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▼ エイプリルフール

「わたし、ボーダー辞めようと思うの」

神妙な顔で、朝一番にラウンジで一緒に春休みの宿題をやっている同学年の面子にそう告げる。しかし、全員全く動じた様子はなく、へー、と適当な返事が返ってくる。ねえ、冷たくない?さすがに冷たくない?わたしが辞めても寂しくないの?一番近くの今ちゃんの肩を掴んで揺さぶると、やめて、と手を振り払われた。普通に傷つく。わたしたちの友情ってその程度だったんだ……とあからさまに落ち込んで見せると、宿題をやらずにゲームをやっていた歪みない柚宇ちゃんが笑いながらさすがに今日がエイプリルフールだってことくらいみんな知ってるよ〜と頭を撫でてくれる。そもそも興味なさそうなカゲに、わたしをバカにする当真、まぁさすがにねぇ〜と同意するゾエさんや荒船、犬飼。ちょっとまて、犬飼なんでおまえここにいるんだよ。隊室へ帰れ。

「さすがにみんな騙されるとは思ってなかったけどさぁ〜もうちょっとノってくれてもいいじゃん」

ねえ、とゾエさんを見ると、ゾエさんも鋼くんまで無反応とは思わなかったかな、とそれまで一言も喋らなかった村上へと視線を移す。みんなの視線が集まった村上は、ちょっと視線をそらして、口元に手を当てていた。

「………いや、咄嗟のことで驚いて反応ができなかったんだ」

「わたし、村上、すき」

「それもエイプリルフールか?」

苦笑する村上に、エイプリルフールじゃない!とどれだけ否定しても犬飼や当真に茶化されて伝わらない。えっ村上騙されてくれてたの。しかもわたしがボーダーやめるとショックなの?えええ。結婚しよ。まあせっかくのエイプリルフールだから、とみんなそれぞれ嘘吐こうか、等と話をしていると、防衛任務が入っているらしい荒船と影浦隊のふたりが席を立つ。ぼちぼち解散することになったのだが、最後に犬飼にだけ、あんまり酷い嘘吐くと辻が可哀想だからやめなよ、と釘をさした。

「なまえちゃんと付き合いはじめたとか?」

「いやそれわたしが可哀想だからやめろよメテオラぶつけんぞ」

「はいうっそ〜そんなおれの趣味が疑われるような嘘つきません〜」

「……………離して村上。こいつぶっとばなさきゃ気がすまない」

「落ち着けみょうじ」

今にも殴りかかりそうなわたしを村上がおさえる。そんなわたしを見てにやにや笑っている犬飼は本当に腹パンくらいしないとこのイライラは解消されない。じゃあね〜と軽やかにラウンジを出ていく犬飼を村上に解放された片腕で中指を立てて見送った。今度絶対ぶっ飛ばす。村上もランク戦をすると言って荷物をまとめてランク戦ブースにいってしまい、当真も気がつくといなくなっていた。残されたわたしと今ちゃんと柚宇ちゃんの3人。柚宇ちゃんさっきまでで本当に全く宿題に手をつけてなかったけど新学期大丈夫なのだろうか。今ちゃんも呆れたように後でちゃんとやんなさいよ、と言っているが、柚宇ちゃんはどこ吹く風だった。新学期に宿題忘れました〜と笑っている姿が想像できすぎてやばい。一旦柚宇ちゃんからゲームを没収するとすごい恨みがましい目で見られてしまった。気持ちはすごいわかるけど柚宇ちゃんが宿題やらないで怒られてもっと課題出されて最終的にわたしと今ちゃんが苦労するのが目に見えているのだ。ほら宿題だして、と促すが、柚宇ちゃんは出された宿題のほんの一部しか持っていなかった。本当にやる気なかったんだな……。途中で今ちゃんも支部に戻るわ、と後をわたしに託して席を立つ。鈴鳴も大変そうなのいるもんね。新学期始まる前に遊ぼうね、とだけ言って見送って、また柚宇ちゃんに向き直る。

「なんで休みなのに勉強しなくちゃいけないの〜」

「この世の不条理ってやつかな。そういう不条理を乗り越えて人は強くなるんだよ」

「不条理とは徹底的に戦わないと」

「柚宇ちゃんって割と好戦的だよね」

さすが太刀川隊、と話していると、噂の太刀川隊の好戦的な射手がちびっこ攻撃手緑川を連れてラウンジに駆け込んできた。後ろには米屋の姿も見える。

「なまえさんボーダー辞めるってまじ!?」

「やだよなまえちゃん先輩!辞めないで!」

「なんだよいきなり」

わたしの肩を掴んで揺さぶる出水に、揺さぶられているわたしの腕を掴む緑川。ごめん、さっきの今ちゃんの気持ちがすごくわかった。やめろ!はなせ!とふたりを引き剥がすと、緑川が涙目で見上げてくるので、うっ、とわたしの中の良心が疼く。中学生の男子を泣かせてしまったなんて太刀川さんに知られたら何を言われるかわからない。ていうかなんでわたしがボーダーを辞めると思ってるのこいつら。唯一普通な米屋に何があったのか問いかけると、犬飼に会ったらしい。それだけで何があったのか察してしまった。ついに本当の引きこもりになって家から出ないつもりだろ!不健康だぞ!と失礼極まりないことを言ってくる出水に蹴りを入れて黙らせる。

「だってなまえちゃん先輩が言ってたって……」

「いつもの嘘かと思ったけどラウンジでほかの人たちも聞いてたって言うから……」

「出水も緑川も落ち着け。今日は何月何日?」

「日付なんて今は関係ないじゃん!」

「………と思うんじゃん?」

米屋がスマホの画面に日付を出水と緑川に見せる。
4月1日。表示されたその日付に、ふたりが硬直する。自分で撒いた種とはいえ、まさか広まっているとは思いもしなかった。エイプリルフール、と呟いた出水がキッ、とわたしを睨み付けてくる。おい待てなんでわたしが睨まれるんだ。

