南ちゃん素直でおもしろくて」

「あんたの相手は小南じゃなくて三雲くんたちでしょ」

小南も、嘘つくの下手なんだから余計なこと言わずに黙っときなよ。歯に衣着せずそう言うと、小南は何よ!と拗ねつつも、やらかした自覚はあるようでそれ以上反論はしてこなかった。

「……上がるぞ」

「あれっ。まだ駆け引きの途中なのに〜」

「嫌がらせの間違いじゃない」

「みょうじ、お前も他所のチームに肩入れしすぎるな」

ひたすらジンジャエールを飲んだ挙げ句に伝票を持って立ち上がった二宮さんに小言を言われてしまったので、はーい、とほどほどに返事をした。うちのチームはべつに遠征目指してる訳じゃないし、正直固定給がほしいだけなのでB級落ちしなければそれでいいんだけど、それを言っても睨まれるだけなのは知っている。三雲くんが以前二宮さんと交わしたらしい約束を口に出すが、二宮さんの表情は微動だにしない。いつもはもうちょっと眉間への皺の寄り方とかで機嫌がわかるんだけど今日は通して無表情だったしずっとジンジャエールを飲んでいたから、もしかしたら二宮さんも三雲くんたちを警戒しているのだろうか。

「…………俺の答えはその時と同じだ。選ばれてから言え」

上着を羽織ながらかっこつけて出ていった二宮さんとそれに続く二宮隊の隊員たち。辻は最後まで女性の多い空間に馴れることができなかったらしく、気まずそうに頬を赤らめていた。それを見送って、ぼそりと呟く。

「二宮さん、この流れでうちらの分も払ってくれてたら超かっこいい大人だったのにね」

わたしもそう思います。そう言ってくれるのを期待していたのに、残念ながらちょっと吹き出した栞ちゃん以外にはスルーされてしまった。そして本当に奢ってくれた小南に後で半分くらいお金を渡そうとしたらめちゃめちゃ怒られた。いやお姉さんだしさ?一応さ?あまり食い下がると小南の機嫌が悪くなっていく一方なので、素直にお礼を言って玉狛支部に戻るみんなとは店の前で別れた。そういえば最近とりまるを見てない気がする。バイトが忙しいのだろうか。ところでライバル同士で焼肉屋で出会ったのに焼肉の王子様が始まらなかったのはやっぱり罰ゲーム要員の乾先輩がいないからだと思うので、明日からはさぁちゃんと乾汁の研究に精を出したい。


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