「どうせそんなことだと思ってたよ!なまえさんの馬鹿野郎!」

「野郎ではないな!」

走り去ってしまった出水の背中にそう声をかけるが、聞く耳を持たずにどこかに行ってしまった。生意気だけどかわいいところもあるじゃないか。対する緑川はわたしをじーっと見つめて、真顔でなまえちゃん先輩そういうとこ本当よくないと思うよ。とマジなダメ出しをしてきた。だからわたしのせいではなくないか。難しい顔で宿題と向き合っていた柚宇ちゃんの自業自得ではあるけどねぇ、というのんびりした声がするが、わたしが嘘をついたのは同学年のさっきいた人たちのみで、そこから広まったのは犬飼のせいである。直接的に出水たちに嘘をついたのは犬飼なので怒られるべきなのは犬飼くそ野郎ではないだろうか。しかしまあわたしがいなくなる心配をしてくれたかわいい後輩のために、ごめんね、と謝って好きなジュースを買ってあげようとお財布を取り出したら、緑川はまた真顔でいらない、と言ってラウンジから去っていった。緑川駿、反抗期の到来である。残された米屋がドンマイ、と親指を立ててこちらに向けてきたので、その親指を逆の方向に曲げてやった。痛がる米屋に手を振り払われて文句を言われたので、柚宇ちゃんを指差した。

「米屋は宿題終わったの」

「俺用事思い出した」

すたこらと逃げていく米屋にはきっと三輪や奈良坂に怒られて蓮さんに冷たい目で見られる未来が待っているのだろう。副作用がなくてもわかることだった。そんな一部始終を見届けた柚宇ちゃんは、そろそろ宿題と向き合うのが限界らしく、わたしも隊室戻る〜と宿題を片付けて立ち上がった。また明日宿題やるよ、と心を鬼にして言うと必殺聞こえないふりでまたね〜と手を振ってラウンジから出ていった。あれは絶対やらない。今ちゃんには怒られると思うけど、春休み最終日にでもわたしの宿題写させてあげよう。わたしも隊室戻るかな、と立ち上がってラウンジを出ると、とりまるとレイジさんに遭遇した。どうしたの珍しい。なんでも本部に用事があるのはレイジさんだけで、とりまるはレイジさんについてきただけとのことだ。レイジさんがとりまるに少し待ってろと言ってとりまるとわたしの分のジュースを自販機買って渡してくれる。あれ、わたしもここで待ってるの?まあとりまるをひとりにしたら無駄に女子に絡まれそうだよな。そういえばとりまる新学期からうちの高校だっけ。早いなぁ、とぼんやり考える。先月嵐山さんが卒業したの辛すぎてめっちゃ泣いた。学校であの顔を見るのがわたしの楽しみだったのに。でも今年からはとりまるがいるならそれはそれで楽しみである。

「ボーダー、辞めるんですか?」

「それ誰に聞いたの」

「噂になってましたよ」

「嘘だから」

「知ってます」

エイプリルフールですよね。察しがよすぎる後輩だった。出水たちみたいに取り乱されるのも困るがこれはこれで面白くなかった。とりとめない話をしながら随所に嘘を散りばめるが、次々に看破されていく。つまらない。すると、レイジさんから連絡がきたのか、スマホを弄ったとりまるがそういえば、と切り出した。

「俺、なまえ先輩のこと好きです」

ぴしり。頭と身体が動きを止めた。エイプリルフール。さっきまで散々遊んでいたからわかってる。でも、吐く嘘の性質が悪くないだろうか。嘘だってわかっててもとりまるのようなイケメンに好きだと言われたら否応なしにドキドキしてしまうだろう。大きく深呼吸をしてから、とりまる、と名前を呼んだ。無表情のままはい、と返事をしたとりまるに向き合い、腕組みをしてふんぞり返る。

「あのねえ、知らないかもしらないけど」

「はい」

「エイプリルフールに嘘ついていいのは午前中だけなんだよ」

既に時計は12時過ぎを示している。嘘をついていい時間は終わっているのだ。つまり、とりまるは誤爆でわたしに告白をしてしまったという訳である。まあ、わたしは心が広い先輩なので後輩の失敗を意地悪くつついたりしないけれど。これが出水や米屋だったら一生つついてやったけどな。とりまるの反応を窺うも、特に変わった様子はなくいつもの無表情を貫いている。レイジさんの弟子だからってそういうところまで継承しなくてもいいと思うんだよね。

「知ってます」

「は、」

「嘘ですけど」

「〜〜〜〜ッ!!」

完全にからかわれた。絶対ありえないけど本当に告白かと一瞬思ってしまった。そりゃエイプリルフールとか関係なしに日常的に小南に嘘ついてる男だしね。そりゃね。そうは思うものの怒りゲージが急上昇したのは事実で、なんて言葉にしたらいいかわからず口をパクパクさせる。そんなわたしの様子を見て、めずらしく口元をゆるませたとりまるがすぐに口元を手で覆って肩を震わせ始めたので、わたしの怒りゲージはさらに上昇していく。そして頂点に達したので、身体を丸めているとりまるの頭に思い切りチョップをした。

「焼き鳥にされてしまえ!」

我ながら意味不明な捨て台詞を残して、逃げるように隊室のこたつに引きこもってやった。万が一とりまるが隊室にきても大事なようにさぁちゃんのBLゲームでもつけておこう。


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